プライベートクラウドソリューション最前線【第2回】
SAP ERPを使った基幹システムをサービス提供するNECのクラウド
NECのクラウドサービスには「SaaS型」「共同センター型」「個別対応型」の3タイプがある。共同センター型では、自社基幹システムで構築したグローバル標準プロセスベースのSAPシステムを顧客にサービス提供する。
国内ITベンダーとしてクラウドソリューションに力を入れているNEC。自社の“経営システム改革”を通して、国内外12万人のグループ社員全体を支える基幹業務において、業務プロセスの標準化、システムの一元化、クラウド型での利用モデル化を成し遂げた実績がある。
そのNECが特に注力するのがプライベートクラウドのサービス提供だ。
IT部門は経営層から、コスト削減、ガバナンスやセキュリティの強化、IFRS(国際会計基準)対応などさまざまな課題を投げ掛けられている。それと同時に戦略的なシステム、事業貢献できるシステム企画への比重も高めていかなければならない。これには標準化、統合化されたクラウド環境を使うのが有力な解決手段になってきている。
また技術的には仮想化の導入が拡大している。特定のシステムだけでなく全社レベルの統合インフラとして仮想化の導入が進行すればするほど、IT部門は全社横断のインフラを担う部門として、サービスレベルに対する責任が今まで以上に重くなってくる。
つまりIT部門は、技術的な課題を克服していくと同時に、企業内の文化やビジネスモデルの変革をも求められているのである。よって、プライベートクラウドの領域であっても、“持たざるIT”として外部サービスを活用することにより、全社的なITのサービスレベルに対する責任を軽減し、本来注力すべき領域へのシフトを加速させるという選択肢も出てきている。
NECは社内クラウド構築、運用の経験を生かして、その成果を基幹システムのクラウドサービスとして提供し始めている。経理を皮切りに販売・購買も追加する予定だが、これはまさにエンタープライズ級のプライベートクラウドサービスといえる。
3タイプのクラウドサービス提供モデル
グループマネージャー 上野勝之氏
NECは、2009年4月より基幹業務を含めた企業システムをクラウドサービスとして提供する「クラウド指向サービスプラットフォームソリューション」を販売している。同ソリューションでは、NECのデータセンターを通じて顧客ごとに共有もしくは占有のシステム機能をサービス提供する。サービスプラットフォームシステム開発本部 グループマネージャー 上野勝之氏は「NECにとってのクラウドの分類は、IT資産を所有するかしないかの区別ではなく、システムが共有ならパブリック、特定ユーザーでの占有ならプライベートという切り分け」と話す。
クラウド指向サービスプラットフォームソリューションは、図のように「SaaS型」「共同センター型」「個別対応型」の3タイプに分かれる。
まずSaaS型だが、一般にはシングルシステム、マルチテナントのSaaSとなるが、「基幹システムの場合、複数社で共有するパブリッククラウドだけでなく、同一企業グループ内で共有するグループ内SaaSとしてのニーズも多い。よって、結果的にSaaSであってもプライベートクラウドとしてのシステム提供と運用が求められることになる」(上野氏)という。
SaaS型のメニューには、NECが持つ豊富な業種向け、業種共通のアプリケーションがラインアップされている。業種向けでは「公共・医療・教育」「金融」「メディア」「製造・装置」「流通・サービス」の5分野。業種共通では、ERP(サービス名「EXPLANNER for SaaS」)、eラーニング(同「Cultiiva Global」)など一般的なものから、RFID活用基盤、デジタルサイネージ(電子看板)など特殊なものまであり、広範な業務をカバーする。これとは別にアプリケーション機能の幅や価格を中堅・中小企業に適したものに品ぞろえしたメニューも用意している。
