「ビジネス法務の部屋」山口利昭弁護士に聞く
「丸亀製麺」で考える企業不祥事とソフトロ―
相次ぐ会計不正や不祥事。企業を取り巻く法規制はどう変わり、企業はどう対応すべきなのか。ブログ「ビジネス法務の部屋」で有名な山口利昭弁護士に「事後規制社会」における考え方を聞いた。
オリンパスや大王製紙をはじめ、企業の会計不正が注目されるケースが多くなっている。いわゆる「不正のトライアングル」である「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」があればどの会社や個人でも不正に荷担してしまうのか。不正調査に詳しい山口利昭弁護士は「不正を許す企業風土が要因の1つ」と指摘する。企業価値を大きく低下させる会計不正にどう立ち向かえばいいのか。「ブロガー弁護士」としても有名な山口弁護士に聞いた。
不正が起きるプロセスは共通
日本企業の会計不正の特徴は、個人が自身の利益のために不正を行うのではなく、「会社を守りたい」「上司に迷惑を掛けられない」など組織のために不正が行われるケースが多いことだ。不正会計の発覚に伴って実施される第三者調査委員会の報告書などを読むと、1つの不正に関して多くの社員が関与していることに驚く。その1人ひとりにとっては小さな不正であり、通常業務の一環と変わらず作業を行っていたかもしれない。しかし組織のためとして不正を続けるうちに後戻りできなくなり、結果的に逮捕されたり、社会的な制裁を受けるケースが多い。会社にとっても当初は小さな不正だったものが是正する機会を失ったまま「気が付いたら粉飾企業」になってしまい、市場から退場を命じられる事例は多く見られる。
企業の経営者や経理の現場では、オリンパスの事件を特殊な事例と見る傾向もあるが、財テクの損失を隠そうとして結果的に巨額の粉飾に至った同社の事件は「気が付いたら粉飾企業」の1つの例だ。その上で山口弁護士は「どの会社でも不正が起きるプロセスは驚くほど似ている」と話す。
山口弁護士が3月に出版した著書『法の世界からみた「会計監査」』では、会計不正や不祥事が起きる会社では、経理処理や製造現場での安全基準などの社内ルールの違反が放置されるケースが多いと指摘する。単なる社内ルールの違反なので、この段階では消費者や株主に迷惑は掛けていない。しかし、このような小さな社内ルール違反が「不祥事や粉飾の芽になる」と山口弁護士は話す。「不正を許す企業体質が出来上がっていることが疑われる」からだ。
このような不正を許す体質が企業内にある中では、「経済的利益とコンプライアンスが天秤に掛けられる」(前著)。当然ながら本来はコンプライアンスを重視すべきだが、「会社のためならやむを得ない」との判断で不正が起こりがちだ。担当者は罪の意識を持ちながらも「会社のため」と考えて自己の行動を正当化してしまう。
不正の芽をどうつみ取るか
このような不正を防止するにはどうすればいいのか。山口弁護士は不正調査に関わった経験から、過去の会計不正などでは「企業内で気付いていないふりをする人が多かった」と振り返る。社内ルールの逸脱など小さな違反に気付いても、また社内に不正の疑惑を感じたとしても、それを表だって指摘すると社内での立場が危うくなるなどと心配し、言い出せずに終わってしまうのだ。山口弁護士は「会社員だから難しいところはある」としながらも「せめて担当役員や社長はそのリスクを認識してほしい」と強調する。
「私は社長に『不正があっても気付かないふりをしている人が多い。あなたが指摘しないとそのまま(不正に許す)企業風土になってしまいますよ』と話している。社長は商品開発や営業活動で5年、10年先を見ていく必要がある。しかし、会社をまとめる管理行為では愚直なまでに『いい加減なことをやって利益を出したらあかんで』ということを社長の本心として発するべきだ」
不正を防止する上で意識に加えて重要なのが、不正や不祥事の芽を早期につみ取るツールだ。内部統制報告制度、社外監査役など期待される仕組みはあるが、山口弁護士は内部通報制度の重要性を指摘する。内部通報制度を適切に運用することで、企業自らが不正の兆候を発見し、調査し、関係者を処分し、対外的に不正の発生とその対応を公表できる。一方、内部通報制度が適切に運用されていない場合、関係者が外部のメディアや行政当局にまず内部告発するだろう。企業は外部の指摘で不正を知ることになり、対応が後手に回るのは必至。消費者や投資家に対して自浄作用がない会社と見られてしまう。
