PWAやSPAの時代に
WebサイトとWebアプリの境目がなくなった時、Web開発の現場はどうなるか
Webアプリ、モバイルアプリ、Webサイトの境が曖昧になり、それぞれの開発における独自性が消えている。プログレッシブWebアプリ(PWA)やシングルページアプリ(SPA)の構築を学ぶべきタイミングが来た。
企業のDevOps(運用開発)チームは、モバイルアプリ、Webアプリ、Webサイトをそれぞれ個別に提供するのではなく、Web開発戦略の下に統合する方向に動いている。この開発戦略では、モバイルアプリ・Webアプリ・Webサイトの3種類全ての特徴を兼ね備えた単一のアプリを構築する。具体的には同一ページ内で画面が遷移するシングルページアプリ(SPA)や、プッシュ通知機能などモバイルアプリ同じような機能を持ったプログレッシブWebアプリ(PWA)などだ。
PWAは2018年から5年程度で新しい開発プロジェクトの主流になると話すのは、調査会社Gartnerでアナリストを務めるエリザベス・ゴラシオ氏だ。従来のWebアプリ開発プロジェクトの手法は、用途によっては有用であることは変わらない。だが消費者が利用するモバイルアプリの50%は、2020年までにPWAになるだろう。
「これまでも、そしてこれからも、PWA開発はWebアプリ開発チームにとって不可欠なスキルになる。その場しのぎのアプリや、ミドルウェア・データベース・バックエンドと密接に連携し、冗長なユーザーエクスペリエンスを提供するような昔ながらのアプリは廃止すべきだ」(ゴラシオ氏)
マルチエクスペリエンス開発の準備
日用品メーカーのKimberly-Clarkは他の企業と同様、作成すべき膨大な量のデジタルエクスペリエンス全てを提供しようと取り組んでいる。同社がWebサイトとEコマースサイトの立ち上げに着手した2008年には、インターネットとモバイルデバイスを利用するユーザーは全世界で約4億人だった。2018年では40億人を超えるユーザーが、さまざまな種類のデバイスを利用してWebサイトにアクセスするようになっている――そう話すのは、Kimberly-Clarkでモバイル、IoT(モノのインターネット)、ユーザーエクスペリエンスのグローバルチームにおいてシニアマネジャーを務めるマシュー・デイビッド氏だ。
昨今のナレッジワーカーは、自身が使用するスマートフォン、タブレット、デスクトップなど複数のデジタルツール全てを通じ、エクスペリエンスが継続されることを期待している。「Webアプリとモバイルアプリの違いはない」とデイビッド氏は話す。そのため企業内の開発グループの境目もなくすべきだという。
Kimberly-Clarkでは効率を上げるため、一度分割した開発チームを再び統合している。「生き残るためだ。別々の入力フォームに対してそれぞれ開発チームを用意するのは非効率かつ非生産的だ」とデイビッド氏は説明する。
Twitterやグローバルメディア企業Forbes Mediaなどの著名企業は、PWA戦略とSPA戦略をうまく取り入れているが、こうしたアプリはまだなじみが薄い。一方で消費者は単純に機能の強化を望んでいる。例えばアプリへの機能追加や、複数の異なるプラットフォーム向けのモバイルアプリを個別にメンテナンスする必要がなくなることを望んでいる。こう話すのはIT製品のコンサルタント会社Soliant ConsultingのCTO(最高技術責任者)であるスティーブ・レーン氏だ。消費者に共通する別の願望としては、異なるデバイスで一貫したWebエクスペリエンスがある。このような願望を持つクライアントがPWAやSPAを必要としているかどうかを、開発者は判断できなければならないとレーン氏は話す。
Soliant Consultingで扱ったWebアプリ開発プロジェクトの事例を挙げる。顧客から複雑な電卓機能が求められたことがあった。旧時代のWebサイトに、製品仕様と価格見積もり機能を追加するための要件だという。PWAでもSPAでもこの目的を果たせるが、同社はよりシンプルなオプションとして、元のWebサイトにプラグインとして設置できるリッチなSPAを採用した。
新旧のスキルを両方必要とするPWA開発
「開発者にとってPWAは、本質的にはテクノロジーを幾つか加えたWebアプリにすぎない」と話すのは、市場調査会社Forrester Researchのアナリストであるマイケル・フェースマイア氏だ。Webアプリ製作の基礎的な技術は、現代においても有意義だといえる。HTML、JavaScript、CSS(Cascading Style Sheet)、Web統合開発環境などがその例だ。Webサイトにリッチなインタラクションを提供するためのライブラリ、例えばGoogleの「Angular」やFacebookの「React」などの開発フレームワークも、PWAの開発に適したツールを提供する。
フェースマイア氏によると、PWAアドオンの主要なテクノロジーは「サービスワーカーAPI」と「マニフェストファイル」だという。サービスワーカーとは、Webサイトのバックグラウンドで実行されるスクリプトを意味する。サービスワーカーはストレージ、キャッシュ、プッシュ通知、オフライン操作などの機能を可能にする。例えばキャッシュをあらかじめ読み込んでおくことより、サイトが立ち上がる速度を向上できる。一方のマニフェストファイルは、開発者がWebサイトの設計時に使用するJSON(JavaScript Object Notation)形式のメタデータファイルだ。このマニフェストファイルを使用して、最初に見せるWebページのURL、アイコンのデザイン、テーマの色などの設計要素を定義できるとフェースマイア氏は話す。
デイビッド氏によると、Kimberly-Clarkの開発者はチャット機能やアニメーション用のモーションUIを追加してPWAを強化しているという。チャット機能があれば、サイトのユーザーは「よくある質問」のページを検索するよりもユーザーフレンドリーな方法で、情報に素早くアクセスできる。アニメーションにも幾つか用途がある。例えばWebページが提供する機能に沿った行動ができるように顧客の目を引き付けたり、結果が表示されるまでの1~2秒間顧客の気をそらしたりといったことに使える。「数秒間の読み込み時間さえ許されない時代になった」と同氏は話す。
今後のマルチエクスペリエンスアプリ開発
PWAを構築するための開発ツールはまだ初期段階だ、とGartnerのゴラシオ氏は話す。DevOpsチームは上述したような開発ツールを、モバイルアプリ開発の統合開発ツール、つまり「モバイルアプリケーション開発プラットフォーム」(MADP)の機能で補いながら開発を進めている。ゴラシオ氏は、MADPベンダーがいずれコーディングしないで機能に合わせたアプリを構築するための統合開発ツールを提供すると考えている。このようなツールを「マルチエクスペリエンス開発プラットフォーム」(MXDP)と呼ぶ。
「MXDPが登場すれば、DevOpsチームはツール選択の必要に迫られる」とゴラシオ氏は話す。MXDPは機能を完備した統合パッケージになるだろう。だがそこにはロックインのリスクが浮かび上がる。これに対して、それぞれの分野で最善のツールを選ぶ「ベストオブブリード」型のマルチエクスペリエンスツールでは、メンテナンスや定期的な更新が必要になるだろう。
DevOpsチームは、今後訪れるWebアプリ開発の大きな変化に備える必要があるとデイビッド氏は話す。「やがて、Webサイトとアプリを別々にコーディングしていた時代を思い返して、苦笑することになるだろう」
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