人とロボットが同じ空間で働く未来
AI搭載の協働ロボット(Cobot)がいれば「理想の職場」になるのか? 夢と現実を探る
ロボットに人工知能(AI)を搭載することで、人間とロボットが同じ空間で安全に働けるようになり、人間の労働はもっと効率的になるかもしれない。しかし、課題は残る。
物理的なロボットは数十年前から私たちの周りに存在する。作業を行う物理的なロボットはその年月の大半において同様に作業する人間や監督者から遠ざけられてきた。なぜなら、物理的なロボットは人間と並んで仕事をするには危険すぎるからだ。
その後、1990年代半ばには、「Cobot」という略称で知られる協働ロボット(collaborative robot)が利用され始めた。Cobotは、人間と至近距離で作業するように意図的に設計された物理的なロボットと定義されている。Cobotは、組み立てラインから倉庫、病院あるいはオフィス内を巡回してさまざまな作業の手助けをするなど幅広い環境で作業できる。
幅広い作業に取り組むCobot
工業用ロボットは複雑な作業をするために進化してきたが、せいぜい、明確にプログラムされた作業しかできない。倉庫で箱やパレットを持ち運ぶようにプログラムされたロボットは、ドアを車体に溶接することはできない。つまり、ロボットに別の作業をさせるための再訓練を簡単に実現することは不可能だということだ。というのも、このロボットに再プログラミングをするには通常、莫大なコストと膨大な時間が必要になるからだ。
一方Cobotは、深層学習、つまり、実演や強化学習を通して作業を習得する。この学習方法により、訓練を簡単に行うことができ、Cobotのプログラムはハードコーディングされていないため、複数の作業が可能となる。この深層学習を利用すれば、頻繁に修正訓練をすることでロボットをこれまでよりも柔軟に利用できるようになる。1つのロボットしか購入できない小規模な企業でも、そのロボットを訓練して複数の作業をさせられる。
さらに、Cobotは労働力を増やす上で重要な役割を果たすようになったため、ロボットが人間の作業者だけではなく、他のCobotとも連携して作業をする必要性も大きくなる。
Cobotがクラウドに接続していれば、接続環境の中で2体以上のロボットが連携することも可能になる。つまり、2体のロボットが物理的に隣り合って作業していなくても、または地理的に同じ場所にいなくても、連携して多くの作業を完遂できるということだ。クラウドを利用して接続し、データや情報をより巧みに収集することを組み合わせれば、ネットワークに接続したCobotは企業にとってより価値のある存在になる。
人間の仕事に取って代わるのではなく、補助をするCobot
「人工知能(AI)を搭載したロボットは、人間の労働者に取って代わるのではなく作業効率を向上させるものである」という考え方は、大半の企業が最も意識していることだ。人間の労働者がロボットを訓練する必要があるため、企業はこの部分で人間の労働者からの反感に直面するだけではなく、機械による自動化が人間の労働力の大部分に置き換わった場合には社会経済的な問題にもなる。
この問題を回避するために、協働ロボットの利用に伴う最も重要な点は、人間の活動を協働ロボットの活動に置き換えるのではなく、協働ロボットで人間の活動を増強することにある。人間には創造力や常識、直感が備わっている。機械は確率論的思考や大量のデータの処理、訓練を積むのが得意である。これらの力を合わせれば、労働者は超人的な能力を得られる。
その結果、人間の活動を置き換えるためのロボットよりも、人間と一緒に作業をする用途のCobotの方がたくさん導入された、とCobot導入企業の多くが報告している。話の風向きが変わり、「Cobotは人に取って代わるツールではなく協働のためのツールだ」と人々が口にするようになってきたら、Cobotに対する警戒心が薄れ、企業は生産的な労働者を増やせるのだ。
KukaやRethink Roboticsなどをはじめとする、Cobot技術を提供するこの分野のパイオニア企業は、Cobotの補助を受ける際の体験を重視してきた。幾つかのベンダーは、人間の相手として疑似的な感情を表すためのインタラクティブな機能をCobotに搭載した。例えば、Rethink RoboticsのCobotに搭載されている画面には、人間の労働者が全体的な効率や生産性をどのように改善させられるか判断可能にするために、興味、不満、幸福、退屈を幅広いレベルで示してくれる。
別のケースでは、外科医とともに作業する手術用Cobotが、胆のう切除または内部組織の縫合といった複雑な医療処置のために使用されている。Cobotは外科医とともに働くことによって、実演と強化学習を介して作業を学ぶ。そうすることで、例えば最初に行う切開のような反復作業やありふれた作業の幾つか、極めて高い精度と集中力を必要とするリスクの高い作業などを、Cobotが引き受けられるようになる。
Cobotの導入に伴って残る課題
ロボット業界の多くの人にとって、Cobotと従来のロボットの違いは技術的というよりも意味的なものだ。しかし、Cobotを導入している者は異議を唱えるだろう。彼らは概念的な差異に加え用語の変化も重要だと見なしている。
協働ロボットは、人間と至近距離で作業ができるように、力は全般的に弱く、感度や周囲の状況を認識する能力は高くなるように設計されている。だが力が弱いため、Cobotの利用は大きな力が必要のない作業に限られている。
加えて、障害物や人間の干渉、またはその他の状況認識の問題を感知するためのセンサーアレイのせいで、混雑した空間または複雑な区域でCobotを利用することは難しい。Cobotを提供する企業は、ロボットの物理的な能力を向上させるためにアームを複数にし、把持装置(ロボットハンド)や制御装置などを付けて、製品を進化させてきた。実際に、複雑な作業を処理するために、必要に応じて切り替え可能な複数のアームや多機能把持装置を備えたCobotもある。
どんなものにも言えることであるが、新しい技術の導入や普及には時間がかかる。職場環境において、誰もが安心して新しいツールを利用し、脅かされることのないようにする必要がある。ロボットの役割に関する説明を「人間との触れ合いから隔離された産業機械」という定義から、「今も増え続けているたくさんの機能を使って人間の作業者を補助するように意図された協働ロボット」という定義に変えれば、Cobotは作業をより効率的に実行するのに役立つ補助ツールとして見なされるようになるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー