IIJの国内初モジュール型データセンターが登場 〜クラウドEXPO観戦記(後編):企業向けシステムを構築するパブリッククラウド
クラウドEXPOリポートの後編。最大級の展示物として注目を集めたのは、IIJによる国内初のモジュール型データセンター。また、Amazon、セールスフォースブースがにぎわう中、MSはなぜかWindows Azureを出展しないという選択に出た。
「エンタープライズクラウド開花予想 〜クラウドEXPO観戦記(前編)」では、2011年5月11日〜13日に東京ビッグサイトで開催された「第2回 クラウド・コンピューティングEXPO【春】」(以下、クラウドEXPO)の総合的なインプレッションを執筆した。後編では、出展規模の大きかった幾つかのブースを具体的に見てみよう。まずは、本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」で過去に取り上げたクラウドベンダーから概観する。
データセンターを持ち込んだIIJ
会場内で、文字通り「最大」の出し物は、インターネットイニシアティブ(IIJ)のクラウド型データセンター(DC)「IZmo」の実物展示であった。サーバ機器やラック単位の出展は他社にもあったが、「DCそのものを持ち込んだ」と言っていいのはIIJが初めてではないだろうか。「次世代型エコ・データセンター」と名打ち、国内で初めて実用になったモジュール型データセンターということで、注目度が高く、内部の見学会や紹介セミナーは大盛況だった。
また、IIJは、オープンソース関連やエンタープライズ向けソリューション、BCP(事業継続計画)関連のセミナーを打ち、非常に多くの聴衆の関心を集めていた。実際、付近の通路が一時的に通行 が困難になるほどであった。
これらのセミナーには、IIJの「パートナー」と呼ばれる企業も講演をする機会が与えられた。約60社のパートナーを一覧にしたカタログも配布され、同社がパートナーの育成に力を入れていることがよく分かる。確かに、クラウドベンダーが成功するにはユーザー数の規模の拡大が必須であり、パートナー戦略は有効な手法の1つといえる。今回の展示でIIJは、パートナー戦略を旗幟鮮明にしたといってよいだろう。ユーザーから見れば、IIJのソリューションの幅が拡大し、また、IIJ GIOの利用について相談できる先が増えるなどのメリットがありそうだ。
大盛況のAmazon Data Services Japan
Amazon Data Services Japan(以下、Amazon)も、IIJと肩を並べるスケールのブースを構え、同社のクラウドソリューションであるAmazon Web Services(以下、AWS)についてパートナー企業10社程度と共同出展をしていた。ブースは展示と展示の間隔を十分に取る、ゆったりとした配置だったが、2011年3月にクラウドデータセンターが日本上陸を果たした話題性もあってか圧倒的な集客力を発揮し、ピーク時はブース内の通行も難しいほどだった。ブース内セミナーでは、同社のエバンジェリスト 玉川 憲氏の講演が人気を博し、開始前から通路に人が溢れるような状況となっていた。
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同社は当初からパートナー戦略を重視している。国内で既に20数社をソリューションプロバイダーとして認定したといわれている。これらの出展内容を一言で表現することは難しい。「多様性」が最大のアピールポイントなのである。AWSの利用はセルフサービスが前提だが、ユーザーはソリューションプロバイダーを経由することで、仮想インスタンス1台の運用・監視から、数百台の超並列処理、あるいは業務アプリケーションの利用まで、さまざまなスケールで多岐にわたるサービスを受けることができる。また、パートナー間での競合が薄く、ノウハウの交換が頻繁に行われていることも知られている。この意味で同社の戦略は、パートナー戦略というよりもコミュニティー戦略といっていいだろう(最初はユーザーだったが、後にソリューションプロバイダーになったパートナーもあるようだ)。今回の展示は、良い意味での「カオス感」で、ソリューションの汎用性を訴求することに成功していたといえるだろう。
成熟期に入った? セールスフォース・ドットコム
セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)も、IIJ、Amazonと同サイズのブースを構え、多数のパートナーが関連ソリューションを展示していた。2010年の同社のブースは超満員だった記憶があるが、2011年はやや控えめの感がある。同社は2010年10月に、都内で「Cloudforce」という大規模なプライベートイベントを開催し、市場から見れば同社に対する認知が一巡していること、また、2010年10月以降は大きな機能追加がないことが一因と思われる。ある意味では安定感があり、同社のソリューションは成熟期に入ったといえるのかもしれない。展示の中ではモバイル機器(iPadなど)対応のソリューションが目を引いており、今後、Force.comの利用シーン拡大に貢献していくものと期待される。
出展していなかったクラウドプレーヤー
巨大クラウドプレーヤーであるGoogleは出展していなかった。Google主催の開発者向けカンファレンス「Google I/O」(2011年5月10日〜11日、米サンフランシスコ)と日程が重なったという理由もあるだろうが、あまり同社はこの種のイベントには積極的に出てこない傾向がある。
