Dreamforce 2012リポート
ソーシャルとモバイルを支える、Salesforce.comの新しいクラウド基盤
Salesforce.comには、同社の技術の骨格ともいえる9つのプラットフォームサービスがある。Dreamforce 2012では、俊敏性、モバイル、信頼性をキーワードに幾つかの新サービスが発表された。
Dreamforce 2012キーノートのリポートはこちら
新しいプラットフォームに求められる3つの要件
米Salesforce.comが開催した「Dreamforce 2012」(米国時間2012年9月18日~21日)の3日目では、同社のプラットフォームに関しての講演が行われた。登壇したのは、米Salesforce.comで、COO(Chief Operating Officer)としてグローバルプラットフォーム、マーケティング、オペレーション部署を統括するジョージ・フー氏と、テクノロジー部門EVP(Executive Vice President)として全ソフトウェア開発を統括するパーカー・ハリス氏、プラットフォーム事業部 シニアディレクター チャック・モルティモア氏だ。
Salesforce.comには、営業支援、顧客管理、CRM、カスタマーサービス、タレントマネジメントなど、たくさんのアプリケーションサービスが存在する。こうしたさまざまなアプリケーションの根底を支えるのがSalesforce Platformだ。いわばSalesforce.comの技術の骨格ともいえる大切な機能だ。
“ソーシャル革命”の時代では、ソーシャルメディアやモバイルデバイスに対応した新しいアプリケーションを、迅速に低コストで開発することがカギとなる。それにはレガシーなプラットフォームを使っていては太刀打ちできない。フー氏は「Lotus Notes、.NET、Oracle Databaseは、ソーシャル以前、モバイル以前に作られたもの。これらを使って新しい方向に行こうとしても遅すぎるし高すぎるし複雑すぎる。フラストレーションがたまる」と指摘。その上で、ソーシャルとモバイルのための新しいプラットフォームの共通原則を3つ掲げた。
(1)俊敏性(Speed)
(2)モバイル(Touch)
(3)信頼性(Trust)
だ。
Salesforce.comの技術を支える9つのプラットフォーム
Salesforce.comでは、Salesforce Platformとして9つのプラットフォームを展開している。本稿では、Dreamforce 2012で紹介された新しいプラットフォームを中心に、先に挙げた3原則と照らし合わせながら、特徴的なプラットフォームを整理して見たい。
Force.com
まず、Salesforce Platformの代表格ともいえるのが「Force.com」、従業員向けアプリケーション開発基盤だ。ビジュアルツールや豊富なテンプレートが用意されており、営業支援、代理店管理、コールセンター業務、社内のワークフローといった社内向け業務アプリケーションを容易に開発することができる。カスタムアプリケーションには非公開型ソーシャルネットワークを簡単に追加できる他、一度のビルドでモバイルデバイスに配布する機能もあるという。
米国連邦調達庁(GSA:General Services Administration)は、Force.comによって1700のアプリケーションを15に統合し、さらに26の追加アプリを6カ月で開発したという。フー氏はこの事例を取り上げ、「皆さんもLotus Notesを使っているのではないか。こんな風に合理化したくないか。(レガシー基盤から)近代的なモバイル基盤に移ろう。米国政府ができたんだから皆さんにもできる!」と聴衆をたきつけた。
Dreamforce 2012で発表されたプラットフォームの新機能として注目されたのが「Force.com Canvas」だ。Javaや.NETをはじめ、さまざまなプログラミング言語で書かれた多様なアプリケーションを、Salesforceの統一されたUIで使用できる機能である。ハリス氏によると「単なるUIレベルの統合ではなく、システムの深い部分までシームレスに連携している」点がポイントだという。これによって、SAP ERPなどの既存アプリケーションも、Salesforceのプラットフォーム内で(プラットフォームを移動することなく)使用できるようになる。Facebook上でアプリケーションを作ったことがある人はイメージしやすいだろう。「Chatterの新機能から見る――ソーシャル革命が変える私たちの未来」で紹介したChatter Communitiesや後述するSalesforce Identityと併せて使用すると、一層の効果を発揮しそうだ。
Force.comに関する記事
Heroku
「Heroku」はRuby on Rails、Ruby、Scala、Node.jsなどに対応したWebアプリケーション開発プラットフォームだ。さまざまな言語をサポートし、Webアプリケーションの豊富なアドオン(機能)を備え、短期間にスケーラブルな環境構築を実現する。社内向け業務アプリケーションに適したForce.comと比べ、自由度の高いアプリケーション開発が可能だ。
Salesforce.comの子会社である米Herokuは、Dreamforce 2012で「Heroku Enterprise for Java」を発表。2011年8月にJava対応が発表されたHerokuだが、これによってさらにエンタープライズ機能を強化することになる。料金はアプリケーション当たり月額1000ドルから。
大手デパートのMacy'sはHerokuを使い、ソーシャルショッピングアプリを6週間でリリースしたという。これは、買い物客がMacy's.comで選んだ幾つかの製品に関して、どれを買うべきかをFacebook上の友達に投票してもらうサービスだ。プロトタイプは8時間で完成したという。
Site.com
「Site.com」は、マーケティング担当者やビジネスユーザーなど、IT部門に頼ることなくWebサイトを迅速に構築したい業務部門を対象にしたコンテンツ管理システム(CMS:Content Management System)である。ドラッグ&ドロップでWebサイトを作成し、ワンクリックで公開できる。Webページにソーシャル機能やデータの追加も可能で、デザインはピクセル単位でコントロール可能。もちろん、HTMLやJavaScriptなどでカスタマイズすることもできる。
アイスクリーム大手の米Hägen-Dazsは、Site.comを使うことによってフランチャイズ支店のWebサイトを2週間で構築したという。
Database.com
「Database.com」はクラウド上のリレーショナルデータベースサービスである。
今回新しい点としては、開発者は新しい位置情報項目によって、位置情報に基づくモバイルアプリケーションを構築できるようになる点、新しいユーザー共有機能を使用して、個人やグループのプロファイルに基づくソーシャルデータモデルを構築することができる点だという。詳細はまだ明らかにされていない。
Chatter
企業内SNS「Salesforce Chatter」では、「Chatter Communities」と「Chatter box」が発表された。詳細はDreamforce 2012のリポート「Chatterの新機能から見る――ソーシャル革命が変える私たちの未来」をご覧いただきたい。
Identity
Dreamforce 2012では、「信頼性」というフレーズが連呼された。確かに、Salesforce.comのクラウドサービスは米国連邦政府および自治体に採用されているとともに、米国連邦情報セキュリティ管理法(FISMA)の要件を満たし、GSAの「Authority to Operate(ATO)」(Moderate Level:中位影響レベル)に認定されている。また、セキュリティ監査基準である「SAS70 TypeII」も取得している。ハリス氏も「私はセキュリティが大好きだ」と述べ、同社がセキュリティに重点を置いていることをアピールした。
そして、Dreamforce 2012で発表されたセキュリティに関連する新サービスが「Salesforce Identity」(以下、Identity)だ。これによって、Salesforce.comは“企業向けのFacebook式ID”を提供する。ユーザーは単一のソーシャルIDによって、Salesforce内の全てのアプリケーションへアクセスすることが可能。「エンタープライズのアプリケーションはサイロ型で、全てにいちいちログインしなければならない。1つのアプリケーションで毎月パスワードを変更したり、幾つものログインIDとパスワードを覚えなければならないのはクレイジーだ」(モルティモア氏)。デモでは、シングルサインオンで連携するアプリケーションがメニュー画面に一覧で用意され、ユーザーがそこからSAPやConcreといった外部アプリケーションにワンクリックで遷移できる様子が紹介された。
Identityによって便利になるのはユーザーだけはない。たくさんのアプリを一元的に管理できれば管理者も楽になる。ユーザーの入社/退社のタイミングで、必要なアプリケーションのIDを一括で発行/削除する機能が用意されているのだという。
Touch
Identityと並ぶもう1つの目玉サービスは「Salesforce Touch Platform」だ。一度アプリケーションを構築すれば、どのようなモバイルデバイスにも展開することができるという。「全ての開発者がモバイル開発者になれる」(ハリス氏)。ネイティブ、HTML5、ハイブリッドのアプリケーション開発をサポートしているため、開発者はiPadやiPhone、Androidを含めあらゆるデバイスにアプリケーションを展開できるという。
前回の記事「Chatterの新機能から見る――ソーシャル革命が変える私たちの未来」から2回にわたってDreamforce 2012のリポートをお送りした。設立してわずか13年の新興ベンチャーであるSalesforce.com。現在その勢いはとどまるところを知らない。ループス・コミュニケーションズ 代表 斉藤 徹氏のブログによると、2003年に実施された第1回のDreamforceは、参加者がたった500人だったという。それが第10回の2012年には登録者9万人にまで成長した。2013年度の通年売上高予測は30億ドルに及ぶ。
Dreamfoece 2012で“企業向けDroxbox”や“企業向けFacebook”という表現が特徴的だったように、Salesforce.comは今後も企業向けクラウドサービスを引っ張る存在として、さまざまなサービスを提供し、多様な先進事例を生み出していくことだろう。不安視されるベンダーロックインの問題やクラウドセキュリティへの対処も含め、注目していきたい。
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