「デジタルIQ」とは? 企業のIT活用度が大幅低下している謎:PwCの調査から
主要企業の経営幹部やIT担当役員を対象とした、先進情報技術に関する調査によると、企業のIT導入を成功に導く鍵は「ヒューマンエクスペリエンス(HX)の重視」である可能性を示唆している。
会計事務所のPricewaterhouseCoopers(PwC)が先日発表した報告書によると、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、拡張現実(AR)といった先端技術に企業が対応していくには、ヒューマンエクスペリエンス(HX、人との関わり)を重視すべきだという。
同報告書は「デジタルイニシアチブ(訳注:デジタル化への取り組みや構想)をどのように定義して提供するかを見直し、あらゆる段階で従業員や顧客との関わりを考え、ITイノベーションを導入する文化の構築に投資すべきだ」と呼びかける。
PwCは毎年、主要企業の経営幹部やIT担当役員を対象として先進情報技術に関する調査を実施しており、2017年2月に「2017 Global Digital IQ Survey」を公表した
この報告書によると、企業が「デジタルIQ」(先進的なITがもたらす変化に適応して、それを活用する能力)を高めるためには、従業員や顧客、ビジネスパートナーが何の目的でどのようにITを利用するかを考えるべきだという。
2016年の企業のデジタルIQは前年に比べて大幅に低下した。回答企業2216社のうち、デジタル変革への取り組みに対する自己評価の高い企業はぎりぎり過半数の52%で、前年の67%を大きく下回った。
デジタルIQが低下した原因はどこにあるのか。
この報告書を執筆したPwCのチーフテクノロジスト、クリス・カラン氏は「昨今の企業において、情報技術はもはやIT部門だけのものではない」と話す。財務や人事など他の部門も関わっており、生産イノベーション、マーケティング分析システムなどの技術への投資が進んでいる。そこにも問題の一端がある。
カラン氏は次のように語った。「そうした案件で主導権を握るのはIT部門のリーダーではなく基幹業務や専門業務のリーダーだ。『これを実現するのにどれくらい時間がかかるか』『そのために必要なスキルが自社にあるか』『そのために必要なツールやデータはそろっているか』といったことに対し、彼らの判断が的確であるとは限らない」
適切なスキルとツールが不足していることも、2016年に企業のデジタルIQが低下した要因の1つだと考えられる。今回の報告書によると、デジタルイノベーション専門のチームを置いている企業は43%にすぎない。スキル不足がデジタルイノベーションへの取り組みを阻んでいると回答した企業は24%、スキル不足が新たな障害になりつつあると回答した企業は39%だった。
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HXの軽視
PwCが企業のデジタルIQを調査し始めたのは10年前だ。当時の最重要課題は、経営陣とIT部門がビジネスプランや目標の策定で足並みをそろえることだった。それから10年が経過し、現在では従業員たちも消費者向け技術に詳しくなってきたが、経営陣とIT部門の協調という当時の理念には「顧客重視の視点が欠けていた」とカラン氏は考える。「テクノロジーの市場やユーザーに重点を置かず、社内の目標の方に目が向いていた」という。
「企業が自信を持ってITに投資し、そこから価値を引き出すには、その技術で何を解決しようとしているのかを掘り下げて考えるべきだ」とカラン氏は語る。
「テクノロジーをうまく導入しているところは大抵、人間がかかわる部分とシームレスにつなげている。慣れないと使いにくいような実装にはしない」(カラン氏)
だが、HXを重視していない企業は実に多い。ITに投資する最大の目的として収益拡大を挙げた企業の割合は、2015年には45%だったが、2016年には57%に増加した。これに対し、カスタマーエクスペリエンス向上を挙げた企業はわずか10%であり、2015年の25%から大幅に減少した。
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