初めてでも分かる「IHE」講座【第1回】
医療情報システム連携の要となる「IHE」とは何か?
医療情報システムの効率のよい構築・運用のために必要な規格として標準化が進められている「Integrating the Healthcare Enterprise(IHE)」。今回はIHEの概要や理解する上で必要な前提知識を解説する。
医療機関が構築・運用する医療情報システムは、電子カルテやオーダリングシステム、各部門システム、医療機器・検査装置などが連携する複雑なシステム構成になることが多い。また近年、複数の医療機関や地域連携システムなど医療情報の共有範囲が広がりを見せている。そのため、システム間のデータ互換性や相互運用性がより重要になっている。
本連載では、医療情報システムの効率のよい構築・運用のために標準化が進められている「Integrating the Healthcare Enterprise(IHE)」の取り組みについて、一般社団法人 日本IHE協会のメンバーがその概要や各分野(ドメイン)での展開、導入事例などを紹介する。第1回となる本稿では、放射線医学総合研究所の奥田保男氏がIHEの概略を解説する。【編集部】
IHEとは何か?
IHEとは「Integrating the Healthcare Enterprise」の略で、医療情報システムの相互接続性を推進する国際的なプロジェクトである。IHEに基づく活動を一言で表すと、「医療機関や地域連携などの情報伝達のフローを分析し、これを基に“『DICOM』や『HL7』などの医療情報に関する標準規格をいつ、どのように利用するのか”について、ガイドラインの策定などによって標準化を推進する」ことである。その活動の狙いは、決してシステムの画一化を目指すことでなく、質の高い医療の提供や、より優れた医療関連製品を生み出すことだといえる。
日本で推進活動を行う日本IHE協会
IHEが最初に確立されたのは北米であり、放射線領域から始まった。その概念は世界各国で受け入れられ、世界20カ国以上にまで広がっている。日本では日本IHE協会(IHE-J)が、IHEの普及や促進を目的として活動しており、以下のような領域(ドメイン)に分かれている。
- 放射線
- 放射線治療
- 循環器
- 臨床検査
- 病理・臨床細胞
- 内視鏡
- 眼科
- PCD(Patient Care Device)
- IT(IT Infrastructure)
各ドメインはさらに企画部門(企画委員会)と技術部門(技術委員会)に分かれており、企画委員会は医療施設で実務に携わる医師や技師、学会などの関連団体のメンバーで構成される。技術委員会はベンダーや医療施設の医療情報システム管理担当者で構成される。このようにユーザーとベンダー側の双方の視点から活動を行っていることが特徴的である(図1)。
なお、委員(会員)は公募されており、2013年8月時点では、103の企業・団体会員、65人の個人会員がいる(日本IHE協会への入会は公式Webサイトに情報が掲載されている)。
「標準」「標準化」とその効果
IHEを解説する前に「標準」「標準化」という言葉を考えてみよう。広辞苑第5版(岩波書店)によると、「標準(Standard)」とは「(1)判断のよりどころ、(2)在るべき形、手本、(3)一番普通の在り方」と定義されている。また、「標準化(Standardization)」とは「(1)標準に合わせること、(2)工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること、これによって互換性を高める」と定義されている。これらの定義を踏まえると、標準とは、「ルールや規則・規制などの“取り決め”」のことであり、標準化とは、「標準を意識的に作って利用する“活動”」のことだと言い換えることができるだろう。
また、標準化については「画一化、あるいはベンダーの特色を奪い去るもの」と誤解される場合もある。しかし、実際はそうではない。なぜならば、以下のような標準化の効果があるからだ。
- 連携仕様などが明確になり、ベンダーの垣根を越えた相互理解が図れる
- システムの相互接続性などが確保され、低価格化につながる
- ベンダー横断的な統一的な製品の評価を行うことができるため、製品の品質が確保され、安全性が高まる
- 標準化された部分が多くなれば、保守要員への教育も含めてシステム保守性が高まる
- ベンダーそれぞれの特色を出す部分に技術を供給できる
上記を踏まえると、広い視野・あるいは長期的な視野から見れば、標準化することはユーザーにもベンダーにも多くのメリットをもたらことは明白だといえる。
なぜIHEが必要なのか
