新人育成を「3年から3カ月」に短縮
年間1000万円削減 老舗シール・ラベルメーカーが不適合品を半減させたAIの使い方
スタディストは2026年6月、インパムシールがAIマニュアル「Teachme Biz」で不適合品を半減し、新人教育期間を3カ月に短縮したと発表した。Teachme Bizをどのように使ったのか?
スタディストは2026年6月23日、シール、ラベルメーカーのインパムシールが、AIマニュアル「Teachme Biz」を活用し、不適合品の削減と人材育成期間の短縮を実現したと発表した。
インパムシールは、1950年創業の老舗シール、ラベルメーカーだ。食品、工業用、化粧品、医薬品など幅広い業種向けに、デザインラベルからパッケージ資材までを手掛けている。
Teachme Bizを導入した結果、インパムシールは月50~60件、月額最大200万円に達していた不適合品の発生件数と損失を半減させ、年間1000万円弱のコスト削減を実現した。さらに、新人従業員が自走するまでの期間を3年から3カ月に短縮した。Teachme Bizをどのように使ったのか?
Teachme Bizをどのように使ったのか
Teachme Bizは、スタディストが提供するAIマニュアルだ。動画や画像、PDF、文章などを基に、業務手順書や教育用マニュアルを作成、共有、更新できる。現場作業の手順を写真や動画付きで分かりやすく整理し、従業員が必要なときに必要な情報を確認できるようにする。
一般的には、業務マニュアルの作成や新人教育、作業手順の標準化に使われることが多い。インパムシールはこれを単なるマニュアル作成ツールとしてではなく、不適合品の報告、再発防止、技能伝承をつなぐ基盤として活用した。
導入に至った経緯と課題
インパムシールは完全受注生産型の製造体制を取っており、1日に50~100種類の商品を生産する。同じ製品であっても、前回の製造から数カ月~2年ほど間が空くことも珍しくない。
こうした多品種受注生産の環境では、リピート注文であっても、作業者にとっては初めてに近い作業になる場合がある。前回製造時の注意点が現場に十分伝わらず、同じようなミスが繰り返されることが、不適合品発生の大きな要因になっていた。
導入前、こうしたミスは月50~60件発生していた。損失額は月150万~200万円に上り、製造工程で一度失敗すると、原材料を追加で仕入れて作り直す必要があった。
同社では以前から、ミスが起きるたびに紙の報告書と対策書を作成し、社内で共有していた。しかし文字中心の報告書では、読む人によって解釈に差が生じやすく、再発防止策が現場に十分定着しなかった。紙の資料は管理者がまとめて保管していたため、現場の作業者が必要なときにすぐ確認しにくいという課題もあった。
さらに、シール、ラベル製造では、印刷機の調整や品質判断に経験が求められる。例えば、紙が左右にずれて流れる「蛇行」の微調整や、インクの濃度判断などは、数値や文章だけで表現しにくい。ベテラン作業者の感覚に頼る部分が大きく、技術伝承にも時間がかかっていた。かつては新人が一人前になるまで3年かかるとされていた。
不適合報告と再発防止をTeachme Bizで仕組み化
インパムシールは、Teachme Bizを不適合品の報告と再発防止の仕組みとして活用した。
まず、不適合品が発生した際は、当事者、品質管理担当者、直属の上長、第三者が現場に集まり、原因を深掘りする「なぜなぜ分析」を実施する。その場で再発防止策を決め、不適合の原因となった箇所や正しい手順を写真や動画で撮影する。原因と対策はTeachme Bizに入力し、写真や動画付きの報告書・対策書として作成する。
作成した報告書と対策書は、QRコードにして設計指示書や品質カルテに貼り付ける。次回同じ製品を製造する際、作業者はQRコードを読み込むことで、過去の失敗事例や注意事項をその場で確認できる。工場入口のモニターにもTeachme Bizのスライドショー機能を使って注意事項を投影し、担当外の従業員にも日常的に情報が届くようにした。
ポイントは、失敗事例を「後で読む資料」として保管するのではなく、「作業前に現場で確認する情報」として使えるようにしたことだ。必要なときに、必要な場所で、過去の失敗と対策を引き出せる仕組みが、再発防止の基盤になった。
導入後に得られた社内の変化
Teachme Biz導入後、インパムシールは年間換算で1000万円弱のコストを削減できただけでなく、不適合品の対応に費やしていた時間を減少させることができた。これまで製造のやり直しに追われていた時間を、別の作業や他部署のフォローに充てられるようになり、品質改善が現場全体の生産性向上にもつながっている。
教育面でも大きな変化があった。これまで言葉で伝えにくかった手の動かし方や、インクの透け具合、機械の微調整といった感覚的な作業を、動画や写真で可視化できるようになった。
印刷機の蛇行調整では、どのレバーをどの程度動かすと紙がどのように動くのかを、動画で確認できる。インクの濃淡も、写真で示すことで判断基準を共有しやすくなった。ベテラン作業者が口頭で説明していた感覚的な技術を、写真や動画で補完できるようになったことで、理解速度が高まり、指導にかかる時間も短縮された。
従来は、先輩の作業を見て体で覚える文化が強く、体系的に学ぶ機会をつくりにくかった。現在は、量産中の待ち時間などにTeachme Bizで段取りや調整方法を確認できるため、直接機械に触れていない時間も学習時間として活用できる。
その結果、新人教育の期間は12分の1の3カ月まで短縮された。
失敗を責めず、再発防止の資産にする
インパムシールが目指したのは、失敗をなくすことだけではない。失敗を個人の責任として終わらせるのではなく、組織全体で再発を防ぐための資産として蓄積する仕組みをつくることだった。
同社の岩田大樹代表取締役は、「仮に月に200万~300万円の損失が出たとしても、その失敗が次に生かされるのであれば教育コストと捉えられるとしている。重要なのは、失敗を責める対象にするのではなく、再発しないように資産化する仕組みを作ることだ」としている。
多品種少量生産や熟練技能の伝承に悩む製造現場では、ミスの情報が紙の報告書に埋もれ、過去の教訓が次の作業に生かされないケースが少なくない。インパムシールの事例は、マニュアル作成ツールを「手順をまとめる道具」にとどめず、不適合報告、再発防止、技能伝承、教育をつなぐ基盤として活用した点に特徴がある。
現場の失敗を記録し、必要な場面で引き出し、次の作業者に伝える。この循環を作れるかどうかが、製造業の品質改善と人材育成を左右する。インパムシールは今後も、Teachme Bizを社内教育ツールとして活用し、過去の失敗事例を蓄積しながら、シール、ラベルの品質向上に取り組む方針だ。
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