DX動向調査2026
効率化91.6%、でも売り上げ向上3.9% IPA調査に学ぶDXの落とし穴
情報処理推進機構(IPA)は国内企業1799社を対象とした「DX動向調査2026」の要点を公表した。本稿は、調査結果を基に、情シス担当者が「今すぐ取り入れたいお薦めアクション」6つを紹介する。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2026年7月16日、国内企業1799社を対象に実施した2025年度の「DX動向調査」の要点を公表した。調査からは、DX(デジタルトランスフォーメーション)とAIの導入が企業で広がる一方、成果が業務効率化に偏り、企業価値の向上や事業変革には十分つながっていない実態がうかがえる。
本稿では、DX動向調査2026の結果を基に、企業の情報システム(情シス)部門担当者が「今すぐ取り入れたいお薦めアクション」6つを紹介する。
IPA調査を踏まえて情シスが確認したい6項目
1.「DXに取り組んでいるか」ではなく、どこまで変えたかを確認する
調査によると、国内企業の約8割は、何らかの形でDXに取り組んでいることが分かった。DXで設定した目的に対して「成果が出ている」と回答した企業は60.8%だった。この割合は過去数年とほぼ同じ水準で推移している。この結果だけを見れば、多くの企業でDXの取り組みが定着しているように見える。
ただし調査からは、「アナログ・物理データのデジタル化」や「業務効率化による生産性向上」は比較的成果が出ている一方、組織横断の業務プロセス改革や、ビジネスモデル、企業文化の変革は相対的に低い水準にとどまっていることが分かった。
お薦めのアクション
ここで考えたいのは、自社におけるDX施策の状況だ。「紙を電子化した」「作業時間を短縮した」という段階で止まっていないかを確認したい。まずは、進行中のDX案件を以下の3段階に分類するとよい。
- データや手続きのデジタル化
- 既存業務の効率化
- 組織や事業の変革
案件数や予算が最初の2段階に偏っているのであれば、次年度の計画では、部門横断の業務変更や顧客価値の向上につながる施策を増やすことを検討したい。
2.AIの導入率ではなく「期待した効果」を測る
AIの導入率は企業規模によって異なることが調査から分かった。従業員1001人以上の企業では78.3%がAIを導入している一方、101人以下の企業では16.6%だった。
大企業の情シスにとって、AIを導入すること自体は珍しくなくなった。次の課題は、経営層や利用部門が期待した成果が実際に出ているかを説明することだ。
調査では、AIの導入によって「期待以上」または「期待どおり」の効果を得たと答えた企業は31.8%にとどまった。「一定の効果はあった」は50.6%で、多くの企業が何らかの効果を感じてはいるものの、当初の期待を十分に満たしているとは限らないことが分かった。
お薦めのアクション
次回、AIの導入状況を報告する機会がある場合は、アカウント数や利用率だけを報告指標にしないようにしたい。AIの導入前に設定した目的と現在の効果を照合し、「作業時間の削減率」「問い合わせ対応の時間短縮」「成果物の修正回数の減少」といった指標で報告できるようにする。
3.AIの用途が文書作成だけに偏っていないかを棚卸しする
調査によると、AIの主な利用用途は、「文書・音声の要約・翻訳・校正」(82.5%)、「文書・レポートの作成」(80.5%)、「情報検索・収集・分析・レポーティング」(77.0%)が上位に挙がった。文書作成や情報収集など、既存業務を効率化する用途が中心だ。
一方、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%、「自社製品・サービスの高度化」は10.9%にとどまった。AI活用が文書作成や情報収集などに偏り、基幹業務や製品・サービスの高度化に関わる用途には十分広がっていない可能性がある。
お薦めのアクション
社内のAI活用事例が「文章を書いた」「会議を要約した」「検索した」に集中していないか調査する。利用部門にヒアリングする際には、意思決定、予測、計画、顧客対応、製品開発といった業務にAIを適用できないか候補を探すとよい。ただし、利用範囲を広げる際は、AI単体の導入ではなく、業務データや既存システムとの連携を含めて検討する必要がある。
4.効率化の成果を、売上や顧客価値につなげる道筋を作る
AI導入による具体的な効果としては、「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と高かった。「企画提案などの品質や速さが向上した」は48.9%、「残業時間の削減につながった」は29.2%だった。
一方、「顧客満足度が向上した」は4.5%、「対象となる顧客が拡大した」は2.7%、「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまった。調査結果からは、AIの効果が業務効率化に偏り、顧客価値や事業成果への波及は限定的であることがうかがえる。
お薦めのアクション
削減できた時間がどのように使われているかを把握する。例えば月100時間を削減しても、その時間が別の定型作業に置き換わるだけでは、企業価値の向上には直結しない。
さらに、各AI施策で「削減した工数を何に振り向けるか」を掘り下げるところまで実施できるとよい。顧客への提案数を増やす、製品改善の検討時間を確保する、問い合わせ履歴を分析してサービスを改善するといった次の行動と結び付けられないか、部門横断で検討する。
5.DXとAIを別々のプロジェクトとして進めていないか確認する
DXに取り組む企業のうち、AIを「DX推進の一部」または「DX推進の中心」と位置付けている企業は54.2%だった。一方、DXとAIに個別に取り組んでいる企業も約4分の1を占めていることが分かった。
DX推進部門が業務改革を担当し、情シスが生成AIツールを管理するなど、施策の担当者や予算が分かれている企業は珍しくない。しかし、両者を分離したままでは、AIが既存業務を補助するツールにとどまり、業務プロセスそのものの変更につながりにくい。
お薦めのアクション
AIの導入計画とDXロードマップが別々に管理されていないかを確認する。さらに、DX案件ごとに「AIを利用できる工程」「必要なデータ」「変更すべき業務ルール」を整理する。逆に、既存のAI活用案件についても、どのDX目標に貢献するのかを整理する。
6.AI人材の不足を「採用できない」で終わらせない
DXを推進する人材の量について、「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した企業は合計で85.5%だった。IPAによると、この割合は過去数年にわたって高い水準を維持している。
AI関連人材についても、多くの職種で「不足している」とする回答が過半数を占めた。特に不足が続いているのは、現場の知見と基礎的なAI知識を持ち、自社への導入を推進できる従業員や、データマネジメントを企画、推進できる人材である。
お薦めのアクション
ここで注意したいのは、“必要な人材”とされているのはAIモデルを開発する専門家だけではないことだ。求められているのは、実際の業務を理解し、AIをどの工程に組み込み、データや権限、運用ルールをどう整えるかを判断できる人材だ。
自社で「AI人材」の採用を進めているのであれば、具体的にどのようなスキルを持つ人材を想定しているのか再確認する。
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