AI導入前に見直すべきは業務整理の進め方
「頑張っても報われない」業務改善 中小200社が見落とす棚卸しの効果
スタディストは、従業員300人未満の企業を対象とした業務改善実態調査の結果を発表した。業務改善の目標を達成した企業は19.5%にとどまり、目標達成率が高い企業の傾向も明らかになった。
AIや自動化ツールを導入しても、対象となる業務や手順が整理されていなければ、十分な効果は得にくい。業務改善を成功させるには、ツールの選定や実装を急ぐ前に、現状の業務を棚卸しし、改善対象を明確にする必要がある。
業務マニュアル作成・共有システムなどを提供するスタディストは、「300名未満の中小企業における業務改善実態調査」を実施した。回答者は、従業員300人未満の企業に勤務し、業務改善に携わった経験がある担当者200人。調査期間は、2026年6月24~25日。
調査からは、多くの担当者が日々の周辺業務に追われ、改善活動そのものに十分な時間を割けていない実態が見える。業務改善の成果を左右していたのは、施策の実行量だけではなく、その前段階にある「業務の棚卸し・整理」だった。
中小企業200社調査で見えた「あの作業」の重要性
現在の業務でコア業務に集中できているかを尋ねたところ、「あまり集中できていない」が43.0%、「ほとんど集中できていない」が4.0%だった。合計47.0%が、コア業務に十分な時間を使えていないということになる。
コア業務以外で時間を取られている作業は、「社内報告・資料作成」が56.5%で最も多かった。「メール・チャット対応」が43.0%、「請求・経費処理などの事務作業」が40.0%、「会議・打ち合わせの調整」と「マニュアル・手順書の整備」がそれぞれ37.0%で続いた。
単独では小さく見える作業であっても、日常的に積み重なれば、本来取り組むべき業務の時間を圧迫する。
スタディストは、周辺業務を効率化できない理由も尋ねた。その結果、「誰かに任せたいが任せられる人がいない」が49.0%で最多だった。「そもそも整理する時間がない」が39.5%、「業務の手順が言語化できておらず引き継げない」と「外注したいが何をどこまで任せればいいか分からない」がそれぞれ22.0%だった。
調査結果からは、業務を任せたくても手順を言語化できず、他の従業員や外部事業者に引き継げない属人化が、周辺業務の効率化を妨げている状況がうかがえる。
業務改善に取り組んでも8割が目標未達
調査では、業務改善の成果についても尋ねた。その結果、当初の目標と比べて「目標以上」の成果を得たと答えた企業は1.5%、「おおむね目標通り」は18.0%だった。目標を達成した企業は合計19.5%にとどまった。
一方、「目標の半分程度の成果」は46.0%、「ほとんど成果が出なかった」は26.5%、「取り組み自体が途中で止まった」は8.0%だった。合計80.5%が、当初期待していた成果に届いていないということだ。
成果が不十分だったと答えた161人に理由を尋ねたところ、「担当者が他業務と兼任で手が回らなかった」が28.6%で最も多かった。2位以降として「時間が足りなかった」(23.0%)、「何から手を付ければよいか分からなかった」(22.4%)が続いた。
調査結果からは、担当者が業務改善を主業務と兼任していることや、改善に取り組む時間が不足していることが、成果を妨げる要因になっていることが分かる。時間を確保するとともに、何から着手するかを整理することが重要であることを示唆している。
「棚卸し・整理」と「改善」を分けた企業は9%
業務改善の進め方について尋ねた質問では、「業務の棚卸し・整理」と「改善の実行」を別の工程として明確に分けた担当者は9.0%にとどまった。「同時並行で進めた」が51.0%、「明確には分けていない」が23.0%、「整理より改善を優先した」が17.0%だった。
業務改善全体のうち、棚卸し・整理に割いた時間が「1割未満」だった担当者は15.5%、「1~2割」は55.5%だった。合計71.0%が、整理に使った時間を全体の2割以下と回答した。
整理に時間をかけるほど成果達成率が上昇
業務改善全体に占める棚卸し・整理の時間と成果の関係を分析した結果、整理に使う時間の割合が高い企業ほど、目標達成率が高くなる傾向があることも調査から分かった。
1~2割、3~4割と整理時間が増えるにつれて達成率が上がり、特に5割以上を整理に使った企業では63.6%が目標を達成した。
ただし、整理時間が5割以上だった企業は200社中11社に過ぎない。整理に時間をかければ必ず成功するという因果関係を示した結果ではなく、参考値として捉える必要がある。それでも、改善策を急いで実施するより、現状の把握や課題の特定に十分な時間を使うことが、成果につながる可能性を示す結果だといえる。
AI導入企業の6割超が個人利用にとどまる
調査では、AI活用の現状と課題についても尋ねた。その結果、業務効率化を目的にAIや自動化ツールを導入した経験がある担当者は47.0%だった。
導入企業に活用方法を尋ねたところ、「個人的な作業補助として利用」と回答した割合は61.7%だった。「業務フローへ組み込んでいる」は28.7%、「複数業務を自動化している」は2.1%であり、組織的な業務改善に発展している企業は限られていることが分かった。
