関係者は600人超、テストは2万5000回
SAP Cloud ERP Privateへ66時間で移行 スワロフスキー成功の4条件
Swarovskiは、SAP ECCからSAP Cloud ERP Privateへ約3日で切り替え、本番稼働を成功させた。どのような工夫があったのか。
基幹システムの大規模刷新では、本番切り替え時のトラブルが業務停止に直結する。グローバルで事業を展開する企業であれば、その影響はさらに大きい。
クリスタル製品やジュエリー、時計などを展開するSwarovskiは、2023年に開始したクラウドトランスフォーメーションの一環として、「SAP Cloud ERP Private」への移行を進めた。2026年4月20日の本番稼働に向けて確保した切り替え期間は66時間。約3日間という限られた時間でグローバルITプロセスを停止し、新しいERP環境への移行を完了したという。
なぜ、大規模なERP刷新を約3日の切り替え期間で本番稼働まで進められたのか。
約3日の切り替え期間で本番稼働を成功させた要因は
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理由1.移行と業務改革を同時に実施しなかった
Swarovskiが採用したのは、既存の業務プロセスやデータを生かしながら新しいERP環境へ移行する「ブラウンフィールドアプローチ」だった。
同社でCDO(最高デジタル責任者)とCIO(最高情報責任者)を兼任するレア・ソンデレガー氏は、ERP移行と同時に業務プロセスを全面的に再設計すれば、リスクやコストが大幅に増え、プロジェクト期間も長期化するとみていた。
そこで、まずは従業員が使い慣れた業務プロセスや既存データを維持したままSAP Cloud ERP Privateへ移行することを優先した。業務の簡素化や標準化は移行後に段階的に進める。
システム移行と業務プロセスの全面的な再設計を同時に進めないことで、移行プロジェクトのリスクやコスト、長期化を抑えた。
理由2.2年間で約2万5000回のテストを実施
約3日の切り替えに先立ち、Swarovskiは約2年間にわたって入念な準備を進めた。移行準備には600人を超える関係者が参加し、約2万5000回のテストを実施した。
さらに、本番環境を想定したリハーサルを2回実施した。機能が正常に動作するかだけでなく、データが正しく移行できるかについても事前に確認したという。
理由3.プロジェクトの範囲を明確にし、変更を厳格に管理
2026年4月20日の本番稼働に向け、Swarovskiは66時間の切り替え期間を設定した。その間、グローバルITプロセスを一時停止した。
短い切り替え期間で作業を完了するには、本番中に追加作業や仕様変更が発生する状況を避ける必要がある。
Swarovskiはプロジェクトの対象範囲を明確に定義し、厳格な変更管理を実施した。新たな要件によってスコープが際限なく膨らむことを防いだ。SAPによると、これがプロジェクトを予定通り、予算内で完了できた要因の一つだった。
理由4.本番後も24時間365日で支える体制を用意
本番切り替えを成功させるには、移行作業が終わった瞬間だけを見るのでは不十分だ。
Swarovskiは切り替え後に「ハイパーケア」と呼ばれる重点サポート期間を設け、24時間365日体制で問題に対応できるようにした。
これにより、本番稼働後に問題が発生した場合でも迅速に対処できる体制を整えた。結果として、66時間の切り替え期間終了後には、全ての業務プロセスを再開できたという。
SAPコンサルティングの導入経験やSAP側の専門知識を活用できたことも、移行を支えた。
移行後に標準化とAI活用を進める
もっとも、SwarovskiはSAP Cloud ERP Privateへの移行を改革のゴールとはしていない。
今後は分散したソリューションの統合や独自開発コードの見直し、データ標準化を進める。独自開発アプリケーションについても、明確な競争優位性や業務上のメリットがある場合を除き、SAPの標準ソリューションへ段階的に移行する方針だ。
さらに、整備したERP環境はAI活用の基盤にもする。既に需要予測にAIを活用し、その結果を基に地域ごとの倉庫在庫を最適化している。
「AI Agent Factory」と呼ぶ取り組みでは、SAP Cloud ERP PrivateとSAP以外のシステムのデータを組み合わせるAIエージェントも開発する。反復作業の自動化や意思決定支援、バリューチェーン全体の生産性向上につなげる狙いだ。
大規模ERP移行で停止時間を抑えたい場合、本番作業だけを速くするのではなく、何を移行時に変え、何を移行後に回すのかを切り分けることが重要になる。Swarovskiの66時間での切り替えは、その考え方を示す事例といえる。
本稿は、SAPが2026年8月18日に公開したSwarovski社、SAP Cloud ERPで卓越性を再定義を基に作成しました。
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