失敗が約束された電気使用量モニタリングシステム
大惨事は必至? 問題山積みの英国スマートメータープロジェクト
スマートメーター特別委員会は、英国のスマートメーター導入にゴーサインを出したが、プロジェクトは失敗に向けて突き進んでいるとする声もある。
英国のスマートメーター(訳注)プログラムの経済的影響とメリット、技術インフラ、プログラムの裏にあるITプロジェクト管理について、専門家から懸念が呈されている。
訳注:各家庭の電気使用量をモニタリングして効率化させる仕組み。英国のスマートメーターについては、「イギリスにおけるスマートグリッドと通信事業者」(KDDI総研)、「欧州スマート技術の現状(後編)」(日本産業機械工業会)、「欧州主要国のスマート・グリッドへの取り組み1」(日本貿易振興機構)などが参考になる(全てPDF)。
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エンジニアリングコンサルタントのモット・マクドナルド氏がスマートメータープログラムのコストを計算したところ、プログラムの純現在価値は40億ポンドの赤字になる。経済家で電力業界のアドバイザーでもあるアレックス・ヘニー氏は、スマートメーター特別委員会でそう証言した。
しかし英国政府は、純現在価値を49億ポンドとしている。
「政府はうまく数字をいじっている。4年間でマイナス40億ポンドからプラス49億ポンドに化けるという、奇想天外の政治的なトリックだ。この話をおかしいと思わない人間は、豚が空を飛ぶのだって信じられるだろう」とヘニー氏はコメントしている。
割高で複雑な英国のプロジェクト
ヘニー氏によると、英国のスマートメータープログラムのコストは、スペインとイタリアの2倍に上るという。
「明らかに違う点が2つある。1つは、イタリアとスペインでは(データ通信に)電力線網を利用していることだ。これは、無線よりも簡単でコストも抑えられる」
2つ目は、イタリアとスペインでは、分散ネットワーク集中管理システムを使って一元的にスマートメーターを展開していることだ。電力供給業者に委託するよりもシンプルだとヘニー氏は言う。
「英国が考案した展開方法は世界で最も複雑だ」とヘニー氏は嘆く。電力会社にメーターの設置を任せる英国の方法では、メーターの所有者の情報を照合するための巨大なデータベースが必要になる。従って、そのための費用が発生し、新たなエラーの可能性が生まれ、複雑にもなる。
英国のスマートメータープロジェクトは、消費者が使用電力量を見られるようにすることが目標の1つだ。そのため、電力使用量を示すディスプレーを各世帯に設置する必要があり、1世帯ごとに25ポンドの費用が余分に掛かる。たいした額ではないように思えるが、4300万世帯に導入すると合計で11億ポンドだ。
恐らくディスプレーが支給されても使われずに終わるケースは多く、消費者の電力使用パターンに影響を与えるとは思えない、というのがヘニー氏の意見だ。「暖房に電力のみを使用しているノルウェーの平均的な一般家庭の電力消費量は1万6000キロワット時だが、英国は4000キロワット時だ。英国の平均電力消費量はあまり増えていないし、ガスに至っては消費量は減っている」
EUは加盟国に、全世帯の80%にスマートメーターを支給するように求めている。しかし、ドイツ連邦情報技術省の依頼で実施された英Ernst & Youngの調査では、ドイツでのスマートメーターの導入は推奨されていない。
省エネ効果は最小限
ヘニー氏の分析によると、英国では多くの家庭が暖房には効率の良いコンデンシングボイラー(訳注)を使っているし、照明も省エネ型のものを使っているため、スマートメーターがもたらす省エネ効果はあまり期待できそうにない。そうなると、スマートメーターによって国民が各自の電力消費をコントロールするという政府の前提は成立しなくなる。
訳注:コンデンシングボイラー(Wikipedia)。
世界のその他の地域で電力消費量削減に最も効果があったのは、スマートメーターの導入ではなく、ピーク使用量の低減を狙った対策である。例えば、米カリフォルニアでは、需要側の消費削減は、リアルタイムのスマートメーターではなく、主に、空調設備を直接管理している電気事業者によってもたらされたという。
ケンブリッジ大学のコンピュータラボでセキュリティエンジニアリングを研究しているロス・アンダーソン教授は、電力業界には電力消費を低減すべき理由がないと指摘する。
「スマートメーターは、売上量を最大化することを旨とする電気事業者によって管理されるため、電力削減目標が達成される見込みは立たない」とアンダーソン氏は言う。
「全くいいかげんな(環境)影響評価を基に、このプロジェクトは妥当だと信じこまされた。さまざまな面で仕様の標準化ができていないのに、着々と進められている。典型的なITの大惨事になることは間違いない」
リスク管理不在という爆弾も
スマートメーターの通信に電力線網ではなく無線を採用したことや、消費者自身による電力消費のコントロール効果が得られない可能性がある以外に、ソフトウェア開発やプロジェクト管理にも脆さが伺われる。
英国工学技術学会(IET)のITポリシーパネルのメンバーで、ソフトウェアエンジニアのマーティン・トーマス氏によると、スマートメータープログラムのIT関連費は膨らみ、期間も長引きそうだ。
「これは非常に規模の大きなITプロジェクトだが、政府の(ITプロジェクトの)実績は芳しくない。政府は大抵、事業の変化を甘く見る」とトーマス氏は語る(訳注)。
訳注:本誌「8月21日号:PRISMスキャンダルで加速する脱・米国クラウド」では、英国労働・年金省が主導したプロジェクトが失敗した事例を紹介している。
リスク管理もプロジェクト崩壊の一因になりそうだ。トーマス氏は以下のように内実を語った。
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