統制と現場のスピードを両立する実践知
AIを配るだけでは現場が空転 GitLabが明かす「AIを使いこなす組織の育て方」
AIを導入しても振り回されるチームと成果を出すチームで何が違うのか。GitLabが実践した、IT統制と現場の自律を両立させながら組織全体の「AIを使いこなす力」を着実に底上げする社内プレイブックに迫る。
全社に生成AIツールを一斉配布したものの、現場からは「精度が低くて使えない」という声ばかりが上がり、利用がいっこうに定着しない。多くの情シスが直面するこの課題に、DevOpsプラットフォームを手掛ける米GitLabが自社組織で実践したプレイブックを公開した。
同じツールを使っても成果を出すチームと出力に振り回されるチームに分かれるなか、同社はIT統制と現場の自律をどう両立させ、組織全体の「AIを使いこなす力」を引き上げたのか。本記事では、国内の情シス部門が形骸化したAI導入から脱却するための具体的な処方箋を探る。
中央集権と現場主導を両立する連合型モデル
GitLabでは社内へのAIツール展開が進むにつれ、早期に開発スピード向上や問題の早期発見といった価値を引き出すチームと、AIを前提としたワークフローを組み立てられず立ち止まるチームの二極化が生じていた。そこで同社は、単なるツールの配布や権限付与にとどまらず、何を任せて結果をどう見極めるかという「AIフルエンシー(AIを使いこなす力)」の育成を方針に据えた。
基盤となるガバナンスの設計では、承認を1カ所に集約する「完全中央集権型」と、現場に任せる「完全分散型」の双方に潜むリスクを検討した。中央集権型は技術の急速な進化で承認がボトルネックとなり、現場が枠組みを迂回(うかい)して勝手にツールを使い始める危険がある。一方で完全分散型は、全社的な取り組みがばらばらになり、セキュリティなどのガードレールを統一できなくなる。
この課題に、同社は双方の利点を組み合わせた連合型(フェデレーテッド)モデルを採用した。社内ITを担うEnterprise Technologyチーム内の「Enterprise AI」がハブとなり、主要ベンダーとの関係構築や標準仕様、セキュリティガードレールを中央で所管する。その統制の上で、各事業組織にシニアリーダーである「AI Transformation Owner」を配置して現場主導の自動化戦略を描かせ、さらに推進役となる「AIチャンピオン」のコミュニティーを各組織内に組織した。
同社のCIO(最高情報責任者)を務めるマヌ・ナラヤン氏は「社内でもオペレーティングプリンシプルの1つに『スピードと品質の両立』を掲げている。コーポレートガバナンスとコンプライアンスの要件に沿いながら、高い品質で素早くリリースできる状態を目指した」と狙いを説明している。
人事部門と連携し「AIの現在地」を可視化
統制の枠組みと並行して進めたのが、人材開発を担うTalent Developmentチームとの連携だ。メンバーのスキルレベルに応じた学習機会を提供するため、自己診断ツール「AI Literacy Ladder」を開発した。メンバーが自身のAIフルエンシーの現在地を把握し、役割に応じた学習手順を選べるようにした。
エンジニア向けには、日々の実務に直結する学習パスを用意した。プランニングやコードレビュー、破損したパイプラインの修復、セキュリティ修正など、開発業務にカリキュラムをひもづけることでスキルの定着を図った。
同社のロブ・アレン最高人事責任者は「目標は今あるツールの使い方を教えることではない。AIが進化し続けても自信を持って適応していける、判断力と長く使えるスキルを育ていることにある」と方針を述べている。
実習ラボを含む上級ワークショップでは、参加したエンジニアの87%超が「学んだ内容を今後2週間以内に実務で活用する見込みだ」と回答した。施策の開始から1カ月後には、主要な社内AIコーディングツールの1日あたりのインタラクション数が22.3%増加するなど、現場での定着が進んだ。技術系以外のワークショップでも参加者の95%が2週間以内の実践を見込み、92%がツールの使用に対する自信を高めたという。
成果測定は「到達度」「深度」「適用価値」の3軸で評価
GitLabでは施策の成果を測るため、単一の利用率にとどまらず3つの指標を組み合わせて追跡している。
- リーチ(到達度):自己診断や学習パスを完了したメンバーの割合
- デプス(深度):学習パスを継続して進めているかどうかの度合い
- 適用価値:研修後のフィードバックによる実務上の価値と、ツール利用頻度の有意な伸び
同社はこれら3つの指標を重ねて見ることで、学習支援が実務の成果に結び付いているかを客観的に評価している。
自社でAI導入を進める企業に向け、GitLabは実践から得られた6つの学びを提示している。「初日からIT部門と人事部門を同席させること」「技術の進化速度に追い付く柔軟なガバナンスを組むこと」「画一的な教育を押しつけず現在地に合わせること」「学習支援を恒常的なプロダクトとして運用すること」「ツールの操作ではなく見極める判断力を養うこと」「完璧な戦略を待たずに小さな前進を重ねること」の重要性を挙げ、文化の着実な醸成を呼びかけている。
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