「事後規制社会」とソフトロ―
企業の自浄作用が期待される背景には、企業に対する規制が「昔の事前規制から事後規制の仕組みに変わってきている」という大きな変化がある。かつては金融業界における「護送船団方式」のように企業の活動は行政当局によって細かく指示され、その指示に従っていれば経営上のリスクに直面することは少なかった。しかし、不祥事による行政当局の影響力低下や、企業の国際的な競争の激化などから企業の自由な活動がより重要視されるようになってきた。規制への対応も含めて企業は自らの判断で活動ができるようになってきたのだ。ただ、規制に反する活動があった場合はやはりペナルティーが課せられることになる。これが企業に自らを律することを求める「事後規制社会」の仕組みだ。
事後に行われる規制は法による規制だけではない。いわゆる「ソフトロー」も含まれる。ソフトローとは国により順守が求められる法的な「ハードロー」ではなく、「社会の影響力によって事実上従わざるを得ないような社会規範」と山口弁護士は定義する。証券取引所の自主ルールや業界団体の行動規範、ガイドラインなどハードに近い規制をはじめ、消費者による評価や株価の推移、格付け機関による評価など企業が無視できない規制やルールがソフトローに含まれると山口弁護士は考える。
レピュテーション(企業の社会的評価)もソフトローの1つになりつつある。あの企業の商品は安全ではないのではないか、環境破壊に荷担しているのではないか、ブラック企業なのではないか――このようなレピュテーションはそれが真実かどうかは別にして企業価値を低下させる。「企業が正しい行動をするかどうかは、法律で縛るのではなく、ソフトロ―である世の中の評判によって縛るという流れに変わってきている。会社も自分の頭で考えて、適正な行動を行う必要がある」(山口弁護士)
「丸亀製麺」の落ち度とは?
5月に明らかになった讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」のカビ問題はレピュテーションを考える上で多くの示唆がある。その1つは社内の常識で不祥事を考えないことだ。丸亀製麺を運営するトリドールは4月7日に消費者からの苦情で、ざるうどんのすだれにカビが発生していることを認識し、翌日には全店舗で調査を実施した。その上ですだれの乾燥や使用前の確認の徹底を指示した(ITmediaニュース)。
カビ問題発生後のトリドールの対応には大きな落ち度はなかったと考えられる。社内的にも一件落着との認識だったのではないか。そのため同社はカビ問題を対外的に公表しなかった。しかし、その直後、同社が運営するFacebookページにカビの写真が消費者によって投稿され、多くの人が知ることになった。トリドールはFacebook上で謝罪したが、Facebookでの批判コメントは続き、同社は約1カ月後の5月9日になって正式な報告書をWebサイトで公表した。社内的には対外的にカビ問題を公表しないのが常識だったのかもしれないが、消費者から見れば非常識だった形だ。しかもそれがソーシャルメディアを発端に火が付いてしまったことは企業として想定外だったのかもしれない。
山口弁護士はブログで丸亀製麺のカビ問題について以下のようにコメントしている。
「『食品の安全を守るためには、被害者が存在する可能性がある限りは公表しなければならない』といった社会的な価値観が世間で相当強く存在することは事実として認めざるを得ない」
この社会的価値観がソフトローといえるだろう。丸亀製麺の問題ではカビ問題を認識し、全店舗を調査した時点で率先して対外的に公表していれば、逆に消費者の信頼を得ていた可能性もある。山口弁護士は、企業はソフトローを認識した上で、「その会社が世の中で何を求められるかを考えて、利益を得るためにそれに見合った行動を取ることが必要になる。そのように考えられる人が会社を担っていくべき時代になった」と話す。
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