「やりたい仕事をやる」を貫き、社内初のIT担当者から管理職へ 日本トランスオーシャン航空 国吉氏に聞く:情シスキャリアをアップデートする【第6回】
日本トランスオーシャン航空の国吉真也氏は、IT専任組織がなかった同社で1人目のIT担当者として入社。その後管理職となった人物だ。同氏はどのような軸を持ち、“組織を動かす人材”となっていったのか。
連載:情シスキャリアをアップデートする
情報システム部員は、日々の運用・問い合わせ・トラブル対応といった"目の前の業務"に追われがちだ。その中でも、評価され、次の役割を任されている人もいる。そのような人は、何をしてきたのか? 逆に何を「やらない」と決めてきたのか? この視点から、評価される情シスになるための、業務の取捨選択や判断軸を整理する。
長い歴史を持つ企業の中には、属人化されたシステムに依存し、社内にIT部門が存在しないところもある。そこへ1人目のIT担当者として飛び込む場合、社内のシステムを整理、把握し、次の方向性を示す手腕が求められる。
日本トランスオーシャン航空(以下、JTA)路線事業部 路線業務グループでマネジャーを務める国吉真也氏は、社内IT運用の改善を一から推進し、ビジネスインテリジェンス(BI)システムの導入やペーパーレス化を通じて業務効率化を推進した。
1人目のIT担当者として入社後、チームを整備する中で、“整備と守り”のIT担当者から、経営層と連携する“戦略的”IT担当者へと変化した国吉氏。その躍進を支えてきたのは「やりたいことをやる」という姿勢と、ITに対する飽くなき探究心だった。
「やりたいことをやる」ために積み重ねた努力 その内容は
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連載:情シスキャリアをアップデートする
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国吉氏は大手電機メーカーの系列会社でシステムエンジニアとして10年間のキャリアを積み、2017年1月、JTAに1人目のIT担当者として入社した。
入社当時、JTAにはIT専任の部署や担当者が存在せず、航空会社の根幹業務である運航ダイヤの担当者がIT業務を兼務している状態だったという。
国吉氏によると、JTAはJALグループの一員として、現場部門では最新の現場システムを使うことができていた。しかし、間接部門では運用の大半でMicrosoft Excelを使っていたという。多くの業務を手作業で実施せざるを得ない一方小規模な組織ゆえに人的リソースが少なく、担当者も限られていた。属人化によって業務負担が偏りやすく、各部門のデータが独立していたことでレポート作成にもタイムラグが生じていたという。
国吉氏自身も、Microsoft Excelを使ったIT関連の伝票作成や分析業務に追われ、残業することも珍しくなかった。全社の業務負担軽減と効率化を目指す中で、まずは「Excelによるデータ管理の脱却」にフォーカスし、ウイングアーク1stが提供するBIシステム「MotionBoard」を導入した。
この結果、データのグラフ化を通じた「見える化」に成功した。しかし、日々の業務に追われる社員からは「見る時間がない」と判断され、BIシステムはほとんど使われない状態が続いた。社員が本当に求めているシステムを構築するためには、現状と課題を拾い上げることが重要だと判断した国吉氏は「1人のユーザーの困りごと」に徹底的にフォーカスする戦略を取った。
そこで白羽の矢を立てたのが、育児休業明けにもかかわらず、午後10時頃までの残業を日々続けていた伝票担当者だ。同担当者の業務負担を軽減するために、MotionBoardに入力機能などを追加し、データの一元管理を進めることで煩雑だった伝票分析業務などをシステム化した。同じ伝票分析業務を担う約100人の社員が利用する業務だったこともあり、MotionBoardの利用は徐々に広がっていった。
「1人の深刻な困りごとを起点に、全体へ波及させる」アプローチで、社内へのシステム浸透を実現した。
アナログ文化の打破、自走するITチームの構築
BIシステムの定着後も、国吉氏は“脱アナログ”を推進した。同氏は並行して、数百冊ものバインダーで管理されていた書類のペーパーレス化を進め、“はんこリレー”による時間的ロスと業務コストを削減した。
システム導入後の定着支援にも力を入れた。国吉氏は、本社・空港・整備場の3拠点で説明会を企画、準備、実施した他、操作手順書だけでなく、業務運用の変更概要や背景までをドキュメント化した。こうした運用整備も、国吉氏ともう1人の少人数体制で担っていたという。
社内業務の効率化と属人化の解消が進む一方、唯一のIT担当者である国吉氏自身の業務は、皮肉にも属人化せざるを得ない状態が続いていた。
ITという専門分野で業務量の多さや業務の属人化が続く状態を問題視したJTAは、新しい人員の採用募集を続けたものの、なかなか人が集まらない状況が続いたという。そこで国吉氏は、自ら人材の確保に動いた。独学でITを学ぶ社員に声をかけたり、グループ会社の派遣社員をJTAで直接雇用させてほしいと人事に掛け合ったりした。
