クラウドの台頭に伴う運用体系の変化
クラウドの大問題“ベンダーロックイン”を企業が心配しなくなった理由
従来のシステム構築においてベンダーロックインは課題であったが、クラウドでの運用となると話が異なる。クラウド導入によるパフォーマンスの向上を最優先とし、あえてロックインのリスクを背負う企業も多い。
クラウドへの移行には数多くの課題と懸念がある一方で、「クラウドのベンダーロックインが問題である」という認識が企業の中でなくなりつつある。
従来のオンプレミスのデータセンターでハードウェアやソフトウェアを使用している場合でも、ベンダーロックインは企業にとって懸念事項の一つだった。これまでのベンダーロックインのシナリオは、毎年同じベンダーのハードウェア製品を購入することで該当ベンダーへの依存性が次第に高まり、結果として特定のプラットフォームから脱却することが難しくなってしまうと考えられてきた。
パブリッククラウドの台頭に伴い、企業はオンプレミスのハードウェアとソフトウェアへの依存を回避することが容易になった。だが、ベンダーロックインのリスクを完全に解消するまでには至らなかった。
調査会社451 Researchのアナリストであるカール・ブルックス氏は、「実際は主要なクラウドプラットフォームの挙動はそれぞれ異なっているため、あるクラウドを選択すると基本的にそのクラウドに依存することになる」と語る。
併せて読みたいお薦め記事
クラウドに移行するとどうなる?
- 協和発酵キリンがVDIを「Amazon WorkSpaces」へ移行、使って見えた課題と効果
- 「リフト&シフト」方式のクラウド移行に注意が必要な理由
- 5年では長過ぎる――サーバ更新頻度を短くする5つのメリット
オンプレミスでの運用も視野に入れる
ロックインへの懸念の減少
あるベンダーから別のベンダーに移行するには、多大なコストがかかる可能性がある。しかし、クラウドのベンダーロックインに関する企業の懸念は、以前ほど顕著ではなくなってきている。
調査会社International Dataのリサーチディレクターであるディーパック・モーハン氏は、「セキュリティの理解、スキルセット、パフォーマンスなどに関する懸念は見られるが、ロックインに関する懸念が上位にくることは多くない」と言う。企業は、クラウドが提供する最先端の技術を利用することと、企業としての機動力を重視することの代償としてベンダーロックインを受け入れている。例えば、企業がマルチクラウドを選択する理由について、ベンダーロックインに対する懸念を軽減するためという場合もある。だがそれと同時にさまざまなクラウドサービスと機能にアクセスするためという場合が少なくない。
モーハン氏は、「ベンダーロックインとマルチクラウドを切り離して考える必要がある。数年前はそれぞれが密に関連していたが、現在は状況が変わっている」と言う。
一部のマルチクラウドでは、機械学習やビッグデータなどAI(人工知能)に関連するクラウドサービスを利用できる場合がある。これらを利用することでクラウドのベンダーロックインに対するリスクが高まる可能性がある。企業がこれらの高度なサービスを利用すればするほど、特定のクラウドへの依存性が高くなる。DWH(データウェアハウス)の「Amazon Redshift」や機械学習サービスの「Google Cloud AI」などのサービスはベンダー固有のサービスであり、システム移行が困難になる恐れがある。だが、企業はこれらの技術を利用するリスクを受け入れている。
IT関連の情報を扱うAmalgam Insightsの創業者であるアナリストのハイナン・パーク氏は、「現時点では、高度なサービスに移行する企業にとっての最優先事項はパフォーマンスで優位に立ち、より早く市場に参入することだ。今のところ、先進サービスの導入に伴うベンダーロックインのリスクについて深くは考えていない」と語る。
クラウド間での移行に備える
企業がクラウドのベンダーロックインについてさほど懸念していないもう一つの理由は、自社のクラウドリソースとそれらが抱える要件をよく理解しているからだ。企業のITチームがクラウドの導入に習熟するにつれて「どのワークロードがクラウド間で移行しやすく、そのためにはどのような手法をとればよいか」ということを見極められるようになってきた、とモーハン氏は言う。
このクラウド間の移行を実現してベンダーロックインへの懸念をさらに低くするために、企業は利用する全てのクラウドサービスを完全に把握する必要がある。RightScale、CloudHeath Technologies、CloudCheckrなどの会社が提供するクラウド運用ツールでは、クラウド間にまたがるサービスを追跡し、コストとセキュリティ機能を監視できる。
幾つかの企業では、計画プロセスの早い段階で、クラウドのベンダーロックインに対するリスクの軽減を出口戦略としている。これはベンダーロックインを完全に解決するものではないが、方向性を事前に明確化するのに役立つ。
調査会者Gartnerの副社長ミンディー・カンシラ氏は「出口戦略を策定するということは、基本的には移行先のベンダーでアプリケーションを管理する戦略を立てるということだ。移行先として適切なベンダーを見つけ、そのアーキテクチャを理解する。その上で移行先のクラウドプラットフォームでアプリケーションの管理が必要だということを意味する」と述べている。
単一プロバイダーという選択肢
マルチクラウドが台頭する中で、あえて単一のベンダーを利用することを選択し、ベンダーロックインのリスクを受け入れる企業もある。このアプローチでは、単一のベンダーの技術とその特性さえ学べばよいというメリットがある。
企業が単一のベンダーと、そのサービスを使用する時間が長くなればなるほど、そのクラウド環境をさらに最適化するための専門知識が強化できるとカンシラ氏は言う。単一ベンダーのユーザーは、統合やセキュリティなど、マルチクラウドでは不可避の課題も回避できる。
ブルックス氏は「プラットフォームの課題に取り組む時間を減らし、その時間をアプリケーション開発とITサポートのために費やすことができる」と単一ベンダーを利用するメリットをまとめた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
4
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー