OS起動不能でも遠隔操作できる新機能も
Dell「XPS」の復活、HPとLenovoの“異形”デバイス CES 2026で見えたPCの今後
Dellがファンの熱望に応えて「XPS」を復活させた一方、HPとLenovoは「キーボード一体型」などの“異形”で勝負に出た。2026年のPC市場はどこに向かうのか。IT担当者が注目すべきCES 2026の発表を総括する。
家電、IT見本市「CES」は、コンシューマー向けの華やかな家電ショーという側面が強い。しかし、2026年1月に米ラスベガスで開催された「CES 2026」におけるDell Technologies(以下、Dell)、HP、Lenovoの発表は、企業のIT調達担当者や情シス部門にとっても見過ごせない「変化」の兆候を含んでいた。
各ベンダーが発表したビジネス向けPCやクリエイター向けモニター、さらには既存の枠組みを超えた新たな形状のデバイス(フォームファクタ)は、将来のオフィスやワークスタイルを再定義する可能性を秘めている。単なるスペック向上ではなく、IT部門の頭痛の種である「管理工数」や「設置スペース」の問題に切り込む製品も登場した。
本稿は数ある発表の中から、上記3社の動向を中心に、IT部門が今後の「次期PC更改」や「ハイブリッドワークの整備」にも参考にできるトピックを厳選して紹介する。
Dell:わずか1年で「XPS」ブランド復活
Dell Technologiesでは2025年夏、COO(最高執行責任者)兼副会長のジェフ・クラーク氏が、PC部門であるClient Solutions Groupの指揮を執ることになった。低迷するコンシューマー事業の立て直しを主な狙いとしたこの体制変更は、社内改革を加速させ、製品開発サイクルを大幅に短縮した。その結果、本来は2026年後半以降に計画されていたロードマップの大半が、2026年モデルとして前倒しで投入された。リーダーシップ交代後、初のCESとなる今回は、Dell Technologiesにとって極めて重要な転換点だと言える。
発表の要点は、ゲーミングPC「Alienware」、ハイエンドモニター「UltraSharp」、個人向けPC「XPS」といったブランドの復活だ。
Dell Technologiesは2025年のCESで、煩雑になったブランド名を整理するために新たな命名規則を導入した。XPSや「Vostro」「Inspiron」「Latitude」「Optiplex」といった名称を廃止し、「Dell」「Dell Pro」「Dell Premium」などに集約させようとしたのだ。ブランドの簡素化という点では理にかなっているが、熱狂的なファンがいるXPSを切り捨てた判断には一部からの猛烈な反発が起きた。これを受けて同社はわずか1年でXPSを復活させ、外観や性能に磨きをかけた製品をあらためて投入した。
モニター製品としては、ブルーライト低減機能を備える52型の6Kモニターと、色の正確性を追求した32型の量子ドット有機EL(QD-OLED)モニターを発表した。52型モデルはマルチモニターなしで広大な作業領域を確保したい層を、QD-OLEDモデルはクリエイター層をターゲットにしている。QD-OLEDは、青色有機ELと量子ドット層を組み合わせることで、従来の有機ELを上回る色の純度と輝度を実現した表示技術だ。
HP:管理ツールの進化と「キーボード一体型PC」
HPは製品とサービスの両面で攻勢をかけている。デジタル従業員体験(DEX)管理ツール「HP Workforce Experience Platform」(WXP)は、PCやプリンタ、会議室システムなど、オフィスを構成するデバイスを可視化する。IT部門はトラブルの予兆を察知し、デバイスのダウンタイム(停止時間)を抑えることが可能だ。
特筆すべきは、WXPに搭載されたアウトオブバンドリモートコネクト機能だ。セキュリティや遠隔管理を重視した技術および機能群「Intel vPro」を活用し、OSが起動しない状態でも、BIOSを遠隔操作できるようにする。その場に赴いたりデバイスを郵送交換したりする手間を減らし、IT部門の復旧時間の短縮を支援する。
ハードウェア面で異彩を放っていたのが「HP EliteBoard G1a」だ。これはデスクトップPCでもノートPCでもない、いわば「PCを内蔵したキーボード」だ。モニターに接続するだけで、「AMD Ryzen AI 300」シリーズプロセッサを搭載した、1秒当たりの処理能力が50兆回(50TOPS)のAI PC「Copilot+ PC」として機能する。オプションでバッテリーも内蔵可能で、電源を切らずに別のディスプレイにつなぎ直して、すぐ作業を再開できる点もユニークだ。例えるなら、1980年代に登場したキーボード一体型のホームコンピュータ「Commodore 64」が、現代の最新技術をまとってよみがえったかのようだ。
この形状のデバイスが市場に受け入れられるかどうかは未知数だ。これまでモニター背面に取り付ける小型PCは幾つかあったが、それらと本質的に何が違うのかという議論もある。しかし、キーボードとマウスさえあれば事足りる環境で、デスクに余計な筐体を置く必要がなくなるメリットは大きい。
LG ElectronicsのLEDディスプレイ「Neo:LED」を採用した31.5型4Kモニターも発表された。EliteBoard G1aとの相性も良さそうだ。
Lenovo:クリエイター向けPCと異彩を放つ「円柱型PC」
Lenovoの発表は多岐にわたり、全容を把握するのが困難なほどだが、幾つかのデバイスは強い印象を残した。
「Yoga Pro 9i Aura Edition」は、16型のノートPCだ。ビジネス向けノートPCブランド「ThinkPad」に対し、より洗練された「格好良さ」を求める層に向けた製品だ。本シリーズ向けに用意された外付けモニターも発表された。これはノートPC本体のディスプレイと外部モニターの間で、色空間を完全に同期させることが可能な専用モニターだ。色の一貫性を重視するクリエイターにとって、27型という絶妙なサイズ感と併せて注目に値する。
もう一つの変わり種は、円筒形のPC「Yoga Mini I」だ。アルミニウム製のホッケーパックのような形状をしたコンパクトな筐体に、スピーカー、マイク、タッチセンサー、加速度センサー、「Intel Core Ultra X7」プロセッサを凝縮している。HP EliteBoard G1aと同様に「ディスプレイを持たないポータブルデバイス」という野心的な製品だ。ただしこちらはバッテリーを内蔵していないため、移動のたびに電源を落とす必要がある点には注意が必要だ。
総括
CES 2026は、単なるスペック競争を超えた、新たなデバイスの形を予感させる内容だった。各社の発表には、それぞれの戦略が色濃く反映されている。Dell Technologiesによるコンシューマー市場への再投資がどう結実するか。HPのWXPと野心的な新形状デバイスが市場をどう変えるか。Lenovoが提示した新たなユーザー体験がどう発展していくのか。ITエンジニアや技術リーダーにとって、これらの次世代の選択肢が業務にどのようなインパクトを与えるのか、今後も注視が必要だ。
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