社内の人材発掘から雇用形態の調整までを国吉氏が主導した結果、2023年、路線事業部に初めて中途採用メンバーが加わった。その後も増員を重ね、2026年4月時点でチームは6人体制になった。グループ会社の開発メンバーを含めると約20人の組織へと成長した。
国吉氏は、ITチームの人数を増やすだけでなく、メンバーが自律的に動ける体制の構築にも力を入れている。
メンバーの育成に当たって国吉氏は、「自分の作業より相手の業務を優先させる」という。要件定義や仕様の確認について予約なしで即Web会議を開いたり、「作っては見せて修正する」というスパイラル開発のサイクルをメンバー自身に回させたりと、現場の声を直接聞き、判断力と対応力を養う機会を創出している。チーム参画当初は国吉氏の指示を起点に動いていたメンバーも、国吉氏の判断を仰がずに自走できる「右腕レベル」にまで成長した。
今後はさらに国吉氏の権限を委譲し、「誰がいなくても業務が回る組織」を目指していくという。
効率化から収益向上へ、経営と連動する戦略的ITの推進
現場の「困りごと」を確実に解決し、目に見える成果を上げ続けた国吉氏は、管理職に登用された。積み上げた実績と信頼が、社内に存在していなかった管理職というポジションを生み出した。IT部門がない会社で、1人目IT担当者が管理職へ昇り詰めるというキャリアパスを、国吉氏本人は「想像もしていなかった」と話す。
管理職として経営層との関わりが増える中、JTA前社長からの指摘が転機となり、経営戦略と密接に連動したIT活用の模索が始まった。
「業務効率化の成果を中期計画として報告した際、『残業代や人件費の削減は、経営から見れば数%の利益の話だ。人員もコストもどれだけかけてもいいから、収入を上げるためのITに移行するフェーズだ』と言われました。現在困りごとを解決するための現場視点だけではなく、今後は経営視点を持つ必要があると感じました」(国吉氏)
現在は事業戦略部と連携しながら、中期経営計画に関わるDX施策の立案や、社長への説明にも携わっている。
業務効率化についても、単なるコスト削減ではなく、生産性向上を重視する方向へとかじを切った。JALグループとして利用しているGoogle Workspaceを活用するため、GeminiやNotebookLMといったGoogleのAIツールの利用を推進している。
そこで国吉氏は、講師としても活動している。100人規模の全社向け勉強会を定期的に開催した結果、企画やスライドの制作を生成AIに相談しながら進める文化ができつつある。
コーディングやシステム開発の速度も速まっているという。これまで毎月数時間から数十時間程度かかっていた個人業務をGeminiに相談しながらGAS(Google Apps Script)でアプリケーションを作ることで作業時間を短縮できるようになった。
AIツールの普及と並行して国吉氏が力を入れているのが、「BPR」(ビジネスプロセスリエンジニアリング)だ。既存の業務フローを見直し、より効率的になるよう再設計する。
将来の労働力不足に備え、少ない人数でも回る“全体最適化された組織”を作ることが国吉氏の目下の目標だ。人事部門と連携しながらBPRを主導し、デジタル化だけに捉われない抜本的な業務効率化を推進していくことも視野に入れている。
基礎知識と能動的姿勢で「やりたいことができる自分」へ
国吉氏が一貫して大切にしてきたのは、「やらされる仕事ではなく、やりたい仕事をする」姿勢だ。BIシステムの導入時も、経営層への戦略提案時も、「これをやらなければならない」ではなく「これをやりたい」という言い方を意識的に選んできた。
その土台となっているのが、前職時代から積み上げてきた基礎知識だ。「資格マニア」を自称するほど多くのIT資格を取得し、広範に新しい知識を身に付けてきた。しかしそれは、転職を見据えてのことではない。「ITは趣味でもあり、純粋に勉強が楽しかった」(国吉氏)
「1人情シスになると、セキュリティやネットワーク、インフラの全てを自分で判断・提案しなければなりません。HTTPやFTPの仕組み、ポート番号といった時代が変わっても色あせない『不変の基礎知識』が欠落していれば、全てはベンダー任せになり、IT担当者としての存在意義がなくなってしまいます。今の私は、楽しみながら身に付けてきた知識に支えられていると感じています」(国吉氏)
YouTubeやX(旧Twitter)を中心に、情報収集するのが国吉氏の習慣だ。定時退社を原則としながらも新しい技術を吸収し続けられるのは、その姿勢があってこそだ。
自分がやりたいと思うことを実現するには、まず「やりたいことができる自分になることが先」だと国吉氏は言う。自主学習で基礎をしっかり身に付けた上で、提案を持っていく。
そのサイクルを楽しんで回せるようになれば、情シスというポジションができることは想像以上に大きく、キャリアの可能性も広がっていくだろう。
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