経営層と現場の埋まらない溝
全社標準「Copilot」にダメ出し? 現場の8割が不満を抱く“致命的な欠点”
企業でAIツールの標準化が進む一方、利用者の8割以上が実務における機能不足などの不満を抱えている。なぜ会社支給のAIツールではなく、別のツールを併用する「シャドーAI」が横行するのか。
業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の切り札として、生成AIツールの全社導入が進んでいる。しかし、そのインフラ投資は、現場の生産性向上へと直結しているのだろうか。
コンサルティング会社のSDEパートナーズは、2026年3月18日~23日の期間で、従業員300人以上の企業に勤務し、業務で生成AIツールを利用している会社員1014人を対象に実態調査を実施した。
調査結果によると、全社標準ツールとしての導入シェアは「Microsoft Copilot」(45.3%)と「ChatGPT」(45.0%)が市場をけん引し、「Gemini」(28.3%)がそれを追う構造になっている。具体的な用途は、メール作成や議事録の要約といった、個人の事務作業を補助する使い方が主流だ。
一見すると順調に浸透しているように思えるが、利用者の83.0%が全社標準のAIツールに対して「機能や精度が実務レベルに達していない」と感じていることが判明した。画一的なツールを一律に導入するだけでは、現場が抱える個別具体的な業務課題を解決し切れていない現状がある。
現場が真に求めているAIツールの能力とは何か。組織的なAIの最適化を阻害している意外な「ボトルネック」に迫る。
「Copilot」だけでは業務が回らない現状
併せて読みたいお薦め記事
AIツールをうまく活用できない現状
現場の業務内容を職種別に見ると、AIツールの活用深度に明確な差が生じている。IT部門に次いで活用が進んでいるのは、契約審査などでテキスト解析の需要が高い法務部門だ。戦略立案などを担う経営企画やマーケティング部門もこれに続くが、複雑な文脈理解を求めるこれらの職種では、約9割の利用者が標準ツールの機能不足を感じている。一方で、ハルシネーション(もっともらしいうそ)のリスクが障壁となり、正確な数値を扱う経理や財務部門では導入に対して慎重な姿勢を示している。
実務レベルでの不満点として最も多く挙がったのは、「社内システム/ツールとの連携不足」だ。既存のビジネスツールの延長線上でAIツールを導入したものの、実業務で日常的に用いる専門ツールや独自のシステムと分断されていることが、現場の負担をかえって増やしている。
こうした標準ツールに対する不満から、利用者の70.3%が会社指定以外のAIツールを日常的または特定の業務で併用している実態が明らかになった。併用先として最も選ばれているのは、個人利用でも普及しているChatGPT(51.3%)だが、注目すべきはGemini(41.2%)や「Claude」(19.4%)といったツールの躍進だ。
これらを併用する理由として、「外部アプリケーションとの連携の容易さ」(33.1%)に加え、「高度な思考・論理構築力」(30.7%)や「回答の精度」(29.6%)が挙げられている。これは、複雑なソースコードの生成や推論を要する業務において、全社標準ツールが現場の要求水準を満たしていないことを示唆している。現場は会社指定のルールを守ることよりも、目の前の業務で成果を出すことを優先している。しかし、IT部門の管理が及ばないAIツールを利用する「シャドーAI」は、企業のガバナンスを形骸化させる新たなリスクを引き起こす要因になる。
なぜ部門や職種の特性に応じた最適なAIツール導入が進まないのか。阻害要因の上位には、「セキュリティ、ガバナンスへの懸念」(38.3%)や「専門人材の不足」(34.5%)といった運用面の課題が並ぶ。ここで見過ごせないのは、「トップダウン(による一律導入)の弊害」が26.1%に上った点だ。現場の業務実態を詳細に把握しないまま一律のルールやツールを押し付けた結果が、現場の創意工夫や高度な活用を難しくしている。
SDEパートナーズは、全従業員へのライセンス配布といった「インフラとしての導入」フェーズは完了したと分析する。今後の生産性向上のためには、高度な論理構築が求められる戦略部門には推論能力の高いツールを、カスタマーサクセス部門には社内データと連携したRAG(検索拡張生成)基盤を優先構築するなど、職種の専門性と要求水準に合わせた「マルチAI活用」への移行が不可欠だ。
既存の標準ツールの能力を最大限に引き出す取り組みも欠かせない。単にツールを与えるだけではなく、部門ごとに活用を推進する人材を配置し、最新機能やプロンプトエンジニアリングの手法を組織的に習得する環境整備も求められる。新たなツールを追加する前に、既存ツールの「使いこなしの解像度」を上げる投資も有効な戦略だ。企業のAI投資対効果は、この「実務レベルの個別最適化」をいかに実現するかにかかっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget ニュースプラス
国内のIT業界ニュースを迅速に報道します。企業動向から導入事例、市場トレンドまで幅広く取り上げ、実務に直結する情報をタイムリーに提供する連載です。
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[ServiceNow Japan合同会社] 農林中金に学ぶ内製開発 処理効率を約2倍に高めAI活用も加速させた方法とは? -
事例
[ServiceNow Japan合同会社] NTTグループのデジタル変革術、17万人が利用する決裁プロセス刷新の全貌 -
事例
[ServiceNow Japan合同会社] 開発期間は3年余、なぜNTTデータグループはSaaSで基幹システム開発を行ったのか -
事例
[ServiceNow Japan合同会社] 富士通のAI変革、人が介在しないサービスデスク実現に向けた取り組みとは? -
事例
[ServiceNow Japan合同会社] 業務効率化とサービス品質向上をどう両立する? JTBのデジタル変革に学ぶ
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「VMware離れ」は本当か 3000社がVCF 9にかじを切った現実的な理由
-
2
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
3
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
4
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
5
エンジニアが選考を辞退する本当の理由 7割が隠す“面接の違和感”とは
-
6
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
7
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
8
Netflixのバックエンドは「ほぼJava」 3000超のアプリを支える開発基盤の裏側
-
9
「コピペ運用の限界」に直面するAI活用 7割超が“別画面”のまま使う理由は?
-
10
生成AIの7割が「別画面・コピペ運用」 “導入”は進んでも定着せず
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
生成AIのハルシネーションを防止 回答精度を高めるセマンティックレイヤーとは
-
2
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
3
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
4
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
5
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
6
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
7
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
8
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
9
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
10
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー