企業規模で広がる「認識格差」
IT業界の過半数が「AI化」未着手 導入が進まない“真犯人”は?
AIツールの利便性を理解しながらも、企業はなかなか導入に踏み切れていない。現場が抱く情報漏えいリスクへの恐怖の裏には、組織的な重大な欠陥が潜んでいる。現場を萎縮させ、AI活用を妨げている要因とは。
企業における業務の手間を削減する手段としてAIツールが普及してきたものの、「導入したいが方法が分からない」といった現場の課題が散見される。システム開発企業のGeNEEは、IT業界におけるAI活用の認識と行動のギャップを明らかにするため、「IT業界におけるAI活用の実態調査2026」を実施した。調査期間は2026年6~7月で、対象となったのはIT・情報通信業に従事する22〜59歳の会社員、経営者、役員800人だ。
調査の結果、対象者の54.0%が「AIツールに任せられる業務がある」と認識しつつも未着手であることが分かった。AIツールによる自動化の余地がある業務に費やす時間は1日平均24.0%(月換算で約38時間)に上り、現場には大きな「見えない時間の損失」が生じている。
半数以上が効率化の余地を認識しながら、なぜAI活用は進まないのか。阻害要因の核心や企業規模による格差、組織課題を解消する仕組みを解説する。
「見えない損失」とAI化できる業務の実態
調査結果を分析すると、AI活用の余地があるにもかかわらず、それに気付いていない「認識ギャップ」の存在が浮き彫りになる。「AIツールで自動化できる業務がない」と回答した層にAI活用が進まない理由を尋ねたところ、43.0%が「特に理由はない」と回答した。これは全体平均である25.6%の約1.7倍に上る。「分からない」と回答した層も含めると、全体の86.0%が何らかの形でAI活用の余地や課題を抱えていることになる。
どのような業務にAIツールを活用できる余地があるのか。回答の上位を占めたのは、職種を問わず発生する汎用(はんよう)的な業務だ。1位は「議事録、報告書の作成」で55.3%、2位は「メール、提案文などの文章作成」で49.8%、3位は「データ集計、レポート作成」で45.6%だった。これに対して、IT業界特有の専門的な作業である「コード生成・レビュー」は40.5%となっており、一般的な事務作業の方がAIツールによる時間削減の対象として強く認識されている。これらの汎用業務を効率化できずに費やしている時間は月間約38時間に達し、大きな人手と時間の浪費につながっている。
阻害要因は「セキュリティ懸念」と「ルールの不在」
現場がAIツールの有効性を認識していながら導入に踏み切れない最大の理由は、「情報漏えいなどのセキュリティリスクへの懸念」であり、全体の37.2%を占めた。次いで「社内ルール、ガイドラインが未整備」が25.6%、「特に理由はない/すでに十分活用できている」が25.6%と続く。導入・運用費用が見合わない(13.8%)や、上司の承認が得られない(9.9%)といった理由よりも、セキュリティへの不安が先行している。
ここで着目すべき事実は、セキュリティに対する懸念が技術的な不安にとどまらないという点だ。GeNEEの分析によれば、「セキュリティリスクが怖い」という心理的ハードルの背景には、社内ルールの不在によって「どの業務データをどこまでAIツールに入力してよいか判断できない」という構造的な問題が潜んでいる。ガイドラインという運用基準がシステムとして整備されていないため、現場の担当者は情報漏えいのリスクを恐れ、結果としてツールの利用を控えるという悪循環に陥っているのだ。AIツールの導入における最大の壁を突破する手段は、最新のツールを導入することではなく、まずは社内の情報取り扱いに関する規定や体制を整えることにある。
企業規模によって広がる認識格差
本調査は企業規模によってAI活用の可能性に対する認識に大きな格差が存在することを明らかにした。「AIツールに任せられる業務がある」と回答した割合を従業員規模別に見ると、300~999人規模の企業では62.2%に達する。一方で、29人以下の小規模企業では41.4%にとどまっており、その差は最大で20.8ポイントに上る。
この結果は、大企業と中小企業の間でAIツールに触れるインフラや教育体制に差があることを示している。中規模以上の企業では、一部の部署で試験的な導入が進んでいたり、情報収集の機会が多かったりするため、自らの業務におけるAIツールの代替余地に気付きやすい。対照的に、小規模企業では日常業務に追われて新たなツールを試す時間や人員が確保できず、結果としてAI活用の余地そのものに気付きにくい仕組みになっている。
企業はAIツールを導入しようとする際、どのツールを選ぶかという技術的な手段に注力しがちだ。しかし実際の導入を阻んでいるのは、ルール未整備によるセキュリティ不安や、自社のどの作業が効率化できるかという業務の棚卸し不足といった組織的なインフラの欠如だ。
現場の時間を奪っている議事録作成やデータ集計といった汎用業務をAIツールに集約し、人手をコア業務に振り向けるためには、経営層が主導してガイドラインを策定し、安全に利用できる体制を構築する必要がある。認識と行動のギャップを埋めるためには、ツール導入の前提となる組織のルール整備と、現場の意識改革を並行して進めることが欠かせない。
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