既存ログでは不十分?
「macOSは安全」はもう通じない 深部の脅威を暴くApple「ESF」活用術
勢いを増すmacOSへの攻撃に対し、既存ログのみでそれらを検出するのは困難だ。システム監視機能「Endpoint Security」を活用し、システム深部のイベントを可視化して脅威ハンティングを実施する方法を解説する。
「『macOS』は『Windows』に比べて安全だ」という認識は、広く浸透していた。しかし、その安全神話はもはや過去のものとなっている。近年、macOSを取り巻く攻撃状況は激化しており、国家主導の攻撃だけではなく、「Nim」「Rust」「Zig」などのプログラミング言語で書かれた新たなマルウェアがmacOSを狙うようになっている。
インシデント調査において、従来はmacOS標準のシステム診断ツール「sysdiagnose」や、ログ一元管理システム「Apple Unified Log」などが利用されてきた。しかし、これらの手法だけでは、マルウェアによるファイルの作成や削除、プロセスの実行といったシステム深部の動作を詳細に追跡することが難しい場合がある。
こうした課題を解決する手段として、Appleが提供する、セキュリティ用API「Endpoint Security」(「Endpoint Security Framework」<ESF>とも)がある。ESFを利用することで、これまで見えづらかったOSの低レベルな挙動を可視化し、効率的な脅威ハンティングが可能になる。
ESFは強力な仕組みである半面、イベントデータはストリーム配信されるのみで、デフォルトではログとして保存されないという制約がある。このデータを収集し、実際の調査に活用するためにはどのような手順を踏めばよいのか。
「eslogger」で暴く脅威の実態
本稿では、セキュリティ教育機関SANS Instituteが主催するデジタルフォレンジックイベント「SANS DFIR Summit 2025」におけるセッション「MacOS Endpoint Security Framework: Not Another MacOS Log Source」の内容を基に、ESFの実践的な活用法を解説する。登壇したのは、サイバーセキュリティ企業ProofpointのStaff Software Engineerであるジェイコブ・ラトニス氏と、脅威インテリジェンス企業GreyNoise IntelligenceのEngineerであるジュリア・パルチ氏だ。
ESFは2019年に公開された、OSの内部機能に直接アクセスできる「C」言語用のAPIだ。プロセスの実行、ファイルのオープンや作成、削除といった多様なシステムイベントを可視化できるようにする。
ESFから得られるイベントの中で特に重要なのが、プロセスのライフサイクルに関わる情報だ。例えばプロセスの作成を示す「exec」イベントには、実行可能ファイルのパスや、Appleの署名があるかどうかを示すOS標準バイナリ(Platform Binary)などのメタデータが含まれる。
分析で注意すべき点として、macOS特有のプロセス管理機能がある。macOSは、親プロセスが子プロセスよりも先に終了した場合、子プロセスが孤立しないようにOSが別のプロセスに親を付け替える「リペアレント」を実施する。この構造を正確に判別するため、ESFのデータにはそのアクションを引き起こした大本のプロセスIDを示す「Responsible PID」が含まれており、これを用いることで正確なプロセスの親子関係(実行チェーン)を再現できる。
エンドユーザーのプライバシー権限を管理するセキュリティ機構「TCC」(Transparency, Consent, and Control)データベースの監視機能もESFに組み込まれている。TCCは、アプリケーションがカメラやアクセシビリティー機能といったシステム権限・保護データにアクセスする際のルールを管理するデータベースだ。かつては脅威アクターがTCCデータベースを改ざんして権限を奪取する手法が存在した。現在ではOS保護機能「SIP」(System Integrity Protection)によって直接の変更は防がれているものの、ESFを通じてTCCデータベースの変更履歴を監視することで、不正な権限操作を検出する一助となる。
ESFから出力されるイベントストリームを記録し、分析可能な形にするためには、macOSに組み込まれているコマンドラインツール「eslogger」を活用する。esloggerを使用すると、指定したイベントタイプを「JSON Lines」(JSONL)形式で標準出力したり、ログ一元管理システムに転送したりすることが可能だ。
プロセスのライフサイクルに関わるイベントのみを監視したい場合は、esloggerの実行時に「exec」「fork」「exit」といったイベントタイプを指定し、その出力を任意のファイルに保存するよう設定する。出力されたログは、「Python」プログラムやJSON処理ツール「jq」などでパースすることで、調査担当者が解読しやすい形式に変換できる。パースされたログを分析することで、例えばユーザーのダウンロードフォルダに置かれた「Chrome Update」と名乗る偽装バイナリが、暗号資産ウォレットのファイルにアクセスしようとしているといった事象を発見できる。ただし、全てのファイルオープンイベントを監視するなど、フィルタリングせずに収集すると膨大なノイズが発生するため、監視対象のディレクトリやイベントを適切に絞り込むことが不可欠だ。
macOSを標的とした攻撃が高度化する中、システムで何が起きているかを正確に把握する能力は、これまで以上に重要になっている。ESFは主にEDR(Endpoint Detection and Response)製品がテレメトリー(指標)を収集するための手段として利用されているが、企業のインシデントレスポンス担当者自身がその仕組みを理解し、ESFのデータを活用することは、既存のセキュリティ対策を擦り抜けた脅威を捕捉する強力な武器となる。
本稿は、SANS Instituteが2025年8月15日に公開した動画「MacOS Endpoint Security Framework」を基に作成しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社キーエンス] PCが苦手でも自動化できる ポポラマーマなど4事例に学ぶ「ナビ搭載型RPA」活用 -
製品資料
[株式会社クレオ] IT部門を“価値創造組織”へ転換 IT管理プロセスの改革で戦略的リソースを確保 -
製品資料
[株式会社クレオ] Excel管理が限界に――ITサービス管理の脱・属人化と運用高度化を実現する方法 -
製品資料
[株式会社クレオ] 西武グループやイオングループも実践 事例に学ぶ「ITサービスデスク業務」改善 -
製品レビュー
[株式会社クレオ] 「使われないITシステム」から脱却 現場が求める業務改善を実現する方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
2
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
3
「レガシーシステム・老朽化システムの運用課題と刷新」に関するアンケート
-
4
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
5
1回で分かる:仮想マシンを丸ごとバックアップする「VADP」の仕組み
-
6
脱VMwareか、継続か? 仮想化ソフト主要6製品の運用管理と統制機能を徹底比較
-
7
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
8
セキュリティは「情シス任せ」が過半数 漏えい発生時やSCS評価制度の課題は?
-
9
属人化と入力ミスからの解放 アクティオが日本IBMと挑む「AIで調達自動化」
-
10
IT業界の女性は9割が10年で消える 人材枯渇を招く“見えない壁”の正体
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
2
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
3
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
4
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
5
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
6
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
7
東大教授と考える、AI時代の「データ主権」「信頼性」「ガバナンス」の在り方
-
8
Linux初心者でも知らないとまずい「RHEL」「SLES」の違いとは?
-
9
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
10
生成AIの活用を阻む「5つの壁」とは? AIネイティブ組織へ変革を遂げる方法
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー