CaaSとは
AIエージェントの隠れコスト「コンテキスト調達」 3つの選択肢をコストで比較
AIエージェントの判断や推論を支えるのがコンテキスト(文脈)だ。コンテキスト取得の選択肢として挙がるのがWeb検索や「CaaS」だが、CaaSはどのような場面で使えばいいのか。そもそもCaaSとは何か。
AIエージェントがWebを検索し、必要な情報を取得して業務を進める――。こうした使い方が広がる中、モデルの利用料金だけでなく、「エージェントに与えるコンテキストをどう調達するか」が新たなコスト課題になりつつある。
Webデータの収集、提供を手掛けるBright Dataのプロダクトマーケティング責任者、オメル・プリモ氏は、「The Rise of CaaS:Context-as-a-Service for Agentic AI」と題した講演で、AIエージェント向けのWeb情報取得について解説した。
同氏が注目するのが「CaaS」(Context-as-a-Service)だ。Web検索やCaaSを使えば、AIエージェントは必要な外部情報を手軽に取得できる。一方、同じ情報を繰り返し取得する業務では、その都度コストが発生する。
では、どのような場合に外部サービスを利用し、どのような場合に自社でコンテキストを蓄積すべきなのか。
CaaSとは どのような場面で使えばいいのか
AIやAIエージェントの普及によって、Webの使われ方は変わりつつある。
従来は、人間がWebを検索して必要な情報を見つけ、その内容を利用する形が中心だった。一方、知識労働を支援するAIエージェントでは、Webから情報を取得すること自体はゴールではない。取得した情報を判断や推論の材料として使い、その後の処理や行動につなげる。
プリモ氏は、AIエージェントの登場によってWebを単なる「データの供給源」ではなく、「コンテキストの供給源」として捉えられるようになったと説明する。Webからのデータ取得は、エージェントが仕事を完了するまでの一工程になるという考え方だ。
ただし、Webをコンテキストとして利用する場合には課題があるという。「Webは乱雑で、非構造化されている。そして何より、常に変化している」(プリモ氏)
Bright Dataが実施した分析では、SNSの情報は公開後1日未満で関連性を失うケースがあるほか、ニュース、金融、小売などの情報も時間の経過とともに陳腐化するという。そのため、AIエージェントがWeb上の情報を業務に利用するのであれば、一度データを取得して終わりにはできない。
「Webからコンテキストを取得することは、スナップショットを取るような一度限りの作業ではない。継続的なプロセスとして考える必要がある」とプリモ氏は述べる。
「検索」だけでは取れない情報を扱うCaaS
AIエージェントが外部情報を取得する代表的な方法がWeb検索だ。近年では、人間向けの検索エンジンだけでなく、AIエージェントによる利用を想定してWebをインデックスするAI検索サービスも登場している。
ただし、プリモ氏はWeb検索だけで得られる情報には限界があると指摘する。
例えば、あるEC(Eコマース:電子商取引)サイトで特定のスニーカーがいくらで販売されているのかは検索できる。しかし、その商品の価格が過去6カ月間でどのように変化したのか、いつ割引されたのかといった履歴を検索だけで把握するのは難しい。
企業情報も同様だ。現在公開されている求人は検索できても、求人件数や従業員数が時間とともにどう変化したのかを知るには、過去のデータを蓄積する必要がある。
プリモ氏は、こうした情報も含めてAIエージェントに提供する新たなサービス群を「CaaS」と呼ぶ。
CaaSは、単にWebを検索してページを返す仕組みとは異なる。複数の情報源からデータを収集、統合し、重複を整理した上で、企業や人物などの情報をエンティティとして構造化する。ナレッジグラフを構築し、AIエージェントがMCP(Model Context Protocol)やCLI(コマンドラインインタフェース)、APIなどを介して利用できるようにするサービスもある。
プリモ氏によると、こうしたサービスはEC、旅行、金融、市場調査、人事、不動産、営業支援など、さまざまな分野で登場している。同氏はCaaSについて、特定の用途に特化して情報を集め、構造化する点で「非常に特定領域に強い検索エンジンのようなもの」と話す。
AI検索とCaaS、どちらを使うべきか
では、AIエージェントにWeb情報を与える場合、Web検索とCaaSのどちらが適しているのか。
プリモ氏らは、この違いを調べるために簡単な実験を実施した。実験では、1社の企業について、企業名やドメイン、本社所在地、採用、人員など25項目の情報を収集するエージェントを構築した。イベントのスポンサー企業を対象に100回処理し、複数の検索手段やCaaSを比較した。情報のカバー率では、検索サービスと主要なCaaSの多くがおおむね近い結果になった。一方、一部のCaaSは検索サービスより低い結果となった。
プリモ氏は当初、この結果を意外に感じたという。しかし、CaaSの仕組みを考えれば理由は理解できると説明する。CaaSは、事業者が事前に収集、構造化したデータを基に情報を提供する。そのため、求められた項目を事業者側が収集していなければ回答できない。一方、検索サービスであれば、その場でWebを探索し、別の情報源を探せる。
「CaaSは、そのエンティティについて保有している情報の範囲に制約される。最近の採用情報を収集していなければ、その情報は出てこない」(プリモ氏)
ただし、これだけで検索の方が優れているとは判断できない。CaaSには、今回の実験では対象にしなかった構造化情報や項目が含まれている可能性があるからだ。重要なのは、一般的な情報量ではなく、AIエージェントに任せたい具体的な業務に必要な情報をどの程度取得できるかだという。
AIエージェントのコストを左右する「頻度」
もう1つの重要な比較軸がコストだ。検索サービスを利用する場合、検索そのものの料金に加え、取得したWeb情報をAIモデルで読み取り、利用できる形式に整理するためのトークンコストが発生することがある。
一方、CaaSはあらかじめ構造化されたデータを提供するため、コスト構造が異なる。プリモ氏らの実験でも、サービスによって料金には大きな差が見られたという。
ただしプリモ氏が特に重要だとするのは、1回当たりの料金だけではない。「情報を何回取得するのか」という頻度だ。例えば、市場調査や企業のデューデリジェンスでは、企業情報を1回取得して終わるとは限らない。「新しいニュースはないか」「従業員に変化はないか」「新しい求人が出ていないか」といった情報を定期的に確認する。
外部の検索サービスやCaaSから情報を取得する場合、前回から何も変わっていなくても、再度問い合わせればコストが発生する。
コンテキストを自前で「所有する」という選択肢
では、同じ情報を何度も必要とするのであれば、自社でWebデータを収集、蓄積した方が安くなるのではないか。プリモ氏らは、この考えを確かめるため、企業情報を収集する簡単な仕組みを試作した。
最初に企業名を基に情報源を特定し、企業情報や求人情報などを取得する専用のスクレイパーを用意する。取得した情報を企業単位で統合し、情報が競合した場合には簡単なルールを使って採用するデータを決める仕組みだ。
この実験では、情報収集の段階でAIモデルを利用しなかったため、トークンコストは発生しなかった。プリモ氏は、情報のカバー率について最高水準ではなかったものの、簡易な実験としては比較的良好だったと説明した。
ただし、自前で構築する場合、初期投資が必要になる。そこでプリモ氏は、仮に構築期間を1週間、初期費用を5000ドルと置き、外部サービスを使い続けた場合とのコストの分岐点を試算した。
その条件では、約1万5000件のエンティティまたはクエリを処理する辺りから、自前構築を検討できる結果になったという。
単発ならAI検索、繰り返すなら「所有」も検討
プリモ氏は、AI検索やCaaSを否定しているわけではない。必要な情報がその都度変わるアドホックな調査であれば、すぐに利用できるAI検索やCaaSの方が優位だ。用途によって検索とCaaSを使い分けたり、組み合わせたりする方法も考えられる。
一方、同じ種類の知識業務を継続し、同じ企業や商品、人物について何度も情報を取得するのであれば、外部サービスへの問い合わせ頻度がそのままコスト増加につながる。
そうした用途では、必要なデータを自社で収集し、コンテキストとして保持する方法も選択肢になる。自社で保有すれば、独自のビジネスロジックを組み込んだり、社内データと組み合わせたりすることも可能になる。
本稿は、2026年8月15日にAI Engineerが公開したThe Rise of CaaS:Context-as-a-Service for Agentic AI-Omer Primor, Bright Dataを基に作成しました。
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