故障予知、運転効率向上
東京電力FPが発電所監視サービスをAWSで開発 7億円以上のコスト削減
燃料事業や火力発電事業を手掛ける東京電力フューエル&パワー(東京電力FP)は、AWSに火力発電所のリモート監視システムを構築。他社向けサービスとしても展開している。
東京電力グループにおいて燃料事業や火力発電事業を担う東京電力フューエル&パワー(以下、東京電力FP)は、事業の効率や安全性を高めるために、この数年をかけて「DAC」(Data monitoring and Analyzing Center)というリモート監視センターを作り上げてきた。同社の火力発電所を監視するだけでなく、他社向けサービスとしても展開。クラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)に構築したシステム群と東京電力FPが持つ火力発電所運営ノウハウで、世界各国の発電所運営をサポートする。
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クラウド活用でコストを削減する
火力発電所を中心に風力発電や一般プラントの監視にまで使えるサービスを開発
東京電力FPのDACは2018年1月に運用を開始した。発電所の運転状態の可視化、設備不具合の早期検知、発電効率管理などが主な機能で、IoT(モノのインターネット)を駆使したデータ分析で異常を早期発見、アラートを発報する。AWSの年次カンファレンス「AWS Summit Tokyo 2018」において東京電力FPの鎌田嘉文氏(O&Mビジネス部営業統括グループ)は次のようにDACのメリットを紹介した。
「これまでに蓄積してきた火力発電所の運営データを機械学習させることで、故障の予兆をも検知できるようになりました。さらに熱効率管理もシステム化し、燃料費の削減を実現しています」(鎌田氏)
従来、設備不具合の予兆を見つけたり発電効率を向上させたりするには、オペレーターの勘と経験に頼るしか方法がなかった。そこに予兆管理ソフトとしてGeneral Electric(GE)の「Enterprise Impact」とEngineering Consultants Group(ECG)の「Predict-IT」を使ってシステム化した。OSIsoftのデータ収集管理ソフト「PI System」に蓄積された過去5年分の発電所運転データや10年分のトラブルデータを教師データとして機械学習をさせ、軸受けの振動からシールリング(液体の浸入を防ぐ部品)の破損を予知するなど故障の早期発見を実現。不具合検知機能が強化され、導入試験では計画外停止日数を10~20%程度削減できることが分かった。またCurtiss-Wrightの熱効率管理ソフト「PEPSE」「PMAX」により熱効率や性能管理も強化され、総合的なコスト削減額は2017年度の1年間だけで7億円を超えた。プレスリリースによれば、発電所1基当たり約7000万円の燃料コスト削減効果を示したという。
社外にはこのシステムに加え、アラートへの対応提案までを含めたDACサービスとして提供している。サービスの肝は、システムだけではなくこれまでに蓄積してきた発電所運営ノウハウを持つ点にある。東京電力FPの亀井宏映氏(技術サービス部電源設備技術ユニット)は、「一般的に、アラートだけで事象が分かることはほとんどありません。DACサービスでは機器を熟知した設備のエキスパート集団が事象を分析、診断した上で、原因究明から対策まで一貫した提案をします」と述べた。
定期的にKPI(重要業績評価指標)を示した報告書を作成し、サービス利用者の運営効率化に向けたPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルにも寄与する。主な対象は火力発電所だが、同様のノウハウを生かせる風力発電所や一部プラントの運営者にも利用してもらいたいサービスだという。
DACのシステムはAWSに構築し、オペレーターはリモートデスクトップ接続で監視コンソールにアクセスする。システムをAWSで完結させることで、セキュリティを確保する考え方だ。エンドポイント管理さえ徹底すれば、オペレーターが対応する場所や時間は問わない。発電所は24時間運転することが前提なので、移動先や出張先でも即時対応を求められることがあるが、どこにいてもセキュアな環境で業務に当たれる仕組みになっている。
約3年をかけたプロジェクトを通じて知ったクラウドの有用性
東京電力FPがDAC構築プロジェクトをスタートしたのは、2015年11月。まず手を付けたのは、異常発生の予兆を検知するソフトウェアの選定だ。重視したのは「見て、触って、調べて、考えて、話し合う」ことだったと亀井氏は当時を振り返る。
「コスト削減につながりそうな技術を探し、触れて、調べて、話し合いながら実際に採用するソフトウェアを探しました。あれもできそう、これもできそうだと夢を広げてから、現実的な解を探って絞り込んでいきました。結局、10種ほどのソフトウェアを検証しました」(亀井氏)
検証環境は東京電力グループ内にオンプレミスで構築した。次から次に新しいソフトウェアを持ち込み検証環境の構築を依頼するうちに、東京電力のシステム部門からは「本当に1つに絞り込んで実装する気があるのか」と言われたそうだ。東京電力グループ全体のITを運用、保守しつつ、東京電力FPからソフトウェアが持ち込まれるたびにサイジング、サーバの準備などをしていたのだから仕方ない。
「システム部門の協力を得て、Enterprise ImpactやPredict-IT、PEPSE、PMAXの選定へとこぎ着けました。しかし振り返ると、社内システムを使って検証したのは間違いだったと考えています。社内システムは社内業務のためにシステム部門が構築、運用しているものですから、顧客向けサービスの開発においては別システムを用意すべきだったのではないかと。つまりクラウドの活用ですね」(亀井氏)
亀井氏がクラウドに目を向けた理由は他にもあった。検証環境の構築を繰り返すうちに、スピード感が足りないと感じたという。「システムは本来、計画的に作らなければならない」という大前提を語りつつ、顧客向けサービスではそれが簡単ではないと亀井氏は言う。サービスを使いたいという新規顧客がいつ現れるか分からない。あるいは既存顧客がサービス利用を急に取りやめることもあり得る。オンプレミスでは、これらの要望に応えるだけのスピード感が得られない。自社内に設備を持てば、機器故障への対応も必要になる。
余分に機器を用意し、冗長化することでスピード感、機器故障への対応は可能になる。しかしそこまでして社内に設備を持つよりも、クラウドを利用することを選んだ。メリットはスピードとコストだけではない。これから増え続けるだろうデータ量に合わせて柔軟に拡張可能で、固定資産償却期間の影響を受けずにサーバの更新もできる。セキュリティの面でもクラウドの方が有利だと、亀井氏らは結論付けた。
AWSによってグローバル展開時にもセキュリティを確保
過去データを使い、選定したソフトウェアの動作検証を進める傍らで、DACを構築するクラウド環境を選定した。選んだのはAWSだ。選定ポイントは4つあったと亀井氏は語る。
「セキュリティ設計が堅牢(けんろう)なことが、まず大前提です。次にダウンタイムが少ないこと。発電所は24時間稼働していますから、監視システムにも同じだけの信頼性が求められます。世界各地にリージョンがあり、海外展開時にも適切なリージョンを選べる点も魅力です。そして、現段階ではAWSがクラウドサービスのルールメーカーであり、動向を先取りしやすいことも大きいと考えました」(亀井氏)
AWSはセキュリティ関連の機能が豊富にあり、これらを適切に組み合わせることでユーザー企業の求めるセキュリティ要件を満たせる。サービスとして提供されているので、オンプレミス製品のように購入して試す必要がなく、トライ&エラーで必要な機能を組み合わせることができた。
発電設備の技術発展になじんできた亀井氏らにとって、ネットワークのセキュリティ技術は正反対の方向に進化しているように見えて、新しい視点を得る体験だったそうだ。「発電設備などの技術は、これまでできなかったことをできるようにします。一方でネットワークセキュリティの技術は、そのままならつながるものをつながらないようにする技術、できることをできないようにする技術ですよね」(亀井氏)
亀井氏が指摘するように、AWSはセキュリティ機能が豊富なだけでなく、世界各地にリージョンを持つ。東京電力FPが海外展開している地域にもリージョンがあり、海外の発電所やプラントに向けてサービスを提供する際には現地のリージョンを使うことで、データの国外持ち出しに制約がある場合でも問題を回避できる。しかも世界のどこに提供する際にも、同じセキュリティを確保できる。
「営業担当者は顧客がいる現場に足を運びますが、エンジニアが現地に行くのは限度があります。その点、クラウドでサービスを提供していれば、距離にとらわれることなくサービスを提供できます」(鎌田氏)
遠隔監視に加えて発電所運営ノウハウの研修や、リモートモニタリングで得られたデータに基づくコンサルティングサービスなども展開予定だという東京電力FP。オンプレミスとクラウドの得手不得手をうまく使い分けた事例といえるだろう。
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