AIが生み出す自動運転の未来は一本道ではない
デンソーアイティーラボラトリが見据える自動運転のロードマップとは(2/2 ページ)
画像認識に必要な演算量を大幅に削減するバイナリ化技術を開発
岩崎氏によれば、自動運転に必要な機能は大きく4つに分けられるという。走行環境認識、車両運動制御、ヒューマンマシンインタフェース(HMI)、そして社会インフラとの情報通信だ。
社会インフラと情報通信をする、いわゆるコネクテッドカーであることが高レベルの自動運転では求められると岩崎氏は語った。モバイルネットワークを通して新たなサービスや運転診断情報、走行情報などをクラウドサービスとやりとりする。そこに新たな機能やサービスが生まれる。この観点から見れば、自動車はビッグデータを収集し、活用するIoTデバイスともいえる。
4つの機能それぞれにAI技術がもたらす大きな恩恵があるが、その中から分かりやすい例として岩崎氏が紹介したのが、走行環境認識とHMIの部分だ。デンソーアイティーラボラトリは、入力された画像を分析して瞬時に歩行者を認識する仕組みを開発している。2014年には世界に先駆けてディープラーニングを使った実時間での歩行者認識を実現。単眼カメラの画像から歩行者を認識し、距離や身長、体の向きを高精度に推定してみせた。ディープラーニングが広まる前だったので、機械学習の関連学会でも話題になったという。
ディープラーニングにより画像内にある幾つかの特徴を抽出して、歩行者かどうかを判断する。「課題は計算量にありました」と岩崎氏は明かした。1回の画像認識には数十億回の積和演算が必要で、現在商用化されている画像認識システムは専用ハードウェアによる処理で対処している。デンソーアイティーラボラトリが開発したバイナリ化技術を使えば「演算量を大幅に減らすことができます」と同氏は説明した。
画像認識に必要な計算をする際、CPUへの負荷が大きい浮動小数点演算ではなく、より単純なビット演算を使うのが、デンソーアイティーラボラトリの手法だ。画像内の特徴をバイナリ(2進数)で示した数値を特徴量とすることで、ビット演算を可能にする。有効な演算結果を得るために、特徴量のバイナリ化に工夫が必要だと岩崎氏は言ったが、その効果は大きい。100層を超えるディープニューラルネットワーク(DNN:多層化したニューラルネットワーク)の演算において、メモリ消費量をバイナリ化実験以前の20分の1に抑え、計算速度は15倍という結果を得ているとのこと。
自動運転をより良いものにする技術も着々と研究開発中
講演終盤は、自動運転に特化した話題が中心となった。例えば車両の自己位置を推定する方法や、車内センシングとその結果に基づくドライバーとの対話などだ。車両の位置推定はGPS(全地球測位システム)を使えばよさそうに思えるが、自動運転に使えるほどの精度は得られない。高速道路のようにレーンが明確なシーンではレーン検出による自己位置推定ができるが、レーンが入り組み、消えかけている部分も多い一般道ではこちらも有効打にはならない。
デンソーアイティーラボラトリで研究中の技術は、画像と地図の照合による自車位置の推定だ。車両の前後の画像と地図データを重ね合わせることで、自車位置を推定する。「自動運転では左右への振れが大きな課題になるのですが、この技術を使うことで横方向に14センチ程度の精度で自車位置を推定できるようになりました」(岩崎氏)
車内センシング技術やHMIの分野では、ドライバーの顔を認識して疲労状態を推測したり、音声によるドライバーとのコミュニケーションを研究したりしているとのこと。こちらでも先述のバイナリ化技術を応用し、小型コンピュータ「Raspberry Pi」程度の演算能力でもドライバーの顔および目鼻などのパーツ検出を可能にしている。ドライバーの状態を察して運転支援してくれるような、自発的に気を使ってくれるような自動車が現れる日も遠くないかもしれないと、胸躍る講演だった。
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