欧州委員会にも働き掛け
あの“福祉大国”が住民の情報を収集する“監視国家”に変貌した深い理由
デンマーク福祉当局が同国居住者の個人情報を収集し、アルゴリズムを用いて障害者や移民など社会的弱者を監視している実態が明るみに出た。国際人権NGOが指摘する問題の真相とは。
国際的な人権団体が、“福祉国家”デンマークの“闇”を指摘した。人権活動NGO(非政府組織)アムネスティインターナショナルが公開した調査報告書によると、デンマークの福祉当局はアルゴリズムを使って社会的弱者を特定しようとしている。その結果、個人のプライバシーを侵害したり、差別を引き起こしたりする可能性があるという。その実態とは。
“社会的弱者”を特定するアルゴリズムとは?
問題の可能性が浮上したのは、育児休暇給付金や年金といった公共給付金の申請や支払い、管理を担当する機関Udbetaling Danmark(以下、UDK)のシステムだ。調査報告書によると、UDKは社会保障給付金詐欺を犯す可能性がある個人を調査対象として特定する目的でアルゴリズムを使っている。このアルゴリズムは、デンマークの大手年金処理会社ATPや複数の民間企業が協力して開発したものだ。
調査報告書によると、UDKが使用しているアルゴリズムは約60個に上る。アムネスティインターナショナルでAI(人工知能)と人権に関する研究者を務めるヘレン・ムキリスミス氏によると、アルゴリズムは、給付金の申請者の居住地や職場、旅行歴、健康記録、海外との関係を追跡して監視している。
デンマーク政府は、アルゴリズムの開発を後押しする法律を制定したとも調査報告書は指摘する。これらの法律は、公共データベースに登録されている同国の居住者の数百万人分の個人データを収集可能にするものだ。具体的には、居住状況や市民権、人種、民族、性的指向に関するデータが含まれる。
アムネスティインターナショナルが聞き取りを実施した給付金受給者は、調査員やケースワーカーによる監視で発生する心理的負担について吐露したという。デンマーク障害者財団のコーディネーターを務めるスティグ・ランガバド氏はその心境を「銃口の先に座っているようだ」と表現する。
アルゴリズム使用は違法か?
「アルゴリズムのための個人データの収集と活用は法的に根拠がある」とUDKは主張する。だが調査報告書は、このアルゴリズムは給付金受給者のプライバシーや平等、社会保障の権利を侵害していると警鐘を鳴らす。「障害者や低所得者、移民をはじめとした特定の社会的弱者が社会福祉の制度を利用する際に立ちはだかる障壁を生み出している」と調査報告書は結論付ける。
UDKのアルゴリズムは、欧州連合(EU)が2024年5月に採択した「AI法案」(Artificial Intelligence Act)の「社会的スコアリングの禁止」に該当する恐れがあると調査報告書は説明する。社会的行動や個人的な特性に基づいて個人やグループを評価または分類する「社会的スコアリング」によって、対象者が不利益や不利な扱いを受けることを禁止するのが同法の趣旨だ。
調査報告書が収集したデータによると、UDKとATPが使用するアルゴリズムは社会的スコアリングシステムとして機能する。「不正を検出するためのアルゴリズムを導入することで、大規模監視が可能になった」とムキリスミス氏は説明した上で、「アルゴリズムの使用は禁止されるべきだ」と主張する。
「この大規模な監視は、本来保護すべき人を支援するのではなく、標的にしかねない給付金システムを作り出している。福祉システムの自動化が個人のプライバシーを侵害し、人間の尊厳を損なっている」(ムキリスミス氏)
アムネスティインターナショナルはUDKとATPに対し、アルゴリズムのソースコードやデータを全て開示するよう要望した。それを受けて両組織は、特定のアルゴリズムの設計に関する文書を一部削除した上で提出した。
デンマーク政府関係者は、アルゴリズムがEUのAI法案に抵触する可能性があるとのアムネスティの指摘を否定したが、その理由は説明していない。
アムネスティインターナショナルは欧州委員会に対しても働き掛け、社会的スコアリングに関するガイドラインを発行するよう求めている。デンマーク政府当局に対しては、アルゴリズムが社会的スコアリングの禁止に該当しないことが確認されるまでその使用を停止するよう要請している。
TechTarget.AIとは
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget.AI
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社キーエンス] PCが苦手でも自動化できる ポポラマーマなど4事例に学ぶ「ナビ搭載型RPA」活用 -
製品資料
[株式会社クレオ] IT部門を“価値創造組織”へ転換 IT管理プロセスの改革で戦略的リソースを確保 -
製品資料
[株式会社クレオ] Excel管理が限界に――ITサービス管理の脱・属人化と運用高度化を実現する方法 -
製品資料
[株式会社クレオ] 西武グループやイオングループも実践 事例に学ぶ「ITサービスデスク業務」改善 -
製品レビュー
[株式会社クレオ] 「使われないITシステム」から脱却 現場が求める業務改善を実現する方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
2
IT製品の導入に関するアンケート「サーバ&ストレージ」編
-
3
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
4
世界PC出荷数が20%急減 情シスを直撃するPC先行調達の反動と価格高騰
-
5
326のIPアドレスで1200超のアクセス AIエージェント関与が疑われる攻撃の中身
-
6
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
7
「企業におけるAI導入検討度とIT投資優先度」に関するアンケート
-
8
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
9
IT業界の女性は9割が10年で消える 人材枯渇を招く“見えない壁”の正体
-
10
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
4
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
5
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
6
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
7
東大教授と考える、AI時代の「データ主権」「信頼性」「ガバナンス」の在り方
-
8
Linux初心者でも知らないとまずい「RHEL」「SLES」の違いとは?
-
9
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー