消費税改正とシステム対応【第1回】
実は始まっている「消費税率アップ」の影響、対応のポイントは
2014年4月に迫る消費税の税率アップ。しかし、その「経過措置」を考えるとすぐに対応を検討しなければならない業種もある。経理部門、業務部門、IT部門が考えるべきことをまとめた。
消費税改正は2014年4月がスタートなのか?
社会保障と税の一体改革法案の成立により、2段階の消費税率引き上げが予定されている。そのスケジュールは2014年4月1日(以降、施行日)に現行税率の5%を8%に、さらに1年半後の2015年10月1日に10%に引き上げるというものである。ここまではどなたも既にご存じだろう。だが2014年4月までに業務の対応やシステム対応を終わらせればよいと思っている人は注意していただきたい。「経過措置」を考える必要があるのだ。
税率改正における原則的な考え方は、施行日前の取引については従来の税率を適用、施行日以後の取引については新税率を適用するということだ。しかし、商取引の形態からこの原則の適用が困難な業種が存在するため、こうした業種で発生する取引については税率の適用を遅らせる経過措置が別途設けられている。
今回の消費税率の改正は2014年4月1日だが、税率改正に合わせて設けられた経過措置の中には、施行日の半年前の2013年10月1日(以降、指定日)を基準として税率の適用を判断するものがある。
例えばマンションなどの請負契約で指定日前に契約したものについては、税率改正後の引き渡し物件についても改正前の旧税率5%が適用される。そのためマンションの販売会社などであれば、2013年10月1日前に販売した物件について2014年4月以降も旧税率の5%が適用されるように適切に管理する必要がある。「2014年4月になったから税率を単に8%にすればいい」というわけではなく、個別の対応が必要になるのだ。
この経過措置を考慮すれば、税率改正の影響は2014年4月ではなく、今年の2013年10月から生じるといえるだろう。
税率改正による駆け込み需要の発生
では、その経過措置が企業経営にどのような影響を与えるかを考えてみよう。1つのポイントは駆け込み需要への対応だ。
1989年の消費税導入以降、消費税率が変更されたのは、1997年の3%から5%への引き上げの一度だけ。今回は17年ぶりの改正になる。当時を覚えている人もいるかと思うが、税率改正時には高額な耐久消費財(家具や自動車など)を中心に駆け込み需要が生じる。従って企業は急激な需要変動に対応できる体制を整える必要がある。
需要変動は実際に税率がアップする施行日直前だけではなく、経過措置の対象サービスについては、指定日である2013年10月1日直前にも発生する。企業は自社の商品やサービスの需要変動が経過措置によってどの時点で生じるかについて事前に調査し、影響を理解することが求められる。
価格戦略の見直し
経過措置以外では、価格戦略への影響を考える必要がある。1997年の3%から5%への税率改正と今回の税率改正における最大の違いは、総額表示導入後、初めての税率アップという点だ。
消費税導入当初は、商品の本体価格と消費税を区分して表示する税抜表示が行われていたが、2004年4月1日から消費者向けの価格表示については消費税額を含んだ総額表示が強制された。総額表示が義務化された2004年においては消費税率が5%のまま据え置かれていたため、理論的には総額表示義務化は経済活動に影響を与えないはずであった。しかし実際の結果は違った。
小売価格を決める際には、割安感を出すために980円や1980円のように端数の生じる価格設定が行われるのが一般的であり、これを端数価格と呼ぶ。税抜本体価格が980円の商品を総額表示にした場合、5%の消費税分49円を加えた1029円が本来の価格になるはずであるが、大手小売業は総額ベースで端数価格の980円を維持する値決め、つまり5%分の実質的な値下げを行って需要を喚起したのである。
その結果、総額表示導入から9年を経た現在、小売店の値札のほとんどは消費税額の5%分を吸収した後の端数価格になっている。
今回の税率改正においても同様に端数価格の問題が生じるだろう。企業は既に5%の消費税分を吸収した現状から、最終的に消費税率が10%に引き上げられた際には、さらに5%分の値下げ負担を企業努力でカバーできるかどうかを検討する必要がある。現に婦人服チェーンの「しまむら」は、消費税率が8%に引き上げられた後も税込価格を据え置く方針を既に公表している。消費税率の改正は、企業の価格戦略に大きな影響を与えることになるのだ。
税抜表示か税込表示か
今回の消費税率改正を円滑に進めるための特別措置法が現在、国会で審議されている。この中には総額表示義務に関する消費税法の特例が設けられている。この特例には、「消費税の円滑かつ適正な転嫁のために、表示価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じた場合、税抜価格での表示を許容する規定」が含まれている。業種によっては、この規定を適用することで総額表示から生じる値下げ圧力を回避することも想定される。
小売価格は自社の判断のみで決められるものではなく同業他社の動向に左右される。従ってITシステムも経営環境の変化に迅速に対応できるように準備しておく必要があるだろう。そのためには消費税法の改正内容についての理解が大事だ。
次回は、税率改正時の経過措置の詳細について説明する。
今回のポイント
- 施行日(2014年4月1日)よりも、経過措置による指定日(2013年10月1日)が重要な業種がある
- 総額表示の下での税率改正は企業の価格戦略に影響を与える
岩谷誠治(いわたに せいじ)
株式会社会計意識 代表取締役 公認会計士、システム監査技術者
1994年公認会計士登録。2001年に岩谷誠治公認会計士事務所を開設。現在は、会計意識代表取締役として会計知識のビジネスへの応用を指導。日経ビジネススクール、みずほセミナー講師も務める。
著書に『儲けにつながる「会計の公式」』『国語 算数 理科 しごと』(日本経済新聞出版社)、『早い話、会計なんてこれだけですよ!』『会計の基本』(日本実業出版社)などがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
消費税改正とシステム対応
この記事の著者
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
9
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー