IBMがブロックチェーンを活用する理由
IBMの責任者が語る ブロックチェーン技術の導入を成功に導く要素とは
ブロックチェーンを使ったプロジェクトには、ビジネスのやり方を変えなければならないという信念が必要だ。ブロックチェーンのプロジェクト推進におけるCIO(最高情報責任者)の役割と、成功までの道筋を説明する。
「ブロックチェーン」(分散型台帳技術)を活用したプロジェクトを始めるに当たり、CIO(最高技術責任者)やIT部門が知っておくべきことは何だろうか。
「『ビジネスプロセスを改善する方法があるはずだ』という確信を関係者の間で共有することが、ブロックチェーンのプロジェクトを動かす力になる」。IBMでブロックチェーンテクノロジー部門統括責任者を務めるジェリー・クオモ氏はこう語る。ブロックチェーンのプロジェクトは複数の組織、企業が協力することを前提とする。第一にこの確信を共有しなければならないという。
ブロックチェーンのプロジェクトに乗り出す際、CIOやIT部門が考慮すべき点についてクオモ氏に聞いた。
併せて読みたいお薦め記事
ブロックチェーンのさまざまな使い道
- ブロックチェーンは効果的? 「文書改ざん防止システム」の作り方
- クレジット審査も「顔パス」に? ブロックチェーンの意外な使い道
- ブロックチェーンによる分散型クラウドストレージの可能性
- 2018年の医療ITトレンド4選、ブロックチェーンや人工知能はいよいよ実用段階へ
ブロックチェーンをより詳しく
――ブロックチェーンがビジネスに価値をもたらす理由を教えてください。
ジェリー・クオモ氏:大まかに言うと、複数の組織、企業が協力するブロックチェーンはチームスポーツのようなものだ。組織単体で得られる以上の価値が生み出せる。ブロックチェーンで重要なのはこの点だ。とくにビジネスプロセスの運用にブロックチェーンを活用する場合、大きなメリットが得られる。
企業のCIOが関心を高めているのは、自社の価値を上げるためにどのように他社と協力するかだ。データやビジネスへの洞察を企業間で共有することなどが協力の例だ。
当社は新規顧客との良好な関係構築に向けたよりよい方法としてブロックチェーンに着目した。ブロックチェーンを活用すれば顧客が当社との応対にかける時間が短縮でき、その結果としてカスタマーエクスペリエンスが向上すると分かったためだ。顧客の身元確認にブロックチェーンを使用すれば、セキュリティやデータ保護の観点でもメリットが得られるだろう。
――企業はどこからブロックチェーンのプロジェクトに取り掛かればいいのでしょうか。
クオモ氏:2017年にはまだ企業が構成するブロックチェーンのネットワークやコンソーシアムはそれほど多く存在しなかった。しかし徐々にこうした集まりが広がった。ブロックチェーンのプロジェクトに取り掛かるためのきっかけが得られる選択肢ができた。その一つは既に出来上がった企業のネットワーク、コンソーシアムに参加することだ。もう一つは新しいコンソーシアムやネットワークの動きを探ることだ。
こうした場に参加するための入口を2種類紹介しよう。一つは医療、金融サービス、政府系といった業界が構成するネットワークだ。もう一つは、当社や当社のビジネスパートナーが構成するブロックチェーンのネットワークだ。
ブロックチェーンのプロジェクトを推進する鍵は、複数の企業が協力することだ。「B2B」の関係とも呼べる。B2Bの集まりは数多く存在する。ブロックチェーンをきっかけにしてうまく開拓できるだろう。
――ネットワークやコンソーシアムの例を挙げてもらえますか。
クオモ氏:一例として「SecureKey」がある。SecureKeyはID認証に関するコンソーシアムだ。顧客の身元確認を実施するためのKYC(Know Your Customer)関連に多額の予算を投じる企業のCIOであれば、こうしたコンソーシアムが役立つだろう。SecureKeyにはカナダの大手銀行らが参加している。
――ブロックチェーンのプロジェクトを動かす原動力は何でしょうか。
クオモ氏:ブロックチェーンのプロジェクトはビジネスドリブンだ。ただし重要なのは自社のビジネスだけでは推進できないという点だ。業界内や企業間の協力が必要になる。ブロックチェーンのユースケースで注目されているのは、複数の企業が協力しつつも、個々の企業はそれぞれ異なる方法でビジネスを展開したいと望んでいるケースだ。例えば1社ではコストが賄いきれないとか、セキュリティの確保が懸念されるとかという問題があり、他社と協力することで解決しようとする。
――ブロックチェーンのプロジェクトを主導するのはCIOでしょうか。
クオモ氏:必ずしもCIOが担う必要はない。
当社にはCPO(最高調達責任者)が始めたプロジェクトがある。このCPOは当社の新規サプライヤーとの関係構築に関する業務のデジタル化を検討していた。CPOはCIOをこのプロジェクトに引き入れ、デジタル化の方法を相談した。この2人が出したアイデアは次のようなものだ。例えばサプライヤーが当社に加えてA社との契約も望んでいるとする。その場合、当社はA社とブロックチェーンを活用した協力関係の構築に動く。これによりサプライヤーが当社とA社いずれかと契約を結べば、もう1社との契約も同時にできる条件にする。つまり仮にサプライヤーが当社と契約するのであれば、A社は当社がサプライヤーに関して入念に調査したことを前提にそのサプライヤーを信頼する。この逆も同様だ。信頼をもたらすブロックチェーンの技術ではこうしたことが実現する。
――CIOが担う役割とは何でしょうか。
クオモ氏:CIOはブロックチェーンのプロジェクトを推進する運営委員会を指揮するのが望ましい。この運営委員会には、ビジネス部門や法務部門の代表、他社のCIOなどを構成メンバーとして招き、プロジェクトを持続させるための信頼できる機能を持たせる必要がある。円滑な進行のために構成メンバーは最小限にとどめるべきだ。
合理的な判断が下せるメンバーを集められなければ、私ならばCIOとしてプロジェクトに取り掛かることはない。プロジェクトの推進に必要なのは、問題を定義し、評価基準を定め、実行できる集団だ。私ならばプロジェクトの成功に向けた指針となるマイルストーンと評価方法を定義するよう、まず運営委員会に求めるだろう。
――運営委員会の構成メンバーは複数の企業から招くべきでしょうか。
クオモ氏:一般的に言って、いいアイデアが生まれるのは2社など少数グループで構成される場合だ。7~8社など多数のグループで構成される場合に意見がまとまるのは珍しい。とはいえ1社だけでは成り立たない。複数のグループで協力することが必要だ。
――CIOがテクノロジー面で考慮すべきものは何でしょうか。
クオモ氏:賢明なCIOは新しいテクノロジーの評価に時間をかける。例えばあるテクノロジーの活用に必要なスキルや、許可型ブロックチェーンと非許可型ブロックチェーンの違い、スマートコントラクトを作成、管理する方法などについて理解することに時間をかける。
どのようなテクノロジーを知る必要があるかという観点では、分野を考慮することが重要だ。CIOが持つべきスキルや、そのCIOが所属する業界に求められる要素を踏まえる必要がある。例えば医療業界にいるならば、テクノロジーがHIPAA(米国医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)に準拠しているかなどが重要になる。業界ごとにコンプライアンスの基準が異なる。
――マイルストーンと評価方法はどのように決めるべきでしょうか。
クオモ氏:この点は非常に重要だ。ここにはプロジェクトを進める上でつまずきの原因になるものが潜んでいる。複数の企業が集まる集団を統制する鍵は、評価基準と成功の定義をきちんと共有することだ。
マイルストーンに関わる要素を細かく分類するとよい。2週間ごとに分割し、その期間に出された成果とマイルストーンを確認する運用を継続する。そうすることで、目標とする企業間のトランザクションが実現する地点まで達することができる。
CIOは取引情報を持つ「ブロック」が複数の企業によって検証され、永続的に記録台帳に記載されるのを確認し、感動することだろう。
――最後に、ブロックチェーンのプロジェクトを確実に成功させるための助言をお願いします。
クオモ氏:優れたCIOはビジネス部門と連携する。そして、大きな夢を描きつつ明確な揺るぎない目標を定める。その上で、目標に向かって着実に取り組む。大きな成功を収めるのはそのようなCIOだ。少しずつ歩みを進めて目標にたどり着くためのロードマップを持つことが大事だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[ポールトゥウィン株式会社] 開発スピードと品質を両立、DONUTSが実践する「ハイブリッドなQA体制」の構築術 -
製品レビュー
[ポールトゥウィン株式会社] 開発スピードと品質は両立できる? DONUTSの「ジョブカン」に学ぶQA戦略 -
市場調査・トレンド
[レッドハット株式会社] 「プラットフォームエンジニアリング」調査レポート:利点・課題・未来像を詳説 -
市場調査・トレンド
[レッドハット株式会社] 生成AI活用のためのテクノロジー基盤、構築に際しての7つの検討事項とは? -
製品資料
[レッドハット株式会社] ビジネスの現場へのAI導入と活用、何から始めてどのように進めるべきか?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
2
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
3
OpenAIがコスト半減のGPT-6新モデル投入 Claude猛追とOSS包囲網で激化する価格戦
-
4
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
5
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
6
全社標準Copilotに絶望? MS Copilotで問い合わせ6割減できた企業は何が違った
-
7
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
8
Netflixのバックエンドは「ほぼJava」 3000超のアプリを支える開発基盤の裏側
-
9
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
-
10
「RAGの利用」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
2
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
3
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
4
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
5
5分で分かる Microsoft 365のデータ損失に備えるためのバックアップの仕組み
-
6
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
7
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
8
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
9
ソフトウェア開発の属人化と手戻りをどう防ぐ? 速さと品質を両立させる方法
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー