学校が知るべき「家庭内IT」の今【前編】
中高生の家庭では「LINE禁止」「ネット制限」は“常識”ではない(2/2 ページ)
「けがをしながら慣れさせる」を基本方針に
私が子どものIT活用に関する基本方針として意識してきたことは、「けがをしながら慣れさせる」ことだ。そのためiPod touchには基本的に、URLフィルタリングをはじめとするセキュリティ対策は一切施していない。娘は、私からインターネットの使い方やその危険性などを教わるまでもなく、インターネットにある情報やそこで活動する人々から多くを学ぶことができたと考えている。
子どもが巻き込まれる重大事件は、被害者と加害者とのやりとりにLINEをはじめとするコミュニケーションツールが利用されていただけで、「LINEが原因だ」などと報道されることがある。だがWebの世界だけで完結するこうしたコミュニケーションツールは、他のコミュニケーション手段と比べて特段リスクが高いわけではないと私は考えている。大きな事件に発展するのは、コミュニケーションツールが原因なのではなく、知らない人と繁華街などで会ってしまうからだという認識に基づく。
幸いなことに、“炎上”騒ぎもインターネット詐欺も発生せず、娘は2016年3月に中学校の卒業式を迎えることができた。私や家族が分からない程度に、いろいろと失敗や学ぶこともあっただろうし、人知れず“すり傷”ぐらいはしているだろう。子どもは、私や皆さんがかつてそうだったように、大人の知らないうちに成長している。私としては、成長する機会を安易に奪わなかったという意味で成功だったと信じている。個人的には、親が出て行って謝らなくてはならないぐらいのトラブルがあるかもしれないと考えていたが、幸いにもそのような機会はなかった。
こうしたやり方には当然リスクもある。いたずら好きで親の言うことをあまり聞かない子どもや、人が多く集まる場所に行きやすい子どもの場合、「けがをしながら慣れさせる」方針を採ると、事件や事故に巻き込まれてしまう可能性は高まるかもしれないし、逆に友達に「けがをさせてしまう」ことにもなりかねない。私の娘の場合は幸いなことに、こうした条件にはたまたま当てはまらなかっただけのことであり、全ての子どもにとって適切な方針であるとは限らない。
実際、私の家庭でも子どもに合わせて制限の内容を変えている。娘より2学年下の息子は、同じ中学生でも少々やんちゃなところがあることから、リビングに置いた共用PCと携帯ゲーム機でのインターネット利用しか許していない。興味深いのは、息子が最近、私の寝室のテレビであればインターネット接続が可能だということを発見したことだ。子どもがインターネットで何を見ているかは、閲覧履歴を見なくても分かる。動画共有サイトを見ていれば、関連動画として子どもが「こっそりと見たいアニメやゲーム関連の動画」が出てくるからだ。
息子が寝室のテレビでインターネットを利用していたことは、もちろん想定外だったが、意外なことに子どもの嗜好の変化や普段の行動などにも気付きやすくなる効果があった。また、それなりに制限された環境の中で、自分なりに活用を拡げる姿勢は、むしろ将来的なITリテラシーの向上につながるかもしれないと考えている。
成長とともに制限をなくす
私は娘の高校入学を機に、ついに娘にスマートフォンを買い与えることにした。高校に入って外出の機会が増えても、連絡を取りやすくするためだ。今度はiPod touchとは異なり携帯電話回線による通信が可能なので、今までのように場所の制限なくインターネットが利用可能になる。何かしらの制限をした方が安心ではあるが、「けがをしながら慣れさせる」という基本方針は貫く考えだ。
何が怖いのかも分からない子どもに、何の準備や説明もせず、スマートフォンのようなリスクがあるものをただ渡してしまうのはやはり問題がある。だが禁止事項や制限を設けて、一定期間だけインターネットにはあたかも脅威がないかのような環境を作り上げたとしても、脅威そのものが消えるわけではない。むしろ制限を解除した途端、何も知らずに危険を全身に浴びてしまう状況を懸念している。これでは、何の装備も無い普段着のような格好で危険な戦場に放置することと同じことだというのが、私の考えだ。
ただし、最低限の状況把握ができる仕組みは施しておきたい。何もスパイウェアのような行動監視用のアプリケーションを潜ませるようなことをするつもりはない。Appleが提供する「iPhoneを探す」のように、デバイスの現在位置が確認できる手段があればいい。スマートフォンが盗難・紛失に遭ったときに使えるのはもちろん、娘に万が一のことが起こったときにも居場所が分かる。
子どもの成長とともに、その活動範囲は拡大する。将来的に大学へ進学して一人暮らしをする可能性があることも考慮すると、家庭からではIT活用について見守ることすらできなくなるかもしれない。そんな場合でも娘の居場所さえ分かれば、現実空間での事件や事故の対処がしやすく、リスクを減らせるはずだ。ただし“巣立ち”の前にはスマートフォンを全くの制限なしで利用させて、それを保護者の最後の仕事として黙って見守ることにしたい。自分で考えて行動できる大人になるために、経験を積む機会を減らさないようにしたい。その考え方を具現化したのが、筆者が初めて娘に持たせるスマートフォンのセキュリティ設定だったのだ。
以上、私の家庭でのIT活用方針について紹介した。繰り返すが、これは家庭内IT活用の一例であり、家庭が違えばIT活用の方針は全く異なるはずだ。子どもにIT製品を全く買い与えない家庭もあるだろうし、インターネットの利用に多くの制限を課す家庭もあるだろう。教育機関は、学習者の家庭内IT環境は同じではないことを前提に、情報/ITリテラシーや情報モラルの教育を進める必要がある。ではどうすべきか。後編では、その具体的な解を示す。
執筆者紹介
武田一城(たけだ かずしろ) 日立ソリューションズ
情報セキュリティ、システムプラットフォーム、オープンソースなどさまざまな分野のマーケティング業務に従事。現在は特に学校IT分野における市場調査や企画に重点的に携わる。2011年より日本PostgreSQLユーザ会の理事を兼務し、代表的なオープンソースデータベース「PostgreSQL」の普及啓発活動も行っている。
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