これらのSaaSや、顧客のアプリケーション資産をSaaS化するために用いる基盤サービスもある。共通IT基盤サービス「RIACUBE」、そのSaaS基盤オプション「RIACUBE/SP」である。RIACUBEは「IaaS/PaaSに相当するサービス」(上野氏)であり、OS、ミドルウェア、ハードウェアスペック、SLA(サービスレベル契約)をメニューから選べる。RIACUBE/SPは、SaaS提供に必要なユーザー認証やアクセス制御などの基本機能、メール配信、課金データ生成などの共通コンポーネントを提供するものだ。また、「OSR-Enterprise Gateway」と呼ぶSaaS間連携のためのゲートウェイまで用意されている。
共同センター型は従来、自治体、地方銀行などで見られた“共同システム”のクラウド版である。メニューとしては、「自治体基幹業務サービス」「地銀向け勘定系サービス」「建設業務基幹サービス」などがある。その中でも自治体基幹業務サービスでは、山形県置賜地域の7市町に提供する共同センターで実現し始めている。それをベースに、自前でシステムを抱えるのが難しい人口10万人未満の自治体に適した形で再構成したものが「GPRIME for SaaS」であり、SaaS型メニューに位置付けられている。
個別対応型は文字通り、SaaSや共同センターメニューでは対応していない個別企業ごとのプライベートクラウド環境をNECデータセンター内に構築する。もちろん、共同センター型にしろ個別対応型にしろ、そのシステム環境は業務縦割りでのいわゆるサイロ方式ではない。「SaaS型と同じく標準化・仮想化されたリソースプール(サーバ、ストレージ、ネットワーク)の下、NECが得意とするOMCS(オープンミッションクリティカルシステム)技術を用いて堅固な基盤を構築し、大規模クラウドシステムであっても安心・安全な環境を追及する」(上野氏)
SAPで基幹システムをクラウド化したノウハウ
クラウド指向サービスプラットフォームソリューションの肝は、インフラ層にとどまらず、アプリケーション層まで含めたシステム全体、特に基幹システムをクラウド化するところにある。もちろん、さまざまなシステム環境、運用形態にある基幹システムのクラウドは一筋縄ではいかない。そこでNECは「ビジネスモデルコンサルティングサービス」を用意している。具体的には、BPM推進体制の確立、コード標準化、BPMツール導入などの手法で上流の業務プロセスから標準化し、基幹システムをクラウド化していく手法を提供する。
同サービスは、NEC自身が基幹業務において、国内外のグループ会社の業務プロセスを事業部横断かつグローバルに標準化し、SAP ERPにより基幹システムを一元化、クラウド化した経験に基づいている。ファーストステップとして経理が2010年4月から先行稼働し、10月に販売・購買を含めた3業務が本格稼働を始めた。
上野氏は「当社の場合、膨大な数の業務アプリケーションがグループ全体のITコストを大きく引き上げていた。業務アプリケーションを減らすには、それにひも付く業務プロセスから見直さなければならなかった。企業がクラウドを取り入れる主な目的は合理化によるITコスト削減だが、範囲をインフラ層で止めるのか、それともアプリケーション層まで行くのかで効果には大きな差が出る」と指摘する。
周知の通りNECは、SIサービスから半導体デバイス、PC・携帯電話などの量販製品、人工衛星などの社会インフラまでを手掛ける企業体である。その業務プロセスを全社レベルで標準化、システム化するのはかなりの難題である。NECは、業務・事業領域ごとにプロセスオーナーを配置し、4段階のレイヤー(経営者、プロセスオーナー、管理者、実務者)を設けて業務プロセスを標準化。例えば、販売業務では100種以上の業務プロセスを22種まで絞り込んだ。その際、新たな基幹システムとして全社採用するSAP ERPに初めから業務プロセスを適合させ、カスタマイズを減らす。システムもWindows Server 2008、SQL Server 2008など以前のUNIX製品に比べて低コストなWindows製品で構成した。その結果、ITのTCO、間接経費を2割以上削減するという目標達成も見えてきているという。
この組織・業務プロセス・ITを三位一体で改革したノウハウがビジネスモデルコンサルティングサービスには凝縮されている。また、この際に築いたデータセンター環境、運用監視手法が「クラウド指向データセンター」としてクラウド指向サービスプラットフォームソリューションのベースとなっている。さらに、SAP ERPで構築した基幹システムを“共同センター化”し、顧客にアプリケーション機能を提供する考えだ。その第一弾が「クラウド指向経理サービス」である(販売・購買も順次提供していく予定)。
