電子カルテ市場調査リポート(病院編)
病院向け電子カルテ市場、2016年に1137億円規模 中規模病院の伸びに期待
病院のIT投資は2010年以降、地域医療再生基金や診療報酬のプラス改定などで復調傾向にある。特にIT化の要となる電子カルテの今後の動向について、市場予測を踏まえて考察する。
シード・プランニングは2012年2月、市場調査リポート『2011-2012年版 電子カルテの市場動向調査 -電子カルテ/PACS市場規模予測とシェア動向』を発表した。このリポートは電子カルテシステム(病院向け、診療所向け、歯科向け)とPACSの市場動向を調査し、2016年までの市場規模を予測したものである。本稿では、病院向け電子カルテの市場規模や導入シェア、主要ベンダーの最新動向、東日本大震災の影響などを紹介する。
2016年の市場規模は1137億円に
1999年に厚生省(現厚生労働省)が電子カルテを認め、2001年からの補助金制度により本格的に電子カルテ市場が立ち上がり、現在では当初電子カルテを導入した病院のリプレースが始まっている。
病院向けの電子カルテは2010年末時点で累計2250件のシステムが納入されており、市場規模が889億円、年間納入数が350件である。景気の影響もあり成長率の緩急はあるが、医療情報化の流れは止まらずに今後は緩やかではあるものの順調に推移し続け、2016年には市場規模が1137億円、年間納入数が470件と予測できる。
景気の影響を受けて病院のIT投資が減少した2008、2009年頃は前年比減となったが、地域医療再生基金の交付や診療報酬がプラス改定した2010年以降の市場は復調傾向にある。病院向け市場ではリプレース需要の比率が高まり、今後は1件当たりの単価が下がると予測される。
納入数増が期待される中規模病院
病院全体での電子カルテ普及率は23.1%と2割を超えているが、病院の規模により普及状況は大きく異なる。病床規模別に見ると、大規模病院の普及率が最も高く65.6%、中規模病院では24.6%、小規模病院では10.4%と極端な違いがある。
大規模病院では比較的IT予算がある病院も多く、電子カルテの普及が順調に進んだため、現在未導入施設は約300施設にすぎない。今後納入数の伸びが最も期待されるのは中規模病院である。中規模病院ではシステム導入や運用費用、院内のIT人材不足などの課題はあるが、経営効率化や地域医療連携クリティカルパスへの活用などを目的として、電子カルテを中心に医療情報のIT化ニーズが高まっている(関連記事:患者状態に応じた多様な診療を可能にするクリニカルパスの実現へ)。
主要ベンダーの動向
200件以上の納入実績を持つ上位ベンダーは「富士通」「ソフトウェア・サービス」「シーエスアイ」「NEC」の4社で全体のシェア62.0%を占める。その他、50件以上の納入実績を持つベンダーは「ワイズマン」「日立製作所」「アピウス」「日本IBM」「シーメンス亀田医療情報システム」などである。また、100床未満の小規模病院向けでは多様な企業が参入し、電子カルテ製品を提供している(関連記事:診療所向け電子カルテ製品紹介)。
富士通は大規模、中小規模の病院および診療所をカバーする電子カルテ製品のラインアップを取りそろえている。また、NECとシーエスアイの2社は診療所向け電子カルテの大手ベンダーである「三洋電機」とともに地域医療連携ソリューション事業において協業している。また、地域医療連携のIT化では病院、診療所双方でのIT化が求められており、地域医療連携ソリューション分野ではNECと富士通が大手である。
東日本大震災の影響
東日本大震災では、紙カルテや電子カルテのサーバが津波で流失する被害やかかりつけ以外の病院や診療所などでカルテなしで診察するケースも多くあり、あらためてカルテのIT化やデータの外部保存の重要性が認識された。
電子カルテを導入済みだった宮城県の石巻市立病院は1階の電子カルテサーバ室が津波の被害を受けてシステムダウンしたが、山形県の山形市立病院済生館とデータの相互バックアップを実施していたため、データを復旧できた。一般企業の多くは遠隔地にバックアップデータを保管するなどで危機管理対策を実施している。一方、病院ではコスト面で難しい場合が多く、病院間での相互バックアップの動きがある。その場合、サーバ1台の追加費用でより低コストにデータのバックアップ環境を構築可能なメリットがある。
被災地の診療ではサーバやデスクトップPCなどは使えず、タブレット端末やスマートフォン、携帯端末が活用されていた。これらの端末は、災害時だけでなく往診や出張診療などでの応用が期待されており、ベンダーにとっては電子カルテのモバイル対応が新たな課題となっている(関連記事:iPad/iPod touchによる電子カルテ操作を低コストで実現 ~北海道社会保険病院)。
また2011年の計画停電の際には、自家発電装置を備えていた病院であっても、手術室などに優先的に電力を送るために電子カルテを含む情報システムを停止しなければならない例があった。今後は被災地を中心に、地域医療連携システムや病院の電子カルテ導入などが促進されるともいわれるが、運用コストが課題になると考えられる。
SaaS型電子カルテの登場
厚生労働省が2010年2月に改定した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.1版」において「診療録などの保存を行う場所について」の一部が改正された。医療機関の診療データを民間のデータセンターなどに保管することが認められ、SaaS(Software as a Service)型電子カルテの提供が可能となった(関連記事:クラウドコンピューティングが変える医療の未来)。これを受け、NECは2011年4月にSaaS型電子カルテサービス「MegaOakSR for SaaS」を開始した。
MegaOakSR for SaaSは100床未満の小規模病院を対象に、その診療データをデータセンターで管理して電子カルテやオーダリングシステム、看護支援といった主要な機能をネットワーク経由で提供している。現在、岡山県倉敷市の玉島第一病院などで利用されている。その導入に当たっては100床未満という病床規模だけでなく、院内の既存システム構造が比較的シンプルであることなどの諸条件がある。しかし、電子カルテ導入のコストや人材面で課題を抱える小規模病院にとってはIT化の選択肢が広がったといえる。
今回紹介した調査内容については、シード・プランニングが発行している『2011-2012年版 電子カルテの市場動向調査 -電子カルテ/PACS市場規模予測とシェア動向』に詳細が記載されている。
著者紹介
加藤鈴佳(かとう すずか) 株式会社シード・プランニング エレクトロニクス・ITチーム 主任研究員
電子カルテを中心とした医療ITやディスプレー、デジタルサイネージ市場などのエレクトロニクス分野を担当する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」攻略ガイド:効率的に落札するためのポイントを徹底解説 -
製品資料
[株式会社うるる] 入札情報に特化した「販路拡大」「効率化」のためのサポートツールとは? -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] 公共入札に成功する企業と失敗する企業の「5つの違い」 -
製品資料
[日本ビジネスシステムズ株式会社] 専門家が教える、Microsoft 365の「テナント統合/分離」を成功に導く秘訣 -
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
2
「Microsoft 365」が乗っ取られる MFAを破る“本物の画面”の恐怖
-
3
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
4
Claude利用8割のGMO、AI人材の評価軸が「トークン管理」に変わった
-
5
AI導入が失敗する“真犯人”は現場のマニュアル 7割が陥る「標準化」のわな
-
6
被害額は過去最高額 それでも「サイバー犯罪者が捕まらない」3つの理由
-
7
「テザリング依存」に潜む落とし穴 “遅いVPN”を解消するネット構築術
-
8
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
8
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
9
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
10
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー