ばらばらで制御不能なAIを生まない
AWSやAzureの枠を超える? 「AIのサイロ化」を断つマルチエージェント構成とは
社内で用途の異なるAIエージェントが乱立し、個別に運用され続けることで、複雑なビジネス要求を処理し切れなくなるリスクがある。AIエージェント同士を自律的に連携させ、安全に管理するための仕組みとは。
生成AIの業務適用が進む中、企業で新たな課題が浮上している。それは、特定の業務に特化したAIエージェントが、部門ごとに異なるシステム構成で構築され、孤立してしまう「AIのサイロ化」だ。ある部門は「Google Cloud」で、別の部門は「Microsoft Azure」や「Amazon Web Services」(AWS)で独自のAIエージェントを開発し、いざ全社的な連携が必要になった際に、それらを一元化する術がないという事態に直面することになる。部門ごとに孤立したAIモデルを個別に運用し続ければ、複数の要素が絡み合う複雑なビジネス要求を処理し切れなくなる。
こうした分断を解消し、複数のAIエージェントを協調させるアプローチとして、「Agent-to-Agent」(A2A)通信プロトコルと、Model Context Protocol(MCP)を組み合わせたマルチエージェントアーキテクチャがある。この手法をコンテナ技術と組み合わせることで、クラウドサービスの壁を越えたスケーラブルなAI連携システムが実現する。
異なるクラウドサービス内で稼働するAIエージェント群を、どのようにして互いの能力を把握し、1つの巨大なシステムとしてシームレスに連携させればよいのか。
AIの分断を防ぐシステム構成
併せて読みたいお薦め記事
AIエージェントの運用方法
本稿は、米国で開催されたクラウドネイティブ技術のイベント「KubeCon + CloudNativeCon North America 2025」におけるセッション「Smarter Together: Orchestrating Multi-Agent AI Systems With A2A and MCP on Containers」の内容を基にしている。登壇したのは、Microsoftのシニアパートナーソリューションアーキテクトであるアナ・マリア・ロペス・モレノ氏と、システムインテグレーターSummanのデータサイエンティストであるシャロン・カマチョ氏だ。
従来のAIシステムは、単一のAPIゲートウェイが全てのリクエストをさばく構造になりがちであり、これが単一障害点やスケーラビリティの限界を招いていた。両氏が提示した解決策は、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」を活用し、各AIエージェントを独立したコンテナとして稼働させる分散型アーキテクチャだ。
デモでは、クラウドサービスをまたいだ連携システムが示された。具体的には、Kubernetesのマネージドサービス「Azure Kubernetes Service」にオーケストレーターを展開し、旅行の計画や手配を担うAIエージェントと連携させる。同時に、Google Cloudのコンテナ実行環境「Cloud Run」でハンバーガーやピザの注文処理といった特定のタスクに特化したAIエージェント群を稼働させる仕組みだ。エンドユーザーが、Webアプリケーション開発フレームワーク「Streamlit」で構築したインタフェースからリクエストを送信すると、オーケストレーターが要求を解析し、適切なクラウドサービス内のAIエージェントにタスクを委譲する。
稼働するAIエージェントには、データ検索を担う「データエージェント」、LLM(大規模言語モデル)を用いて推論する「推論エージェント」、APIを通じてタスクを実行する「アクションエージェント」などが想定される。このシステム構成によって、画像処理や大規模データベースへのアクセスなど特定のタスクを担うAIエージェントに負荷が集中した場合でも、そのコンテナだけを単独で自動スケールさせることが可能になり、コンピューティングリソースを最適化できる。
A2AとMCP:AI同士が意思疎通するための共通言語
異なるクラウドサービスに点在するAIエージェント群が協調して働くためには、互いの能力を知り、状況を共有する仕組みが不可欠だ。本システムでは、そのために2つのプロトコルを活用する。
1つ目は、AIエージェント間の直接通信を担うA2Aプロトコルだ。このプロトコルの核となるのが「エージェントカード」(Agent Card)というJSON形式のデータだ。エージェントカードには、そのAIエージェントが持つスキルや処理可能なタスクが、APIのエンドポイントのように定義されている。オーケストレーターは、提示されたエージェントカードのスキル群を読み取ることで、複雑なリクエストに対して「どのAIエージェントにタスクを任せるべきか」を動的に判断する。実装においては、Google CloudとMicrosoft Azureでエージェントカードの記述形式に微細な差異が生じる課題があったが、オーケストレーターに差分を吸収させる機能(ブリッジ処理)を実装することで乗り越えたという。
2つ目は、コンテキストやツールの共有を可能にするMCPだ。従来のシステムでは、AIエージェントごとに独自のツールを保持していたため、連携時のコンテキスト共有が困難だった。本アーキテクチャでは、通貨計算やスケジュール立案といったツール群を共有MCPサーバに配置する。これによって、各AIエージェントは共通MCPサーバから必要なツールを呼び出すことができ、マルチクラウド構成でもコンテキストを失わずに作業を継続できる。
GenAIOpsの確立がもたらすシステム進化のロードマップ
単体のAIモデルが賢くなるだけでは、もはや企業のビジネス要求を満たすことはできない。各AIエージェントがシステムとして連携する能力こそが求められている。
モレノ氏とカマチョ氏は、マルチエージェントインフラを実運用に乗せるための次のステップとして、生成AIアプリケーションを用いた運用管理手法「GenAIOps」(Generative AI Ops)の重要性を強調する。従来の機械学習において、オープンソースの実験・モデル管理ツール「MLFlow」などを用いたモデルのライフサイクル管理が必須だったように、AIエージェントにおいても、プロンプトのバージョン管理やエージェント構成のライフサイクル管理が不可欠だ。
AIエージェントのアーキテクチャやプロンプトを変更した際、複数のクラウドサービスにまたがるシステム全体に想定外の影響を与えず、問題があれば速やかに安定バージョンにロールバックする仕組みも重要だ。こうしたライフサイクル管理の枠組みをInfrastructure as Code(IaC)と組み合わせて整えることで、マルチエージェントシステムは初めて、企業の中核を担う安全で適応力があるインフラに進化する。
本稿は、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)が2025年11月25日に公開した動画「Smarter Together: Orchestrating Multi-Agent AI Systems... Ana Maria Lopez Moreno & Sharon Camacho」を基に作成しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
4
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー