自動化と構成管理ツールで迅速に移行
増える“脱クラウド”、企業がオンプレミスに戻ることを決断した理由は?
クラウド利用が成熟化するにつれ、利用規模の縮小や、クラウドからオンプレミスへの回帰を考える企業が増えている。あるIT担当役員が経験した“脱クラウド化”の事例を紹介する。
イジャズ・ウッラ氏は、クラウドベースの医療記録サービスでカナダ最大手のNightingale InformatixでIT担当副社長兼プライバシー責任者を務めていたとき、2つのシステムに責任を持っていた。1つは、プライベートクラウドで運用していた「Nightingale On Demand」(以下、NOD)。もう1つは、パブリッククラウドで運用テストを行っていた「Nightingale v10」(以下、v10)だ。
パブリッククラウドシステムのNightingale v10は、同社のデータセンターで構築されたもので、北米の110の外来診療所でβ運用されていた。ところが突然、正式公開へのロードマップは一変した。
2016年秋に(v10が6月にクラウドで提供開始されてからわずか数カ月後)、Nightingale Informatixはカナダの通信会社TELUSに買収された。TELUSはv10の商用化を取りやめた。ただし、買収手続きが進められていた3カ月間、v10の開発はオンプレミスで継続された。「TELUSが、v10は売却できると考えたからだ」とウッラ氏は説明する。
「v10ソフトウェアの販売が取りやめになったと聞いてがっかりしてしまった。われわれは高度な自動化システムの開発に膨大な時間を費やしていたからだ。われわれにとってこのシステムは大きな誇りだった。もっとも、この製品の開発とデプロイでは貴重な教訓を得た。それらの過程で学んだ知識は移転可能なものだ」とウッラ氏は振り返る。同氏は現在、TELUS Healthの技術戦略およびデリバリー担当ディレクターを務めている。
ウッラ氏のチームは3年がかりでv10を開発し、クラウドインフラの構築や自動化関連の統合も行っていた。パブリッククラウドで提供していたβ版は、見本市で売り込みが行われ、多くの外来診療所をユーザーとして獲得していたが、その後の位置付けや扱いについては、明確な新方針が決定された。
それは、「TELUSによるNightingaleの買収完了後、この医療記録システムのパブリッククラウド版を提供する取り組みは全て終了し、ウッラ氏とそのチームは、v10の“脱クラウド化”に当たる」というものだった。
“脱クラウド化”のトレンド
ワークロードの脱クラウド化に取り組むことになったのは、ウッラ氏とそのチームだけではない。
オンプレミスでのワークロード実行と比べたクラウドコンピューティングのコストとメリットに関する企業の理解が深まるとともに、オンプレミスに回帰する企業も出てきている。DatalinkとIDGが最近発表したIT担当者に対する調査(回答者:100人超)によると、パブリッククラウドの利用経験がある企業の40%近くが、パブリッククラウドに移行したシステムを自社のデータセンターに戻していることが分かった。多くの回答者がその理由として挙げているのは、セキュリティ(55%)、コストや料金の問題(52%)、管理性(45%)だ。
CompTIAが2016年9月、ビジネス担当役員とIT担当役員を対象に行った調査(回答者:約500人)でも、システムをオンプレミスに戻す決定を行った理由について、ほぼ同様の回答傾向がみられる。すなわち、回答が多い項目はセキュリティ(58%)、コスト目標の未達(30%)、統合の失敗(24%)、信頼性に関する不満(22%)だ。セキュリティは、永続的な問題ではないとしても、現時点では最大の問題となっている。
「企業が特定のアプリケーションについて、クラウドプロバイダーが提供できる以上に強力なセキュリティを自社が求めていることに気付くことがある。その場合、そのアプリケーションをオンプレミスに戻して、管理を強化することを選ぶのかもしれない」と、CompTIAの技術分析担当シニアディレクター、セス・ロビンソン氏は語る。
長期的にみると、企業はそのアプリケーションをオンプレミスにずっと置いておくかもしれないし、クラウドプロバイダーが適切なセキュリティ対策を講じることができれば、企業はまたクラウドに戻すかもしれないと、ロビンソン氏は述べている。
ウッラ氏のチームにとって、脱クラウド化のプロセスで重要なファクターの1つとなったのが、2016年6月の比較的シームレスなクラウドへの移行プロセスが、厳格な方針に基づいて行われ、成功していたことだった。
「われわれは6月の移行時には、前もってアーキテクチャの確立に向けて多大な時間と労力をかけた。もしv10を別の場所にデプロイする必要が生じても、つまり、プライバシー法が変わって、データを米国企業に預けることができなくなっても、6月のクラウドへの移行時と同じ自動化の仕組みを使って、別のクラウドプロバイダーに移行できるようにするためだ」とウッラ氏は説明する。
Nightingale チームがv10の移行を自動化するために作成したAPIとコードは、システムがクラウドに確実にデプロイされるように、まずオンプレミスでテストされた。また同チームは、自社のデータセンターをディザスタリカバリーに利用し、全ての重要情報を含むデータベースが、常にクラウドとデータセンターの間でレプリケートされるようにした。
Nightingaleは、v10をクラウドからオンプレミスに戻す移行プロセスでは、自動化ツール「Puppet」を使って、移行をフェイルオーバーとして扱えるようにした。「ほとんどディザスタリカバリーのシナリオのように、レプリケートされたライブデータベースを複数の場所に配置し、仮想マシンをフェイルオーバーすれば、直接移行が行われるようにした。移行プロセスはほぼシームレスで、影響としては、ネットワークの再調整の際に数秒間のダウンタイムが発生しただけだった」(ウッラ氏)
移行プロセスで得た教訓
脱クラウド化のプロセスでは、自動化と構成管理が大いに役立ったと、ウッラ氏は強調する。
「われわれは、多くの時間を割いてコードとしてのインフラを構築した。具体的には、製品のインスタンスを反復可能な形でデプロイするソフトウェアを前もって書いた。その実行が1回成功すれば、デプロイは、デプロイ先に応じて変数を変更し、コードを実行するという作業になる。それは反復可能な作業だ」とウッラ氏は語る。
NODは現在、TELUS Healthのプライベートクラウドで稼働しているが、v10での経験を生かし、大幅に自動化を取り入れている。
「v10の構築でわれわれが学んだことの大部分は、NODに活用されている。つまり、収集された有効な指標データを使って、アップグレードにおけるデプロイのようなタスクの自動化を進めている。自動化を行うコードは透過的であり、特定の環境に依存していない。どこにでもインストールできる」(ウッラ氏)
では、v10はどうなったのか。最終的に米国の企業に売却されたそうだが、ウッラ氏はその名前を明かさなかった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社フィックスターズ] 組み込み開発特有の課題も解消できる「AI活用」の秘訣とは? -
事例
[株式会社ビザスク] 「新規事業」事例集:大手企業はどのように想定顧客ヒアリングを行っているのか -
市場調査・トレンド
[株式会社ビザスク] 質の高い「仮説検証インタビュー」を実施するためのポイント -
事例
[株式会社ビザスク] 富士フイルムの新領域参入に学ぶ事業創出 「畑違い」でもビジネス化できる方法 -
事例
[株式会社ビザスク] 三菱電機 上席執行役員に学ぶ、未来を切り開く「新事業創出」の実践方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
2
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
3
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
4
鹿島建設のDXを阻む「10年前のAWS」 安全性と自由度を両立したモダナイズ
-
5
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
8
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
9
Microsoft 365の「テナント統合・分離」問題 手戻りのない道を選ぶ秘訣とは?
-
10
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
3
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
8
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー