相次ぐ3G回線の障害に備える
スマートフォンの通信障害でも回線を止めない「無線LAN」の活用法
携帯電話事業者の相次ぐ通信障害にいかに備えるか。スマートフォンやタブレットの多くが備える「無線LAN」の活用は現実解の1つだ。
携帯電話事業者の通信障害が相次いでいる。2012年1月25日には、NTTドコモやKDDIの3G回線サービスを利用した通話やデータ通信が東京都内で利用しづらい状況になった。従来型の携帯電話よりもアプリケーションの通信頻度が高いスマートフォンの急増が一因だとされている。
3G回線に過度に依存しないためにはどうすべきか。スマートデバイスが備えるもう1つの通信手段である「無線LAN」の活用が有効な策となる。無線LANは3G回線と比べて通信可能なエリアが限定されるという弱点はあるが、社内のクライアントPCの置き換えとしてスマートデバイスを導入した場合など、オフィス内での利用が多い場合は効果的だ。
本稿は、導入事例や機能強化のトレンドなどから、スマートデバイスの通信手段としての無線LAN活用の可能性を探る。
トヨタもモバイル端末向け無線LAN環境を整備
ユーザー企業の間に、スマートデバイスの通信手段として無線LANを積極的に利用しようとする動きが広がりつつある。その1つが、トヨタ自動車を中心としたトヨタグループだ。
トヨタグループでグローバル情報通信ネットワークの構築・運用を担うトヨタデジタルクルーズは2011年12月、トヨタグループのグローバル拠点を対象に無線LAN装置を導入すると発表した。現在はトヨタ自動車のオフィスや工場で先行導入しており、導入対象を順次拡大していくという。
トヨタデジタルクルーズはこの発表に先立つ2011年6月、3G回線を利用したスマートフォン向けリモートアクセスサービスをトヨタグループに提供済みである。3G回線に加えて無線LANを利用可能にすることで、3G回線に依存しない通信環境を構築する狙いだ。
トヨタグループは自動車のディーラーにiPadを設置し、電子カタログの閲覧端末として利用するなどスマートデバイスの導入を進めている。無線LANを利用する端末は当面ノートPCが中心だが、今後はスマートデバイスの利用を進めていくという。
無線LAN導入の阻害要因「セキュリティ」の対策が進む
にわかに注目を集める無線LANだが、無線LANの利用を全面禁止にしているユーザー企業は少なくない。その理由はセキュリティへの懸念が根強いことだ。
例えばアクセスポイントの物理的な盗難による接続情報の漏えいが課題の1つだ。悪意のある人がアクセスポイントを盗めば、アドレス体系がどうなっているか、ネットワーク構成がどうなっているかが一目で分かり、なりすましなどに悪用されかねない。また、社内のアクセスポイントを従業員でない人に勝手に利用されてしまうという懸念もある。
現在の無線LAN製品はこうしたセキュリティの懸念を払拭すべく、製品形態や機能に工夫を凝らしている。トヨタグループが無線LAN導入に踏み切ったのも、無線LAN製品の試験導入を通じて評価・検証し、十分なセキュリティを確保できると判断したからだという。
アクセスポイントの盗難や紛失による設定情報の漏えいを防ぐため、アクセスポイントに設定情報を持たせず、アクセスポイントを管理するコントローラーで設定情報を集中保管する「コントローラー型」の無線LAN製品が登場している。またIDやパスワードによるユーザー認証も搭載が進んでいる。
BYODを見据えたポリシーベース認証の採用が広がる
スマートデバイスで無線LANを利用させるに当たって考慮すべきなのが、従業員の私物端末を業務利用する「BYOD(Bring Your Own Device)」の導入を前提としたセキュリティ対策だ。ベンダーもBYODを見据えたセキュリティ機能の拡張に力を入れつつある。
BYOD向けのセキュリティ機能の代表例は「ポリシーベース認証機能」である。事前設定したポリシーに基づき、無線LANのアクセスポイントに接続する端末の通信を制御する。
ポリシーベース認証はユーザー情報に加え、端末や接続しているアクセスポイントによって制御方法を変えられるのが特徴だ。例えば同じユーザーでも、iPadであれば従業員用のLAN、その他の端末の場合はゲスト用のLANに接続させるといった制御ができる。シスコシステムズの認証管理製品「Cisco Identity Services Engine(ISE)」やアルバネットワークスの無線LANコントローラーである「モビリティ・コントローラー」などがポリシーベースの認証機能を備える。
私物端末の利用に伴う端末数増加に備えるべく、アカウント発行作業の支援機能を搭載する動きもある。Cisco ISEは、従業員自ら無線LANの利用者アカウントの申請や取得ができる「セルフプロビジョニング機能」を備える。メルー・ネットワークスは、管理者がポータル画面でアカウントを簡単に発行できる機能を備えた認証製品「Identity Manager」を持つ米Identity Networksを2011年9月に買収し、自社製品の機能強化を図るという。
無線LANは電話の発着信や通信継続が課題
スマートデバイス対応やセキュリティの課題解決が進みつつある無線LAN。だが無線LANで3G回線を代替するに当たっては課題が幾つかある。
無線LANを使った電話の発着信は基本的にできないことが課題の1つだ。無線LAN利用時でも電話ができるようにしたい場合は、ソフィアモバイルなどが提供するスマートフォン向けIP電話サービスの利用を検討したい。
また、3G回線と無線LANを切り替えた瞬間、IPアドレスが切り替わるために通信が断絶してしまうのも悩みだ。IPアドレスの管理と通信パケットの転送機能で、端末がネットワーク間を移動した際に接続を切断させない「モバイルIP」のような技術の普及を期待したい。
携帯電話事業者による3G回線の抜本的な安定化が不可欠であることは変わらない。だが現時点でユーザー企業が3G回線の状態に頼らずに安定した通信手段を確保するに当たり、無線LANの利用は有力な選択肢の1つになるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
7
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
10
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー