今後の行方をエキスパートが考察
トランプ政権と医療ITの未来を予想する人々 「オバマケア撤廃」の影響は?
次期トランプ政権の下で米国の医療ITの将来はどうなるのか。医療ITの専門家が先行きを展望し、医療ITが果たすべき役割をあらためて解説する。
2016年11月8日、第45代米国大統領に共和党候補のドナルド・トランプ氏が選ばれ、多くの報道機関が「驚くべき番狂わせ」と評した。この選挙結果に多くの人が動揺し、今後の米国の行方に思いを巡らせているが、医療ITに携わる多くの人も、これからどのような変化が起こるのかと身構えている。
トランプ氏は自身のWebサイトで、「トランプ政権初日に、オバマケアの完全撤廃を議会に求める」と宣言していた。選挙後に同氏は、この方針を一部修正する可能性も示唆しているが、多くの人が、トランプ政権の誕生が医療ITの将来にどのような意味を持つかを考察している。
「先行きは予断を許さない」。米国保健福祉省(HHS)の国家医療IT調整室(ONC)の広報担当者はそう語った。
だが、米国医療情報学会(AMIA)の公共政策担当バイスプレジデント、ジェフ・スミス氏は、以下の取り組みに関連する医療IT分野は、トランプ氏の政策の影響を受ける可能性があると、電子メールで指摘した。
- Cancer Moonshot(がん撲滅ムーンショット):ジョー・バイデン副大統領の旗振りの下で、医療ITの利用を含むがん研究を推進する取り組み
- Precision Medicine Initiative:ゲノム科学の利用などによる新しい疾患治療法の研究を集約する、バラク・オバマ大統領が立ち上げた取り組み
- BRAIN Initiative(Basic Research through Advancing. Innovative Neurotechnologies Initiative):革新的な技術の開発、応用により、脳の理解を深めようとする、大統領が推進する取り組み
「これらは全て、主に現在のホワイトハウスの最上層部が持っているオープンな考え方や興味に端を発した取り組みだ。上院と下院がこれらの継続に必要な資金を提供するか、トランプ政権がこうしたプロジェクトを優先するかは不明だ」(AMIAのスミス氏)
また、これまでのvalue-based care(バリューベースケア:量ではなく価値に基づいて医療機関に報酬が支払われる医療サービス)の進展が滞りかねないと懸念する向きもある。トランプ氏は公約で、オバマケアの中心をなす「Affordable Care Act(ACA:医療費負担適正化法)」(注1)の完全撤廃を掲げていたが、この連邦法が多くのバリューベースケアの取り組みにつながったからだ。
注1:正式名称は「Patient Protection and Affordable Care Act(PPACA:患者保護および医療費負担適正化法)」
だが、スミス氏は、バリューベースケアの進展が滞ることはないだろうと見ている。「既に進んでいるバリューベースケアの取り組みの多くは、強く支持されている」(同氏)からだ。
法律事務所のBradley Arant Boult Cummingsで医療ITの案件を担当するエイミー・レパード氏も、スミス氏と同意見だ。レパード氏は、バリューベースで診療報酬が支払われる医療への移行を促進するMACRA(Medicare Access and CHIP Reauthorization Act of 2015:2015年メディケアへのアクセスおよび児童医療保険プログラム改正法)のような新しい規制に関しては、大きな変化はないだろうと予想している。
「というのも、MACRA / MIPS(Merit-Based Incentive Payments System)(注2)により、EHR(Electronic Health Record:生涯健康医療電子記録)の有意義な活用や、医療の質と実績の報告をベースに、メディケアにおける診療報酬支払い方式の改革を目指す動きは、党派を超えて非常に強く支持されてきたからだ」と、レパード氏は電子メールで説明した。
注2:MIPSは、医師による診療の質を一定程度反映させた診療報酬支払い方式
「こうした改革の取り組みは順調に進んでおり、2017年1月1日からは、保健福祉省のメディケアメディケイドサービスセンター(CMS)が2016年10月に発表した最終ルールが導入される。EHRや医療ITは引き続き活発に活用されていくだろう」(レパード氏)
しかしスミス氏は、CMSイノベーションセンターは懸念材料になりそうだと考えている。「最近、批判の的になっている。イノベーションセンターは、医療情報の継続的な分析に不可欠だが、議会が価値を認めるかどうかは不明だ」と同氏は電子メールで指摘した。
だが、医療ITの担い手やONC、College of Healthcare Information Management Executives(CHIME:医療情報管理エグゼクティブ学会)といった組織は「何が起こっても、医療ITの将来とそのミッションは“医療のより良い提供”にあり、それが変わることはない」とあらためて強調している。
「国を二分した選挙戦が終わり、われわれはこれからも力を合わせ、より良い医療提供システムを構築していかなければならない」と、CHIMEのプレジデント兼CEOを務めるラッセル・ブランゼル氏は声明で述べている。
「連邦政府と医療プロバイダーは数十億ドルと数えきれない時間を、複雑な情報システムの展開や医療のデジタル化に投資してきた。われわれは、そうした取り組みの成果が目に見える段階に来ている。医療ITは、医療の質、安全性、効率の向上の原動力となっている」(ブランゼル氏)
ONCの広報担当者は、「ONCのミッションは、医療ITの活用により、個人とコミュニティーの健康と福祉の向上に寄与する取り組みと、医療ITを肝心な状況で簡単に利用できるようにする取り組みとを継続することだ」と述べた。さらに、「ONC幹部は、次期政権への移行がスムーズに進むよう尽力する」と付け加えた。
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