BYODは国内で普及するか(前編)
私物スマートフォンを業務利用させる前に検討すべき3つの項目
私物端末の業務利用「BYOD」は国内で本当に普及するのか。BYOD採用に踏み切るために必要な対策は何か。前編はBYODの国内採用が進まない理由と、採用時に検討すべき項目を示す。
端末導入コストの抑制や従業員の利便性向上を目的として、米国企業を中心に「BYOD(私物端末の業務利用)」の採用が進む。国内でもスマートフォンなどのスマートデバイス向けセキュリティ製品やアプリケーションベンダー各社が、BYOD支援製品をアピールし始めた。
だが、BYOD採用に踏み切った国内企業はほとんどないのが現状だという。なぜ国内ではBYODの採用が進まないのか。前編はその理由やBYOD採用時に検討すべき項目を見ていく。
以下に示すのは、TechTargetジャパンが2012年3月13日~3月27日に実施したBYODに関する簡易アンケート(QUICK POLL)の結果である(有効回答数:167件)。BYODに対する考えを聞いてみたところ、「会社に管理されないのであれば、私物端末を利用したい」(53%)がトップになった。
従業員の立場で考えれば、私物端末を会社に管理されたくないと考えるのは当然だろう。スマートデバイスには、写真や連絡先などの個人的なデータが数多く保存されている。「会社用と個人用の携帯電話を使い分けている人が多い背景には、『個人的なデータまで会社に管理されたくない』という明確な理由がある」と、ガートナー ジャパンでリサーチ ディレクターを務める池田武史氏は指摘する。
一方の企業にとっては、私物端末であれ自社導入の端末であれ、業務に利用するなら自社のセキュリティポリシーに沿った管理をしたいと考えるはずだ。BYOD採用に当たっては、自社の管理下に置いた私物端末のみを業務利用させる“管理されたBYOD”とするのが現実的だろう。具体的には、モバイルデバイス管理(MDM)のエージェントを私物端末に導入するなどの対策を採ることになる。
国内にはBYODを受け入れる文化がない?
BYOD支援製品を販売するジュニパーネットワークスでマーケティング部統括部長を務める近藤雅樹氏は、「国内にはBYODを受け入れる文化的な基盤が存在しない」と漏らす。
米国の場合、スマートデバイスが普及する前から、私物ノートPCの業務利用を許可する企業が多かった。スロバキアのセキュリティベンダーESETが2012年2月に発表したBYODに関する調査結果によると、米国企業の従業員の47%が私物ノートPCを業務利用しているという。
一方の国内企業の場合、私物ノートPCの業務利用が進んでいないどころか、企業が購入したノートPCの社外持ち出しさえも制限する企業がいまだに多い。こうした背景から、「BYODの採用が国内で一気に進むとは考えにくい」とベンダー各社は口をそろえる。
私物端末を業務で利用したいと考える人が、国内ではそもそも少ない可能性もある。QUICK POLLの結果では、「私物端末を利用したいと思わない」との回答が35%を占めた。
BYOD採用時に検討すべき項目
ただし、BYODを採用したいと考える企業は少なからず存在する。QUICK POLLでも、「会社に管理されてでも、私物端末を利用したい」との回答が11%あった。「開発業務などで多様な端末を必要としたり、スマートデバイスに対するこだわりが強い従業員が多い企業であれば、BYODを採用する意味がある」(ガートナーの池田氏)
BYOD採用を考える企業が検討すべきことは何か。以下に主要な3項目を挙げた。
検討項目1:「会社用」と「個人用」をどう切り分けるか
「私物端末にある企業データと個人データをどう区分けするかが大きな課題だ」と強調するのは、シマンテックでプロダクトマーケティングマネージャを務める金野 隆氏である。端末の盗難・紛失時に、MDMの機能で端末内のデータを消去するにしても、個人用データはできれば残しておきたい。また、「従業員が退職した場合の企業データの扱いについても検討しなければならない」(同氏)。
ジュニパーネットワークスの近藤氏は、データだけではなく「従業員の労働時間をどう定義するかも重要」だと指摘する。私物端末が業務端末になると、従業員は場所や時間を問わず業務を進めることができる。「『従業員が寝るまでが労働時間なのではないか』という議論が労使間で発生する可能性がある」(近藤氏)
検討項目2:利用実態の可視化やポリシー策定
企業がBYOD採用を検討するかどうかにかかわらず、既に私物端末が業務利用されている可能性もある。ガートナーの池田氏は、業務利用されている私物端末の実態を可視化すると同時に、私物端末をどう業務利用させるかというポリシーの策定が急務だと指摘する。
池田氏は、「管理範囲を明確に示しておくことも重要」だと併せて強調する。市販のMDM製品を利用すれば、従業員が利用中のアプリケーションや位置情報などを事細かに把握することが可能だ。「『プライベートな情報まで閲覧されてしまうのではないか』という従業員の不安を払拭しなければならない」(池田氏)
検討項目3:端末や通信回線のコストを誰が担うか
さらに、端末や通信回線のコストを誰が担うかも課題となる。BYODにおいては、一般的には従業員が端末の購入コストを負担する。ただし、欧米企業の中には、BYOD採用に当たって端末購入資金の一部を補助したり、3G回線の利用料金を従業員の代わりに支払うところもあるという。
従業員が頻繁に海外出張する企業の場合は、国際ローミングのコスト負担も無視できない。米調査会社Forrester Researchのアナリストであるブラウンリー・トマス氏は、クライアント企業の中に、1回の出張で1人当たり5万ドルもの請求書が届いた例があると明かす(関連記事:海外出張のたびに5万ドル? スマートフォンに掛かるこれだけのコスト)。
一方、BYODに必要なコストを従業員に負担させる欧米企業もあるという。こうした企業は、BYODの許可を従業員の個人的なメリットだと捉え、MDMサービスの利用料金などを従業員に負担させる。
このように、BYOD採用に当たって検討すべき項目は多い。後編は、BYOD採用を成功裏に進めるための具体策を探る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー