情シス専門の転職エージェント向井氏が、情報システム部門担当者に求められるスキルを経験年数別に整理する。
今回は、転職エージェントから見た、情報システム部門(以下、情シス)担当者として、「『若手』『中堅』『ベテラン』各レイヤーで評価されるスキルは何か」について書いていきます。「若手」「中堅」「ベテラン」は、年齢ではなく情シスの経験年数に基づくものです。
まずは、各レイヤーで評価されるスキルを発揮するための土台であり、評価される情シス担当者が持っておきたいスキル2つを紹介します。
これまで多くの方々を支援してきました。その中で、評価される人に共通するのは、「人の役に立ちたい」と思い、「困っている人にスッと手を差し伸べられる」高いホスピタリティです。情シスは日々、さまざまな立場、さまざまなレベルのIT知識の人からの問い合わせに向き合います。いわば縁の下の力持ちのような存在です。「人によって態度が変わる」「自分のやりたいことだけを優先する」方は、情シス業務で活躍することは難しいと思います。
情シス業務では、日々社内から膨大な量の相談を投げ掛けられます。そのタイミングは、「トラブルが起きている」「困っている」といった場面がほとんどです。
困りごとを抱える側からすると、「自分のペースで返答する人」より、「速くレスポンスしてくれる人」の方が重宝されます。こうした対応の積み重ねは、社内からの信頼を築く機会にもなります。困っているときに素早く、分かりやすく、丁寧に対応してくれる情シスであれば、「この人に相談すれば大丈夫」と思ってもらいやすくなります。
では、これらを踏まえた上で、それぞれのレイヤーごとに評価されるポイントを見ていきましょう。
「とにかく積極的に動くこと」に尽きます。
若手の採用では、現時点で持っている知識や経験だけでなく、今後の成長可能性、いわゆるポテンシャルが評価されます。具体的には、「入社後にどれだけ多くのことを吸収し、それを業務やチームに還元できるか」が重視されます。
若手のコミュニケーションの主な対象は、日常的に接する同僚や上司です。コミュニケーションの目的は、業務に必要な知識や仕事の進め方を学ぶ「インプット」と、周囲に自分の存在や得意分野を知ってもらうことにあります。
具体的に評価されるアクションは、例えば以下です。
若手のうちはまず業務に慣れ、仕事の基本を身に付けることが大切です。そのためには、受け身で指示を待つのではなく、自分から質問し、周囲の仕事を観察し、積極的に情報を取りに行く必要があります。
同時に、社内で自分の顔を知ってもらうことも重要です。「○○について学んでいる人」「相談すると素早く動いてくれる人」と認識されれば、仕事や情報が集まりやすくなります。若手にとっての関係構築は、すぐに誰かを動かすためのものではなく、将来の成長につながるインプットの機会を増やすためのものです。
中堅の情シスが評価されるポイントは「引き出しの多さ」です。
幅広いスキルを身に付けた中堅層には、1人で広く深く業務をカバーできることが期待されます。さらに社内からは、「あの人に任せても問題ないか」「あの人に質問したら解決に進むのか」という観点で見られるようになります。
ただし、どれだけ経験を積んでも、全ての質問に対する答えを自分一人で持つことはできません。そこで中堅層に求められるのが、周囲の知識や経験を活用して、問題を解決に導く力です。
中堅のコミュニケーションの主な対象は、他部署のキーパーソンや社外の専門家です。その目的は、関係者を「巻き込むこと」と、これまで築いてきた「人脈を活用すること」にあります。
例えば、新しいシステムを導入する場合、情シスだけで要件を決めても、すぐに現場で使われる仕組みにはなりません。業務をよく知る他部署の担当者や、意思決定に影響を持つキーパーソンに協力を仰ぎ、要望や懸念を引き出す必要があります。
技術的な問題の解決策が見つからない場合には、同僚や上司だけでなく、取引先のエンジニア、ITベンダー、社外の専門家、勉強会で知り合った人などに知見を求める場面も出てきます。
重要なのは、単に知り合いが多いことではありません。「この問題であれば、誰に相談すれば前に進むか」を判断し、適切な相手に協力を求められることです。自分に不足している知識や権限を、他者の力を借りることで補える人は、問題解決の引き出しが多い人だと評価されます。
中堅層には、自分一人で業務を完結させるだけでなく、周囲を巻き込みながら成果を出すことが求められます。若手の頃に築いた関係を、実際の問題解決やプロジェクト推進に活用できるかどうかが、一段上の評価につながります。
ベテラン層になると、担当業務を遂行する能力だけでなく、組織全体を動かす力が評価されるようになります。
複数人で構成される情シス部門であれば、「後進の育成やマネジメントスキル」を身に付けておきたいです。少人数の情シス部門や、1人で情シスを担当している場合には、「情シスとしての幅広い経験や課題解決スキル」が評価されます。
さらに、定常業務だけでなく、経営層を巻き込んだ予算獲得や、複数の部署にまたがる意思決定に関わる機会も増えていきます。
ベテラン層のコミュニケーションの主な対象は、経営層や他部署の責任者です。その目的は、立場の異なる関係者との「合意形成」や「利害調整」を進めることにあります。加えて、自らの経験やプロジェクトから得た知見を、社内外にナレッジとして発信することも大切です。
例えば、AIツールの導入場面を考えてみましょう。企業としては、事業の成長を妨げない範囲で、未承認のAIサービスを業務利用する「シャドーAI」を防ぎ、情報漏えいや権利侵害といったリスクを抑える必要があります。
ただし、情シスが一方的にAIツールの使用を禁止すれば、現場から「業務効率が下がる」「実態を理解していない」と反発される恐れがあります。一方で、現場の利便性だけを優先すれば、経営層やセキュリティ部門が許容できないリスクを抱えることになります。
こうした場面では、それぞれの立場や利害を把握した上で、どこまで利用を認め、どのような条件を設けるのかを調整する必要があります。経営層には経営リスクや投資対効果を説明し、現場には利用制限の理由を分かりやすく伝え、双方が納得できる落としどころをつくる必要があります。
ここで求められるのは、説明が上手であることだけではありません。異なる意見を持つ人たちの間に入り、共通の目的を示しながら、意思決定を前に進める力です。こうした合意形成や利害調整をスマートに進められることが、ベテラン層の大きな評価ポイントになります。
さらに、ベテランには、これまで蓄積してきた経験や知識を自分だけのものにしない姿勢も必要となります。社内の勉強会やマニュアル、後進への指導を通じて知見を共有するほか、社外のイベントや記事、SNSなどで情報を発信することも、情シス全体の価値向上につながります。
ナレッジを発信することで、社内では「この分野に詳しい人」として信頼されやすくなり、社外から新たな情報や相談が集まる可能性もあります。ベテランにとっての関係構築は、目の前の問題を解決するだけでなく、組織に知識が蓄積され、継続的に活用される状態をつくるためのものです。
このように、レイヤーによって、コミュニケーションの対象と目的は変わります。
それぞれのレイヤーで求められる役割は異なりますが、これらは決して独立しているわけではありません。若手時代に積極的に情報を取りに行き、自分を知ってもらった経験が、中堅になったときに周囲を巻き込む力につながります。中堅時代に築き、活用してきた人脈や問題解決の経験が、ベテランになったときの合意形成や利害調整を支えます。
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