小池康夫氏
実際、自動車部品メーカー大手のエクセディがグローバル会計システムとしてクラウド指向経理サービスを2010年5月に採用し、2011年末の本稼働を目指している。同時に、SCM(Supply Chain Management)システムはNECのERPパッケージ「EXPLANNER/Ja(自動化部品テンプレート)」により自社導入(オンプレミス)として構築する。上野氏は「企業でコアとなる業務システムはパッケージ利用だとしてもカスタマイズが多くなるので、自社導入になりやすい。ただ、非コア業務では導入期間、コストでメリットが大きいクラウドサービスの利用が増えるだろう。企業の基幹システムは今後、クラウドサービス利用と自社導入のハイブリッド型が主流となっていく」と見通す。
NECがプライベートクラウドのサービス提供にこだわるのは理由がある。ITソフトウェア事業本部 グループマネージャー 小池康夫氏はこう説明する。「事業部ごとにIT予算を持ち、バラバラにシステムを抱える一般的な企業を見ていると、まずサーバ仮想化により基盤を全社で共通化すると、IT部門はIT予算を握れる半面、共通基盤のサービスレベルを保証しなくてはならない。今まで各事業部とナアナアの関係でやってきたIT部門にとってはそれが重荷となって、外部プロバイダーによるサービスに切り替えようという意識が働く。そしてサービス化となれば、今の時代、単なるアウトソーシングよりもメリットが多いクラウドサービスが選ばれるケースも出てくる」
最新技術を駆使したプラットフォーム製品群
もちろんNECは、自社サイトにプライベートクラウド環境を構築する企業に対しては、プラットフォーム製品を販売、SIサービスを提供していく。最新技術を駆使したプラットフォーム製品は「REAL IT PLATFORM Generation 2」と名付けられ、「高効率インフラストラクチャ」「サービス実行基盤」「システムサービス管理」のレイヤーから成る。
高効率インフラストラクチャとしては、省電力型サーバ「Express5800 ECO CENTER」、次世代ネットワーク制御技術“OpenFlow”を用いた「プログラマブルフロー・スイッチ/コントローラ」(2010年度末にリリース予定)などがある。Express5800 ECO CENTERは、42Uラック1台に最大収容台数である240台を搭載した状態で電源容量が60A(6kVA)と省スペース・省電力設計が売り。OpenFlowベースのプログラマブルフロー・スイッチ/コントローラを活用することによって、データセンター内ネットワークの可視化、仮想化が進み、利用効率が増す。
サービス実行基盤としては、導入実績豊富なアプリケーションサーバ「WebOTX」、アプリケーション開発基盤「SystemDirector Enterprise」などがある。そしてシステムサービス管理では、多くの監視項目を関係付けてモデル化し、その相関関係の“乱れ”から自動的にエラーメッセージに現れない性能劣化を見つけ出したり、原因を特定する「WebSAM Invariant Analyzer」がある。
さらに、REAL IT PLATFORM Generation 2に基づきプライベートクラウド構築に必要なハードウェアとソフトウェアをパッケージングしたオールインワン製品「Cloud Platform Suite」も投入している。同製品を自社サイトに導入すれば、即座にプライベートクラウド環境を構築できるが、小池氏は「Cloud Platform Suiteそのものを導入するというより、そのシステム構成を参照して自社のプライベートクラウドを企画する企業が多い」と話す。
以上、NECのプライベートクラウドソリューションは、サービス提供からコンサルティング、プラットフォーム製品までフルラインアップされており、ソリューションの充実度合いは、ほかのベンダーに勝るとも劣らないだろう。
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