AIの効果については、「十分な効果が出ている」が3.2%、「ある程度効果が出ている」が62.8%で、合計66.0%が効果を実感していた。
一方、効果が出ていない理由は、「使いこなせる人材がいない」が65.6%で最多だった。「どの業務に適用すればよいか分からない」が40.6%、「業務自体が整理されていないので適用できない」が28.1%で続いた。
AI研修を実施して利用者を増やすだけでは、業務全体の改善にはつながりにくい。どの工程に時間がかかっているのか、どの作業をAIに任せられるのか、出力結果を誰が確認するのかといった業務設計が必要になる。
全てを自社で整理する必要はあるのか
業務の棚卸し・整理だけを外部に任せる選択肢について、56.5%は「検討したことがない」と回答した。
検討しなかった理由は、「自社でできると思っていた」が45.1%、「そういったサービスがあることを知らなかった」が37.2%、「費用がかかると思った」が32.7%だった。「何を外部に任せればよいか分からなかった」も27.4%あった。
外部に任せたい業務では、「AI・自動化ツールの設計・実装」が44.0%で最多だった。「マニュアル・手順書の作成」が41.0%、「定型的な事務処理・データ入力」が37.0%、「業務の棚卸し・整理」が19.5%で続いた。
ただし、外部リソースの利用には課題もある。「費用がかかる」が57.5%、「効果が出るかどうか不安」が49.5%、「何をどこまで任せればよいか分からない」と「自社の業務を外部に開示することへの抵抗感がある」がそれぞれ25.5%だった。
外部事業者を利用する場合は、業務全体を丸投げするのではなく、棚卸し、手順の文書化、ツールの実装など、任せる範囲と成果物を明確にする必要がある。費用だけでなく、削減できる工数や引き継ぎ可能な業務の増加、属人化の解消といった効果も評価すべきだ。
業務改善は「何を効率化するか」の選択から始まる
外部リソースの活用を自社にとって有効だと考える割合は全体で約7割だった。コア業務に集中できていない人では79.8%に上り、集中できている人の65.1%を14ポイント以上上回った。
限られた人員で通常業務を続けながら、業務整理、AI導入、人材育成の全てを社内だけで進めることは容易ではない。まずは業務を可視化し、自社が担うべきコア業務と、廃止、自動化、標準化、外部委託が可能な業務を分ける必要がある。
業務改善の目的は、全ての作業を一律に速くすることではない。従業員が本来注力すべき業務に時間を使える環境を整え、企業が生み出す付加価値を高めることである。AIや自動化ツールの導入を検討する企業ほど、実装を急ぐ前に「何を改善するのか」を整理することが求められる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社キーエンス] PCが苦手でも自動化できる ポポラマーマなど4事例に学ぶ「ナビ搭載型RPA」活用 -
製品資料
[株式会社クレオ] IT部門を“価値創造組織”へ転換 IT管理プロセスの改革で戦略的リソースを確保 -
製品資料
[株式会社クレオ] Excel管理が限界に――ITサービス管理の脱・属人化と運用高度化を実現する方法 -
製品資料
[株式会社クレオ] 西武グループやイオングループも実践 事例に学ぶ「ITサービスデスク業務」改善 -
製品レビュー
[株式会社クレオ] 「使われないITシステム」から脱却 現場が求める業務改善を実現する方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
2
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
3
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
4
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
5
IT業界の女性は9割が10年で消える 人材枯渇を招く“見えない壁”の正体
-
6
世界PC出荷数が20%急減 情シスを直撃するPC先行調達の反動と価格高騰
-
7
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
8
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
9
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
10
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
4
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
5
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
6
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
7
東大教授と考える、AI時代の「データ主権」「信頼性」「ガバナンス」の在り方
-
8
Linux初心者でも知らないとまずい「RHEL」「SLES」の違いとは?
-
9
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー