病院・診療所のクラウドサービス導入意向調査リポート
【市場動向】医療クラウドの導入意欲とサービスのギャップ
シード・プランニングは2012年3月、医療機関のクラウド活用に関するアンケート/ヒアリング調査を実施した。本稿では、調査担当者が現場の医師に聞いた、医療クラウドへの評価や導入意欲を紹介する。
医療現場がクラウドサービス求めることとは?
2010年の厚生労働省のガイドライン改正を受け、民間のデータセンター事業者が提供するクラウドサービスによる医療情報の外部保存が可能になった。しかし、当初は「医療情報を外部保存する」ことに否定的な考えを持つ医療従事者が多くいた。その後、東日本大震災の影響で医療情報が失われる事態が発生したことを受け、クラウドサービスを肯定的に捉える医療従事者が増えているという(関連記事:なぜ、医療クラウド市場は急速に拡大しているのか?)。
シード・プランニングは2012年3月、病院の医療情報部門担当者 182人、診療所の経営に携わる医師 126人(計 308人)に対して「病院・診療所のクラウドサービス導入意向調査」を行った。その結果では「災害対策にクラウドを活用する」という意見が多く見られた。また、災害対策以外にも期待する意見も多かった。医療機関にはクラウドサービスを受け入れる素地ができつつあるといえる。
医療の現場はクラウドサービスに何を求めているのか? 調査結果を基に考えてみる。
施設規模で異なる「クラウドサービスの魅力」
クラウドサービスには、オンプレミス型システムと比較してさまざまなメリットがある。アンケート調査では、一般的にクラウドサービスのメリットとして挙げられる10項目について、その魅力の度合い(4段階)を尋ねた。また、その度合いに回答者の属性比率を考慮し、点数による重み付けをして集計した。その結果、400床以上の病院と診療所では、クラウドサービスのメリットとして感じている点に大きな違いがあることが分かった。
魅力の度合いと評価点数
とても魅力的な利点である:2点、まあまあ魅力的な利点である:1点、
あまり魅力的な利点ではない:マイナス1点、全然魅力的な利点ではない:マイナス2点
| 順位 | 項目 | 点数 |
|---|---|---|
| 1位 | サーバは遠隔地のデータセンターにあったり、堅牢な施設にあったりするので、災害時など安全である | 101.3 |
| 2位 | サーバが手元(施設内)に置かれていないので、管理やメンテナンスの手間やコストが低減する | 90.8 |
| 3位 | データセンターのサーバは高スペックなので、システムのスピードが速く(レスポンスがよく)なる可能性がある | 85.5 |
| 4位 | サーバの増減がすぐにできる | 77.6 |
| 5位 | オンプレミスのシステムと比較して、安くなる場合が多い | 61.8 |
| 6位 | 他施設などとの情報共有がやりやすくなる | 47.4 |
| 7位 | 国がクラウド活用を推奨する可能性がある | 2.6 |
| 8位 | 月単位など、短い期間での契約ができる | 2.6 |
| 9位 | 話題の新しい技術である | - 14.5 |
| 10位 | データ量などでの従量課金のサービス提供である | - 15.8 |
| 順位 | 項目 | 点数 |
|---|---|---|
| 1位 | オンプレミスのシステムと比較して、安くなる場合が多い | 71.4 |
| 2位 | データセンターのサーバは高スペックなので、システムのスピードが速く(レスポンスがよく)なる可能性がある | 65.1 |
| 3位 | サーバは遠隔地のデータセンターにあったり、堅牢な施設にあったりするので、災害時など安全である | 65.1 |
| 4位 | サーバが手元(施設内)に置かれていないので、管理やメンテナンスの手間やコストが低減する | 58.7 |
| 5位 | サーバの増減がすぐにできる | 53.2 |
| 6位 | 他施設などとの情報共有がやりやすくなる | 15.9 |
| 7位 | 月単位など、短い期間での契約ができる | 8.7 |
| 8位 | データ量などでの従量課金のサービス提供である | - 5.6 |
| 9位 | 国がクラウド活用を推奨する可能性がある | - 19.8 |
| 10位 | 話題の新しい技術である | - 19.8 |
400床以上の大規模な病院では「サーバは遠隔地のデータセンターにあったり、堅牢な施設にあったりするので、災害時など安全である」(以下、災害時の安全性)が、2位に10ポイント以上の差を付けてトップであった。これは、東日本大震災が影響していると言っていいだろう。対して、診療所では「オンプレミスのシステムと比較して、安くなる場合が多い」がトップとなった。診療所では、災害時の安全性が3位となっており、病院と比較すると30ポイント以上の差がある。また2位が「データセンターのサーバは高スペックなので、システムのスピードが速く(レスポンスがよく)なる可能性がある」となっており、日常的に享受できるメリットを求める回答が多く挙げられている。こうした傾向からクラウド活用に当たり、「病院は事業継続性を、診療所は価格の安さなどを重視している」といえる。
クラウドサービスのデメリット
どんなにメリットがあったとしても、クラウドサービスに対する懸念(デメリット)が大きければ実導入には至らない。アンケートではクラウドサービスのデメリットとして一般的に言われる6項目について、その懸念の度合い(3段階)を尋ねた。それぞれについて重み付けをして点数化し、集計した。クラウドサービスに感じるデメリットについては、施設規模に関わらずほぼ同様の結果が出た。
懸念の度合いと評価点数
「全然気にならない」:2点、「少し気になるが、導入の検討はしてもよい」:1点、「もしそうであるならば、導入はあり得ない」:マイナス1点
| 順位 | 項目 | 点数 |
|---|---|---|
| 1位 | ネットワークが切断された場合に使用できなくなる可能性がある | - 43.4 |
| 2位 | 同等のオンプレミスのシステムと比べて、スピードが遅くなる(レスポンスが悪くなる)可能性がある | - 22.4 |
| 3位 | 自分たちの施設向けにシステムのカスタマイズがあまりできない可能性がある | - 1.3 |
| 4位 | データが外部保存されることに抵抗感を持つ医師など、導入に反対する内部関係者がいる可能性がある | 48.7 |
| 5位 | データが外部保存されることに、抵抗感を持つ患者がいる可能性がある | 52.6 |
| 6位 | メーカーの保守担当者が来る回数が減る | 76.3 |
| 順位 | 項目 | 点数 |
|---|---|---|
| 1位 | ネットワークが切断された場合に使用できなくなる可能性がある | - 40.5 |
| 2位 | 自分たちの施設向けにシステムのカスタマイズがあまりできない可能性がある | - 4.8 |
| 3位 | 同等のオンプレミスのシステムと比べて、スピードが遅くなる(レスポンスが悪くなる)可能性がある | 4.8 |
| 4位 | データが外部保存されることに、抵抗感を持つ患者がいる可能性がある | 27.8 |
| 5位 | データが外部保存されることに抵抗感を持つ医師など、導入に反対する内部関係者がいる可能性がある | 38.9 |
| 6位 | メーカーの保守担当者が来る回数が減る | 55.6 |
病院、診療所ともにトップの懸念事項は「ネットワークが切断された場合に使用できなくなる可能性がある」であった。実際、クラウド型電子カルテを導入している施設にヒアリングしたところ、「別の場所で発生した火災によってネットワークが切断されてしまった」「ネットワークが切断されなくても、データセンターのサーバが不調で使用できなくなった」という事態が発生したという。
こうしたトラブルに対応する代替手段の提供や保証サポートが確立されていれば、サービスの導入をより促すことになるだろう。
ヒアリングで分かった、実際の導入評価
院内のサーバ設置スペースや運用コストを考慮
東京都にある中規模病院では、「電子カルテのサーバを院内に置くスペースがない」という理由で、民間のデータセンター事業者のハウジングサービスを利用している。この施設では、紙カルテをスキャンして電子画像として保存する方式を取っている。本格的なIT化は次回以降のシステム更新時に予定しており、決して新しい技術を積極的に採用するという施設ではない。ハウジングサービスの理由については「院内にサーバを設置するよりも、外部に置いた方が価格も安いから」と説明する。
データの外部保存は、特別なことではない
ある大学病院の個人情報保護担当の責任者(医師)は、「データを外部に保存することに抵抗感はない」と語っていた。同大学病院はクラウド型の画像共有サービスを検討。既にクラウド型のメールサービスを利用しており、またブランチラボを経由して臨床検査のデータを臨床検査会社に伝送している。そのため、「データの外部保存は、特別なことではなくなっている」と説明する。
ヒアリングを通して感じたことは、「医療機関側には、クラウドを受け入れる素地はできている」点だ。しかし、それに応える医療分野のクラウドサービスは、まだそれほどのラインアップがそろっているとは思えない状況である。しかし、これらの状況を受けて医療ITベンダーが提供するサービスのラインアップには今後、「SaaS版」「クラウド版」などが確実に増えていくといえる。
今回紹介した調査結果の詳細は、シード・プランニングが発行している『病院・診療所のクラウドサービス導入意向調査』に記載されている。
著者紹介
久保延明(くぼ のぶあき) 株式会社シード・プランニング エレクトロニクス・IT/ヘルスケアチーム主任研究員
医療ITや医療機器、医療政策などヘルスケア分野と、ディスプレー市場などエレクトロニクス分野を担当する。
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