この他にも、主だったところでは富士通、日立グループなどの出展がなかった(いずれも2011年2月ごろに配布された出展予定社一覧には掲載されていたが、その後、何らかの理由で取りやめたようだ)。
Windows Azureを出展しなかった日本マイクロソフト
日本マイクロソフト(以下、MS)は、Amazonの真横にブースを構えていた。「クラウドごった煮」や「クラウド女子会」などのクラウド技術者向けのイベントでは、常に「仲良く火花を散らす」AmazonとMSである。クラウドEXPOではどんな対決を見せてくれるかと半ば胸を躍らせていたのだが、驚いたことにMSは、Windows Azureを出展していなかった。決して小さくはないブースは全て「Dynamic CRM」というオンプレミスのアプリケーションで、これを「SaaS(Software as a Service)形式でも提供します」という趣旨の展示のみ。クラウドといえばクラウドかもしれないが、肩透かし感は否めない。Windows Azureにはさまざまな機能追加がなされたと聞いており、クラウドに全面的に舵を切ったはずのMSの本気度を確認したかっただけに、残念だと言わざるを得ない。ブースの説明員に理由を聞いたが、明確な回答はなかった。
なお、会場案内図を見ると、クラウドEXPOの隣では「データウェアハウス&CRM EXPO」が併設開催されており、MSのブースはその境界線上に位置し、1ブースで両EXPOに同時出展している格好になっていた。筋が通っているような、いないような、複雑な気持ちになる出展であった。
コミュニティー性をアピールしたニフティクラウド
IIJやAmazonに真っ向勝負を挑んでいるのがニフティである。ニフティクラウドのサービス内容はライバル同様、仮想インスタンスの時間/月単位のレンタルがベースである。APIでインスタンスを制御できたり、オートスケールが可能であるなど、説明を聞けば聞くほどライバルを意識していることが明確に分かる。また、富士通グループであることをアピールし、「国産の安心感」を醸し出すことも忘れていない。2010年のニフティは出展スケールが小さかったが、2011年はIIJ、Amazon、セールスフォースに匹敵する大規模出展である。約20社のパートナー企業と共同出展し、アプリケーションも運用ツールも事例紹介もごった煮という極めて密度の濃いブースとなっており、Amazon以上に「良い意味でのカオス感」で盛り上がりを演出していた。
ニフティは、NIFTY-Serve(後NIFTY SERVEに改称)というコンシューマー向けのパソコン通信サービスにオリジンがある。それ故か、ニフティクラウドは現時点ではエンタープライズでの業務利用は多くなく、ベンチャー企業などによるSNSやオンラインゲームなどの用途が主流のようである(700社以上の導入実績があるそうだ)。ファイアウォール機能が実装されていなかったり、ストレージ機能がないなど、一般企業で使うにはまだ課題もあるが、機能追加も予定されており(ファイアウォールは2011年6月、ストレージは2011年秋)、今後が楽しみな存在である。
その他の大型ブース
NIFTY-Serveと並ぶ「日本のパソコン通信」の雄といえばBIGLOBEである。前者が富士通系、後者はNEC系であることは申し上げるまでもないだろう。パブリッククラウドの分野ではNECの名前をあまり聞かないため、どうしているのかと今回、NECグループのブースを訪問させていただいた(同ブースのサイズも、会場最大級のものの1つだ)。すると、生まれたばかりの「BIGLOBEクラウドホスティング」というサービスが(やや、ひっそりと)紹介されていた。これから大々的に売り出すそうである。
ブースのサイズでいえば、GMOクラウドのブースは会場内最大で、ひときわ目を引いていた。「企業利用できるパブリッククラウドを紹介してほしい」とお願いしたところ、それならばと同社の「IQcloud」というサービスを紹介された。聞けば「物理サーバ」(ブレードサーバ)を月額利用料形式で貸し出すので、ユーザーは自由に(仮想化して)使ってよいとのこと。最初は「クラウドとはいえないのではないか」と思ったが、物理サーバであるにもかかわらず、2営業日程度の短納期で用意できることや、自動フェイルオーバー、ダウンタイムなしでのスペックのアップグレードなどの機能がカタログに記載されており、思った以上にNISTなどにあるクラウドの定義に近いようだ。
「BIGLOBEクラウドホスティング」も「IQcloud」も、まだリリース間もないので(前者は2011年3月、後者は2011年4月にリリース)、まだ筆者自身、そしゃくし切れていないが、今後機会があれば本連載でも紹介していきたい。
以上、企業向けシステムとして利用できるパブリッククラウドという観点で、クラウドEXPOの主要ブースを概観した。なお、繰り返しになるが、本稿で記したことは筆者の主観と取材に基づいており、事実と異なる点があれば筆者の責によるものであることをあらかじめお断りしておく。
加藤 章(かとう あきら)
電通国際情報サービス ビジネス統括本部 クラウド事業推進センタ クラウドストラテジスト
システム開発のPMやビジネスコンサルタントなどを経て、現在は自社内のビジネス企画に従事。クラウドに軸足を置いて調査、企画、情報発信、営業支援、および社外とのアライアンスを担当する。
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