事例で分かる、中堅・中小企業のセキュリティ対策【第16回】
「野放しのテレワーク」はNG 自然にセキュリティ意識が上がるルール作りのコツ(2/2 ページ)
運用ルールの整備
取りあえずPCの利用履歴を取得するだけでも、前述のようにさまざまなデータを蓄積できます。こうして集めた「元ネタ」を分析し、自社におけるテレワーク利用の実態を明らかにするのです。実態を整理することで、最適な独自ルールや仕組みをまとめられます。例えば以下のように運用ルールを作ります。
テレワーク運用ルールの例
- 当社では、テレワーク利用者の業務実態を正確に把握するため、利用履歴が残るPCを貸与する。テレワーク利用者は、会社が貸与したPCを用いて業務を遂行すること。貸与したPCは大事に扱うこと。
- テレワークの業務開始は、PCを起動した時間とする。業務終了は、PCをシャットダウンした時間とする。これらをタイムカード代わりに利用するものとする。なお業務終了後は必ずシャットダウンが完了したこと(画面がブラックアウトしていること)を目視で確認すること。
- PCの立ち上げ時間から3分以内にログイン確認が取れていることで、実業務に入ったと見なす。何かしらの事情(例:仕事をしようと電源をオンにしたが、子どもの世話に時間が取られ業務を開始できなかった、など)で実現しなかった場合は、ログイン時間ならびにPC立ち上げ時間を実質的な業務開始時間としてカウントする。
- 当社では、PCで一定時間操作(キーボードやマウスなどの操作)をしていない場合、未稼働時間として業務をしていないものと見なされる可能性がある。そのため、未稼働時間が多い場合、管理者がテレワーク利用者に実態の確認をすることがある。ただしPCを操作しない業務(業務において思考が必要なケースなど)はその限りではない。なお、いわゆる中抜け時間が生じ、業務から離れる必要がある場合は、PCをシャットダウンしてから場を離れること。
- 情報収集や資料作成のためにWebサイトを閲覧することは許可するが、業務上不要なWebサイトの閲覧は認めない。常に業務効率化を意識して情報収集をすること。また、いかなる理由があっても「アダルトサイト」「危険ドラッグサイト」「不法サイト」「暴力サイト」へのアクセスを禁止する。
こうしたまとめ方に限らず、「わが社のケーススタディー」の形式でまとめてみると、テレワーク利用における本質的な課題が見えてくる可能性もあります。業務そのものの改善に直結するケースもあるでしょう。
なぜ利用実態把握がセキュリティ強化につながるのか
仕組みづくりの第一歩は「実態を把握すること」です。これらの取り組みがもたらす効果は、テレワークによる労務管理の強化だけではありません。必然的に情報セキュリティ対策の強化にもつながります。
まず、自分の業務内容が履歴として残るため、業務内容を偽装することが難しくなります。万が一情報抜き取りや漏えいなどの問題や事故が起こったとしても原因を追究できる(トレーサビリティーを確保できる)ため、早期発見、早期解決につながります。そもそも人は、自分の仕事が管理者にきちんと見られていると思うと、変なことはできないものです。
例えば前述の運用ルール例では、これらの項目がセキュリティ強化につながっています。
- 利用履歴を残すことの宣言、ならびに利用実態の把握によるトレーサビリティーの確保
- 管理者に業務を見られていることによる、マイナス行動の抑止効果
- 業務終了後、あるいは中抜け時間発生時にはPCを必ずシャットダウンすること
- 業務上不要なWebサイトへの閲覧を許可しないこと
人に対する取り組み――組織体制と教育
「仕組みやルールに関する取り組み」と同時に「人に対する取り組み」を進め、取り組みそのものを定着させる必要があります。人に対する取り組みと定着化は「組織体制」と「教育」が重要です。
組織体制を整えるには、
- テレワーク利用者がどのような管理体制で組織されているか
- 管理責任者は誰か
- セキュリティ問題など、万が一の問題が発生したときのエスカレーション体制はどうなっているか
- 管理責任者とのリアルなコミュニケーション体制や、管理責任者以外とのコミュニケーション体制はどのようになっているか
などを決める必要があります。この要素は、一般的な組織作りと同じですので、テレワークをするケースを想定して、会社の組織運営上のルールを見直すとよいでしょう。
そして教育については、前述の内容をテレワーク該当者だけではなく、全従業員に周知徹底することから始めます。毎週のミーティングで伝達するのもよいでしょうし、朝礼の時間を使って伝えるのもよいでしょう。
ルール定着のために重要なことは、「継続的に伝え続ける」「書面に残す」ことです。人は忘れるものである、という前提の下に、一度伝えたからといって終わりにするのではなく、何度も繰り返し、場面を変えて伝え続けることが重要です。そして書面に残すことで、会社のルールをいつでも確認しやすくなるため、運営側も利用者側も、双方が共通ルールとして認識できるようになります。
もちろん、これらを従業員に伝え続けることは、会社全体の情報リテラシーや情報セキュリティ意識の向上にもつながります。テレワーク利用者はもちろん、全従業員が会社で求められているルールを認識することが、セキュリティ対策に有効となります。
まとめ:セキュリティ担当者は、こんなふうに上司を説得しよう
- テレワーク制度の導入時には「テレワーク利用者の労働時間を適切に管理・把握すること」が重要。そのために、取りあえずPCの利用履歴を取得することから始める。
- 利用履歴を基に、仕組み化・ルール化することで、会社独自の仕組みやルールが出来上がる。その際にセキュリティポリシーを盛り込むことで、テレワーク制度を利用する仕組みを通じてセキュリティ強化を図ることができる。
- 人に対する取り組みとして、「組織体制」と「教育」も重要。エスカレーション体制を整理したり、継続的に伝える場を作ったりすることが、セキュリティリテラシーの向上につながる。
連載について
情報セキュリティ対策をしたくても、ITに詳しい人が社内外にいなくて困っている中堅・中小企業は多いのではないでしょうか。「知識不足」と「ヒト、モノ、カネ不足」の問題が目の前にあっても、対策は待ったなしの状況。予算を握る上司を説得するために、サイバー攻撃の事例を紹介しながら、その効果的な対策につながる情報セキュリティ製品を分かりやすく解説します。
那須慎二(なす・しんじ) CVS代表取締役、CISO代表取締役
大手情報機器メーカーにてインフラ系システムエンジニア(SE)、大手経営コンサルティングファームにて経営コンサルティング、サイバーセキュリティコンサルティングを経て、現在、サイバーセキュリティ対策の専門会社CVS(Cyber Vision Service)およびCISO(Chief Information Security Officer)代表取締役。日本の中小企業がサイバー被害で大きなダメージを受ける状況を看過することができず「日本にセキュリティのバリアーを張る」をモットーに、中小企業向け情報セキュリティのマルチベンダー対応、ならびにコンサルティング活動を実施。難易度の高いサイバーセキュリティ技術を誰にでも分かりやすく伝えることに定評がある。
参考リンク
「小さな会社のIT担当者のためのセキュリティの常識」(Amazon.co.jp)
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事例で分かる、中堅・中小企業のセキュリティ対策
情報セキュリティ対策をしたくても、ITに詳しい人が社内外にいなくて困っている中堅・中小企業は多いのではないでしょうか。「知識不足」と「ヒト、モノ、カネ不足」の問題が目の前にあっても、対策は待ったなしの状況。予算を握る上司を説得するために、サイバー攻撃の事例を紹介しながら、その効果的な対策につながる情報セキュリティ製品を分かりやすく解説します。
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