現場主導でアプリ750個を開発
北陸電力、kintoneをグループ18社7000人に展開 年間3万時間を削減したDXの進め方
サイボウズは2026年6月、北陸電力がkintoneを活用し、グループ18社を含む約7000人規模でDXを推進していると発表した。約750アプリを現場主導で開発し、年間約3万時間を削減した。導入推進をどのように進めたのか。
北陸電力は、サイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」を活用し、グループ全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。2024年1月に同社で全社導入した後、グループ会社18社にも利用を広げ、現在は本社とグループ会社を合わせて約7000人がkintoneを共通基盤として利用している。2026年6月24日、サイボウズが公開した。
導入から約2年で、北陸電力は現場主導により約750本のアプリケーション(以下、アプリ)を開発。年間約3万時間の業務時間削減を実現した。紙とハンコ、WordやExcelを中心にしたバックオフィス業務のデジタル化だけでなく、火力発電所の特定設備における部品周期管理や、過去の調達経緯のシステム化など、電力会社特有の業務改善にも活用が広がっている。
kintone導入の決め手は何だったのか。導入を軌道に乗せるために北陸電力はどのような取り組みを進めたのか。
北陸電力はkintoneの導入をどのように進めたのか
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北陸電力は、富山市に本社を置く電力会社で、北陸3県を中心に電気を供給している。同社は中期経営計画において、DXを“経営を支える重要な取り組み”と位置付けている。デジタル技術による社会変化が加速する中、既存の電気事業の生産性を高め、そこで生まれた人的リソースを電気事業以外の成長分野に振り向ける狙いがある。
ただし、DXを進める上では課題もあった。社内ではデジタル活用ニーズが増加し、現場からも業務改善のアイデアが出ていた。一方で、それらを迅速に実現する体制の強化が必要になっていた。専任部門だけで全ての改善要望に対応するのではなく、現場自身が業務をデジタル化できる仕組みが求められていた。
そこで同社が着目したのが、プログラミングの専門知識がなくても業務アプリを作成できるkintoneだった。業務を最もよく理解している従業員が、自らアプリを作成して改善を進める「市民開発」によって、全社的なDXを加速できると判断した。
全社員が使う「申請業務」を起点に定着を図る
北陸電力はkintone導入に当たり、まず全社員が関わるワークフロー業務に着目した。最初に作成したのは、毎年1回、全社員が提出する申請書類の提出システムだ。
この仕組みによって、全社員が少なくとも一度はkintoneに触れる環境をつくった。部門ごとに異なっていた承認フローを全社で統一することもできた。部署異動があっても、社員が同じ認識のもとで申請業務を進められるようになり、属人化した暗黙知に頼らない業務運営につながった。
導入検討段階では、パートナー企業であるITベンダー、JBCCの協力を得て勉強会を実施した。勉強会には100人以上が参加。どのようなアプリを作りたいかというアイデアを募ったところ、約50個のアイデアが集まった。これらの効率化効果を試算した結果、全社導入の判断につながったという。
こうした初期段階で、kintoneの可能性に共感するキーマンが各部署やグループ会社にいたことが、導入を後押しした。
アプリ約750本を現場主導で開発、年間3万時間を削減
kintoneの利用は、ワークフローを起点に社内へ定着していった。導入から約2年で、北陸電力本社では約750のアプリが現場主導で作成された。これにより、年間約3万時間の業務時間削減を実現した。
社内アンケートでは、従業員の約5人に1人がアプリ作成を経験していると回答した。「自分で簡単に作れる」「業務を効率化できた」といった肯定的な声も、全体の約7割に上った。
これは、kintoneが単なる申請ツールとしてではなく、現場が自ら業務改善を進めるための基盤として機能していることを示している。北陸電力にとっての成果は、業務時間の削減だけではない。社員一人ひとりが改善を考え、実行する文化が育ちつつある点も大きい。
