怖いのはロックインよりも現状維持
“変化こそ全て”――協和発酵キリンがクラウド+「EVO:RAIL」を選んだ理由(2/2 ページ)
EVO:RAIL――ハードとソフトが一体化したVMware環境
協和発酵キリンでは、特殊事情によりクラウドではなくオンプレミスを選択せざるを得なくなった場合でも、仮想化を前提にしたシステム構築を条件にしている。篠田氏によれば、今回のCSV対応について「クラウド移行は無理でもVMware上での構築なら可能」とソフトウェアベンダーから回答を引き出していた。VMwareであれば過去にも多くの経験が社内に蓄積されている。検討を開始するうちに目についたのが、2014年にリリースされたばかりのアプライアンスであるEVO:RAILだった。篠田氏は「ハードとソフトを別々に調達する必要がなく、さらに標準的な仕様である点を評価した」と語っており、2015年3月にある国内SIerに自ら声を掛けて評価を行い、同年4月には購入を決定した。「これまで仮想マシンの設計が必要だったステップを全てスキップできた。ハードとソフトという2つの設計部分に手を掛ける必要がない、これはコスト削減効果を考えると非常に大きな変化だ」と話す。
ハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品としてのEVO:RAILは発表からわずか1年しかたっていないにもかかわらず、導入企業が劇的に増えている製品だ。その大きな理由の1つが、篠田氏も指摘している通りハードとソフトの設定をユーザー側がスキップできるところにある。ユーザーはほとんど手間を掛けることなく仮想環境を構築できるため、ビジネスにより集中しやすくなる。また、オールインワンのスケーリング機能を備えたアプライアンスであるため拡張性も確保しやすい。協和発酵キリンが購入したEVO:RAILは1台だが、篠田氏は「もう1台購入してもいいかと考えている」という。アプライアンスならバージョンアップにも対応しやすく、ただ横につなげていけばいい。不要になったら機械を捨てるだけという手軽さも魅力の1つだ。
EVO:RAILはまだ新しい製品だけに、国内企業での導入事例を聞く機会は少ない。だが篠田氏は「新しい製品だからこそ、VMwareやSIerも失敗したくないという思いは強く、確固たる実績を残したいはず。一方で当社がEVO:RAILを選んだのはコストダウンにつながるから、そしてコンパクトなシステムに移行することでより効率化された世界へ行くことができるから」と語り、新しい製品を取り入れることに対し、過剰に警戒する必要はないと強調する。「昔とはコンピュータパワーが全く違う以上、動いているシステムは積極的に変えていかなくてはならない。変化ができないシステムなど言語道断」という篠田氏の言葉に、変化を前提にしたシステム構築の重要性を実感する。
ハイブリッドクラウドは“オンプレミスtoクラウド”から“クラウドtoクラウド”へ
協和発酵キリンは現在、多くのシステムをAWSで稼働しているが、今後は「ハイブリッドクラウド化は避けられないだろう」と篠田氏は予測している。EVO:RAILを選んだ理由の1つは、将来的にVMwareが提供するパブリッククラウド「VMware vCloud Air」への移行も検討しているからだという。ただし「現時点では、AWSと(vCloud Airも含め)他のパブリッククラウドでは、あらゆる面で差が大き過ぎる」と篠田氏は指摘する。「AWSにこれだけシステムを載せていると、さすがにわれわれも簡単にそこから動くことはできない。ただし、それがロックインされた状態であるとはあまり思っていない。仮にロックインされているとしても、ハードウェアの調達に苦しんでいた時代に戻ることはしない」と篠田氏。大切なのは、ロックインに必要以上の危機感を持つことではなく、現時点での最適なシステム構成を常に考えながら選択していくことだという。
今後は「オンプレミスとクラウドを併用するハイブリッドクラウドよりも、クラウドからクラウドへの移行を可能にするハイブリッドクラウドを目指していく」という。複数のクラウドを扱うにはコストや管理といった面でまた新たなノウハウが求められるが、変化こそがシステム構築の指標であるならば、それに挑戦するのがIT部門の仕事だともいえる。「現在はグローバル化を考えたシステム構築に力を入れている。それぞれの地域でもローカルサービスを提供していくために、今後は現業に詳しいスタッフを(IT部門に)加えていきたい。中核となるデータモデルを担当する人はいるので、その上のレイヤーを拡充していくことを視野に入れている」と篠田氏。クラウドに安住するのではなく、クラウドだからこそダイナミックな変化を受け入れていく、その覚悟が今の企業ITに求められている。だとすれば、IT部門が恐れるべきはロックインではなく、変化を拒み、現状維持を求め続ける姿勢なのかもしれない。
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