DICOMやHL7などの標準化された規格があるならば、それを利用すればガイドラインは必要ないと思われるかもしれないが、実はここには落とし穴がある。標準規格の多くが特定の地域、医療機関を想定しているわけではなく、各国や各医療機関の制度や慣例を広く考慮して策定されているからだ。
逆説的にいうならば、これらの事情を網羅しているため、例えば、1つの項目に対して複数の選択肢(あそび)が存在している。そのため、各ベンダー、あるいは各製品によって、標準規格の解釈が異なる場合がある。
例として、「オーダー番号」をシステム間で連携する場合を示す(図2)。A社とB社のシステムでは同一規格に準拠していながら、利用している領域が異なるため、規格としてはどちらも誤りではないにもかかわらず、情報が連携されない事態を招いている。
IHEでは、医療機関あるいは医療機関間で複数のシステムや医療機器を接続したり、円滑な情報連携を行うために、実際のワークフローを想定して障害となる問題を洗い出す。その後、対応方法を検討し、「標準規格をいつ、どのように、どう使うか」を取り決めて文書化している。これを基にベンダーが製品やサービスを作ることで、システム同士を接続できないという事態を回避することができる。
基本的な用語解説
利便性の高いワークフローを継続的に実現するために、ユーザーの多くがベンダーを問わないシステム連携をより安価で容易に実現することを望む。これを実現するために想定したワークフローをIHEでは「統合プロファイル(Integration Profile)」と呼んでいる。そして、この統合プロファイルに沿ったシステム連携を実現するための標準規格の使い方を示したガイドラインを「テクニカルフレームワーク(Technical Frameworks)」と呼ぶ。
これらのドキュメントを読むためには「アクタ(Actor)」「トランザクション(Transaction)」という言葉を最低限理解する必要がある。アクタとは「検査を行う(Acquisition Modality)」「医師からの依頼情報を受信する(Department System Scheduler/Order Filler)」「画像を保管する(Image Manager/Image Archive)」「画像を表示する(Display)」といった“機能”を表すものである。電子カルテなど複合的に機能を集約したシステムを表すものではない。
そして、トランザクションとは、これらアクタ間のやりとりを示すものである。例えば、DICOMに示されている「Modality Worklist Management(MWM)」を利用して、医師からの依頼情報を受信し(Department System Scheduler/Order Filler)、検査を行う検査機器(Acquisition Modality)へ患者情報を送信することなどを示す。
IHEの活動:数日間にわたる「コネクタソン」などを実施
IHE-JやIHE InternationalなどのIHE推進団体は、前述した医療現場での統合プロファイルの分析、テクニカルフレームワークの策定の他、コネクタソン(詳細は後述)、IHEの普及活動、実装製品の医療現場への導入などの活動を行っている。この一連のサイクルを「IHEサイクル」と呼んでいる(図3)。このサイクルによって一度製品としてリリースされた後も、統合プロファイルやテクニカルフレームワークが医療現場のワークフローのニーズに合っているかどうかを検証し、改良できる仕組みになっている。
一般的にシステムや医療機器を施設に導入した際には、実際にデータの送受信を確認する接続テストを行う。これと同様にIHEのテクニカルフレームワークを実装したシステムや機器もデータ送受信の接続テストを行う必要がある。しかし、対象となるシステムや機器は多数のベンダーに及ぶため、ベンダーごとに個別に行うことは不可能である。そこでIHE推進団体では年に一度、テクニカルフレームワークを実装したシステムや機器を一堂に集め、数日間にわたる接続試験を行っている。この長時間にわたる接続テストを「コネクト」と「マラソン」を合わせた造語で「コネクタソン」と呼んでいる。このコネクタソンの結果は一覧表となっており、日本IHE協会の公式Webサイトから入手できる。
今回は、IHEの概要について述べた。次回からは各ドメイン単位でのプロファイル説明などを行うことを予定している。なお、各施設においてIHEを導入する際に、プロファイル単位で行う必要はなく、利用したいアクタ、あるいはトランザクション単位で構わない。これはランダムに生じるシステム更新に合わせて適宜適用することも可能という意味に通じる。
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