Barclays Bankが試験導入
「IBM Q System One」が切り開く量子コンピュータの未来(2/2 ページ)
セキュリティ脅威の予期
Barclaysは量子コンピュータの長期的な脅威についても評価を続けている。量子コンピュータは、従来型の既存の暗号を解読できる可能性がある。より堅固な暗号テクノロジーを導入して量子暗号に対抗しなくてはならない可能性もあるため、これは大きな問題だ。
暗号はそのほとんどが大量の数字を基盤とするが、量子コンピュータが進化すれば、それらを因数分解できる量子アルゴリズムが実行可能になるかもしれない。それが可能になる時期をブレイン氏のチームは判断しようとしている。「この時期については、5年後から30年以上後までさまざまな意見がある。そのため、さらなる研究と業界での意見交換を期待したい」(ブレイン氏)
難しい量子コンピュータのプログラミング
企業は、実際の問題の解決に量子コンピュータを使用するに当たり、幾つか実際的な課題に直面する。
「当行が一番大きな問題にぶつかったのは、候補となる問題を大幅にシンプルにしたものを構築しようとしたときだった。各課題の本質を維持できる程度には複雑で、かつ量子プロセッサで実行できる程度にシンプルでなくてはならない」(ブレイン氏)
そのため、開発者が不要な複雑さを取り除くことが容易になるよう、プログラミングのより高度な抽象化を行った。また、可能性のあるソリューションを従来型コンピューティングと量子コンピューティングの部分に分けるための方法も探した。
「これらはいずれも知的な難題なので、これからの量子プログラムの設計者とプログラマーは、構築済みのフレームワークとコンポーネントを活用してメリットが得られるであろうことは明らかだ」(ブレイン氏)
IBMは、開発者によるIBM Qシステムのプログラミングをサポートする「Qiskit(Quantum Information Science Kit、量子情報ソフトウェアキット)」というオープンソースソフトウェアプラットフォームを構築した。IBMのストール氏は、開発者は近い将来、アプリケーションの開発部分には従来型コンピュータツール、処理部分には量子コンピュータという具合に使い分けをするようになると予想している。
限られた処理能力
現時点では汎用量子コンピューティングプロセッサが数十量子ビットしかないことも大きな課題だ。量子ビットは従来型コンピュータのビットに相当するが、従来よりも多くのデータをエンコーディングできる。現在のコンピュータは、バイナリの0と1の状態を格納する個々のビットを保存、処理、移動する。対照的に量子コンピュータが情報をエンコーディングする際は、さまざまな物理現象を使用して情報を操作し、各量子ビットが同時に複数の状態をエンコーディングできるようにする。理論上300量子ビットは、全世界の原子数よりも多くのデータを表現できる。
IBMの量子コンピュータは現時点で20量子ビットしかサポートしない。
「これにより、処理できるデータ量に制限が課される。そのため、量子アルゴリズムが実行されるデータセットを根本的にシンプルにすることが必要になる」(ブレイン氏)
また量子コンピューティングシステムには量子デコヒーレンスというプロセスがあり、情報が環境に失われるまでの短時間しか稼働することができない。従って実行できる操作の数が限られるため、現時点では量子コンピューティングプログラムを比較的短く保つ必要がある。
ブレイン氏は次のように話す。「量子コンピューティングの実用性を銀行業でさらに高めるには、量子ビットの数を増やすこと、そして量子コヒーレンス時間を延ばすことが必要だ。さいわい、量子コンピューティングハードウェアで現在進められている研究は、この2つの側面を着実に強化している」
科学者の中にある懐疑的な声
量子コンピューティングへの取り組みのほとんどは理論物理学者によって行われているが、実践は困難とみられる。科学者の多くは、実用的な量子コンピュータの計画は、いずれ成功するとしても今後10年は不可能だと考えている。
「IBMが唯一発表しているのは、ホウケイ酸ガラス製の大きなコンピュータだ。ところがその中身については何も触れていない」と語るのは、仏モンペリエ大学シャルルクーロン研究所教授のミシェル・ジャーコノフ氏だ。
ジャーコノフ氏は、量子システムで量子ビットが物理的に表現されたものを実際にプログラミングするのは、実用面から見て極めて難しい問題だと指摘する。分かりやすい例えとして、一般的な自転車がある。自転車の自由度は3で、誰でも少し練習すれば乗れるようになる。ところが量子コンピュータのプログラミングは、全ての部品が1000個の接合部の周りを絶えず回転する自転車に乗ろうとするようなものだ。「こんな自転車には誰も乗ることができない」とジャーコノフ氏は話す。
希望を持つ企業
Barclaysは将来を楽観しているようだ。「当行は、量子ビット数の点でも量子コヒーレンス時間の点でも、量子コンピューティングハードウェアの能力が今後数年継続的に強化されると期待している。また、量子コンピューティングの認知度が高まることで、量子プログラミング手法の知識があり、量子回路を実際に構築、実行した経験を持つ開発者が増えるのを期待している」とブレイン氏は話す
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