本社の成果をグループ18社へ横展開
北陸電力は、本社での成果を踏まえ、kintone導入の1年後にグループ会社への展開を始めた。グループ会社の中には、専任のシステム担当者がいない会社もある。そこで、本社で開発した共通業務向けのアプリ約20本をグループ会社に横展開した。
また、類似の業務を実施している支店間で、ある支店の改善策を別の支店に展開する動きも広がっている。kintoneが共通基盤となることで、企業や組織の壁を越えた横のつながりが生まれ、業務改善の水平展開を進めやすくなった。
結果的に、本社およびグループ18社を合わせて約7000ユーザーがkintoneを利用している。新たにkintoneを使いたいと手を挙げるグループ会社も出ているという。
一方で、市民開発を広げるにはガバナンスも欠かせない。北陸電力では、共有スペースで作成したアプリをDX部門に申請し、社内ルールを満たしたものだけを本番環境へ移行するフローを設けている。現場主導のスピードと、セキュリティや統制の両立を図っている。
教育と問い合わせ対応をグループで一元化
グループ全体でのkintone活用を支えているのが、教育・支援体制の一元化だ。北陸電力本社のDX部門と、システム開発を担うグループ会社の北電情報システムサービスが連携し、グループ各社を伴走支援している。
教育面では、2025年度にグループ全体で100回を超える勉強会を実施し、延べ1200人が参加した。事例発表会やアプリ作成ワークショップも開き、過去の教育動画のアーカイブも公開している。
さらに2025年12月には、富山市の本社で「北陸電力グループDXオープンデイ2025」を開催した。グループ各社から来場とオンラインを合わせて約350人が参加し、各職場のアプリ活用事例を共有した。
支援面では、問い合わせフォームやFAQ、研修申込フォーム、教育動画のアーカイブ、共通アプリを展開するポータルサイトなどを整備した。問い合わせ対応や教育の窓口を一本化することで、グループ会社の利用者がkintoneを使いやすい環境を整えている。
紙、郵送、手入力をなくし、複数社間の申請業務をオンライン化
グループ展開の成果が表れている例が、通勤、住居、出張申請といった諸届用のアプリだ。
従来は、WordやExcelで作成した書類を紙に印刷し、社内郵便でグループ共通業務を管理する北電パートナーサービスに送付していた。その後、同社で承認し、基幹システムに手入力して処理する流れだった。
しかし、kintoneの「ゲストスペース」機能を活用したことで、申請から承認までをオンラインで完結できるようになった。複数社にまたがる業務でも、関係者が同じ画面を見ながら確認できるようになり、申請者本人が過去の申請内容を自分で確認できるようにもなった。
kintoneの活用は、バックオフィス業務にとどまらない。火力発電所の特定設備における部品周期を管理するアプリでは、過去の調達経緯をシステム化した。これにより、必要な情報を誰でもすぐに把握できるようになった。
次のテーマは共通アプリ整備とAI活用
北陸電力は今後も、DXを重点施策に据える。社員のデジタルリテラシー向上や、kintoneによる市民開発をさらに加速させる方針だ。
具体的には、水平展開しやすい共通アプリの整備、教育支援、成功事例を共有する場づくりを継続する。デジタルに苦手意識を持つ社員も含め、グループ全体のスキル底上げに取り組む考えだ。利用者同士が質問や事例を共有できるコミュニティの構築も検討している。
さらに、kintoneのデータベースを活用したAI活用も視野に入れる。kintoneは日々の業務を通じてデータが蓄積される基盤でもある。グループ各社の業務データが一元的に集まることで、将来的にはAI活用によるさらなる生産性向上につながる可能性がある。
北陸電力の取り組みは、DXを一部の専門部署だけで進めるのではなく、現場が自ら改善を考え、作り、横展開する体制をどう築くかを示している。市民開発を広げるには、ツール導入だけでは不十分だ。全社員が使う業務を起点に定着させ、教育と支援を一元化し、ガバナンスを整えながら横展開することが重要である。
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