Google、Metaすらだまされた
トヨタ子会社も40億円の被害 「人を操る」ビジネスメール詐欺の最新手口
ビジネスメール詐欺(BEC)は、技術的な脆弱性ではなく「人間の心理と信頼」を突く。GoogleやMeta、トヨタ子会社といった巨大組織すら、巧妙な偽請求書やCEO成り済ましに屈し、数十億円規模の損失を出している。情シスが講じるべき現実的な対策を浮き彫りにする。
ビジネスメール詐欺(BEC:Business Email Compromise)は、現代の組織が直面する最も深刻な脅威の1つで多額の金銭的被害をもたらす。従来のフィッシングとは異なる特徴を持ち、技術的な脆弱性ではなく、人間の心理を突く高度なソーシャルエンジニアリングを駆使する。こうした攻撃は、甚大な金銭的損失や法的問題、業務の混乱を招く。組織にとって対策は急務だ。
ビジネスメール詐欺の種類
「ビジネスメール詐欺(BEC)」に関する編集部お薦め記事
BEC攻撃の目的は、従業員を欺いて送金させたり、機密データを共有させたりすることにある。サイバー犯罪者は事前調査を徹底する。組織内のやりとりを観察し、正規ユーザーに成り済まして攻撃を実行する。
主なBECのシナリオは以下の通りだ。
- CEO・役員詐称:経営幹部に成り済まし、担当者へ至急の送金を指示する
- 請求書の偽装:信頼できる取引先を装い、支払先口座の変更を要求する
- 法的機関への成り済まし:機密情報を扱う法務チームを装い、データの転送を求める
- 給与・人事担当者への成り済まし:従業員に成り済まし、給与振込口座や源泉徴収票情報の変更を指示する
- アカウント乗っ取り:フィッシングなどで入手した認証情報を使い、正規のアカウントを完全に支配する
- ディープフェイク:AIによる音声合成や動画生成を使い、リーダー層からの依頼を偽造する
ビジネスメール詐欺の実例
BECは、権威への服従や職場の文化といった心理を突くため、極めて有効な手法だ。近年、従業員が巧妙に操られた事例をいくつか紹介する。
MetaとGoogle
2013年から2015年にかけて、エバルダス・リマサウスカス氏らのグループがMetaとGoogleを標的にした。彼らは台湾のハードウェアサプライヤーであるQuanta Computerに成り済ました。ラトビアに同名の偽会社を設立し、偽の請求書や契約書を送り付けた。Googleは2013年に2300万ドル、Metaは2015年に9800万ドルの被害を受けた。最終的に両社は被害額の大部分を回収した。リマサウスカス氏には禁錮5年の判決が下った。
Ubiquiti Networks
2015年、IT企業のUbiquiti Networksで従業員を詐称する手口が発生した。香港子会社の財務部門に偽の支払い要求が届いた。17日間で14回にわたり、計4670万ドルが犯罪者の口座へ送金された。この攻撃は当初、全く気付かれなかった。2021年3月時点で同社が回収できたのは1860万ドルにとどまっている。
FACC
2016年、オーストリアの航空宇宙部品メーカーであるFACCで、ウォルター・ステファンCEO(当時)を装う攻撃が起きた。財務部門の従業員に、企業買収資金として5000万ユーロの送金を求めるメールが届いた。発覚後、一部の支払いは阻止できた。しかし、既に送金された4200万ユーロはいまだに回収できていない。
セーブ・ザ・チルドレン
2017年、国際的な非営利団体(NPO)のセーブ・ザ・チルドレンが被害に遭った。犯罪者が従業員のメールアカウントを乗っ取り、アジアのプロジェクトに関する偽の請求書を送付した。同団体は約100万ドルを失ったが、保険によってその9割を回収した。
トヨタ紡織
2019年、トヨタ自動車の主要サプライヤーであるトヨタ紡織の欧州子会社が標的となった。取引先を装った犯人が、財務・経理部門に口座情報の更新を要求した。要求は「至急対応しなければ部品生産が滞る」という脅しを含んでいた。従業員はだまされ、約3700万ドル(約40億円)を外部口座へ送金した。資金の回収状況は不明だ。
ケンタッキー州レキシントン市
2022年、ケンタッキー州レキシントン市の職員に地元のNPOを装うメールが届いた。口座情報の更新を求める内容だった。職員は別ルートでの確認手順を怠り、変更を処理した。その結果、連邦政府の家賃支援金など約400万ドルが不正な口座へ送金された。詐欺の発覚後、金融機関によって一部の資金は迅速に凍結された。
こうした事件による損失の合計は数億ドルに達する。多くの組織が資金を回収できずにいる。BECが危険なのは、高度なハッキング技術ではなく、人間の信頼や組織の階層を悪用するからだ。犯罪者はAIによるディープフェイクなどの新技術も取り入れ、手口を洗練させている。組織は従業員教育を徹底し、送金時の確認手順を厳格化すべきだ。不審な要求に、誰もが声を上げられるセキュリティ文化の構築が必要である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
2
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
3
次世代RPA「ハイパーオートメーション」が急成長か Gartnerが予測
-
4
昭和大学病院がeICUを導入、ICUの患者情報を遠隔地で一括管理
-
5
積水化学工業が「SAP S/4HANA Cloud」の“全グループ導入”に踏み切った訳
-
6
Windows XPにもパッチを提供 脆弱性「BlueKeep」はなぜ危険か
-
7
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
8
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
9
付属ツール「Windows ファイアウォール」の利点と限界
-
10
肥大化した「SFA」の沼 4カ月でBigQuery×AppSheetの新システムを構築した方法
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
4
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
5
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
6
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
10
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー