予測分析で「ベテランの勘」を強化
“クルマ離れ”時代に新車販売数を伸ばした、中堅企業のビッグデータプロジェクト(2/2 ページ)
いざシステム導入、最初の壁はベテラン営業の“勘”
そこで次にTCSが選んだツールが、予測分析ソフトウェアの「IBM SPSS」をベースとした予測分析サービスだった。いわゆるデータ分析ソフトウェアにはSAS Institute製やQlikTech製などさまざまな選択肢がある。しかし、高度な分析をプログラミングなしで実現できるデータマイニングツール「IBM SPSS Modeler」のシンプルさが、少人数で運用するという同社の条件にマッチしたようだ。データ結合や分析の処理過程(分析ロジック)を「ストリーム」という形式で視覚化できるので「ある程度のSQLの知識があれば十分に使いこなせる」と岡田氏は話す。データベースとExcelファイル、CSVファイルなどの結合も同時にでき、ETLツールとして使うこともできるという。「IBM SPSS Modelerを使えば、担当者が自分1人しかいなくても分析と効果の検証ができ、コストパフォーマンスが高いと感じました。ただしグラフィカルな機能は少ないので、レポーティングはMicrosoft Excelを利用しています」と岡田氏は説明する。
「『膨大なデータを活用することで、営業成績は上がり、営業活動が効率的になります』というのが、この予測分析サービスの売り文句でした」と岡田氏は振り返る。しかしグループ販社の現場では、営業のベテランほど、こうしたセールストークに対して「その予測は本当に当たるのだろうか」と懐疑的な目を向けてきたという。
営業スタッフが懐疑的だった理由としては、提案の仕方や、資料の見せ方も良くなかったのではないか、と岡田氏は振り返る。「私たちは情報システム会社だからこそ、つい専門用語や数字を気軽に使っていましたが、資料は現場の営業が使う言葉に“翻訳”する必要があったのだと気付きました。その後は、難解な専門用語や数字をなるべく減らすように気を付けました」と話す。
この予測分析サービスは、中心的なグループ販社である東京日産自動車販売がTCSと共同で1年以上の検証を続け、2014年5~9月にトライアルを実施した後、2014年10月にカットオーバーとなった。トライアル初期のサービス内容は、グループ販社が保有する数十万件の顧客データと、販売管理システムの月次受注データなどの因果関係を機械学習を組み合わせて分析することで、再現性の高いビジネスルールやパターンを見つけ出す、というものだ。その結果を基にしてTCSはグループ販社に、顧客の優先順位付けをしたリストを毎月提出していた。
グループ販社の営業スタッフにとっては、勘と経験に基づいて抽出していた従来の顧客リストに、予測分析で優先順位を付けた顧客リストを組み合わせることで、重要顧客を判断でき、優先的にアタックしていくことで成果につながる可能性が高まる(図)。通常、1人当たり400~500件の顧客を受け持っている営業スタッフの「今日はどのお客さまのところに行こうか」と迷う時間を減らすことにもつながる。
東京日産自動車販売では、トライアル開始から半年ほど過ぎたころから、少しずつ売り上げとしての成果が表れだした。「ベテラン営業と若手営業のスキル差を埋めるというよりも、営業スタッフ全体の成績を底上げするような効果が見られました」と岡田氏は話す。TCSが提供していた毎月の予測分析リストに、実際の売り上げの成果が加わり、予測の正解率が分かるようになってからは、営業スタッフもこのサービスに対する見方が変わってきたという。「成果も数値として共有できるようになってからは、『本当に売れるのだろうか』から『本当に売れたんだ』へと意識が変化してきました」(岡田氏)。この成果を受けて、日産東京販売ホールディングスは迅速な経営判断でグループ内へのシステム導入を決定し、2015年04月には傘下のグループ販社である日産プリンス東京販売と日産プリンス西東京販売でカットオーバーとなった。
BIの精度を決めるデータに完璧を求めない
BIツールの導入を決めたケースでは、既に存在するデータの整備(クレンジング)が最初の作業になることが少なくないが、日産東京販売ホールディングスやTCSのアプローチは少し違っていた。当時のグループ販社では、システムのルールで半年間の販売情報しか保有していなかった。そのために、既存データに対して時系列分析を掛けるには、データの保存期間が短いという問題があった。そこで、まずは長期データを蓄積する方針にシステムのルールを変更することにはしたものの「たとえデータが少なくても、少ないなりの予測結果は出る」と岡田氏は考え、データがそろうのを待ってからサービスを開始するべき、とは考えなかった。
実際に予測分析サービスを導入済みのグループ販社からは、「こんなデータを見たい」「こんな分析はできないのか」といった新しい要望が上がってきたという。
営業担当者の能力底上げに貢献する予測分析サービス
グループ販社の営業現場が受け取るレポートは現在、TCSがIBM SPSSで予測した結果をCSVファイル形式で出力し、そのデータをMicrosoft Excelに取り込みグラフ化する、といった形式で作成している。これは、現場の使い慣れたツールに合わせた結果で、レポートの形式は固定していた。だがエンドユーザーからの要望が広がってきたことから、レポーティングツールの導入を検討しているという。
近年ではレポーティング機能が充実したBIツールが幾つも登場しているが、日産東京販売ホールディングスやTCSが注目しているのは、ビジュアル分析ソフトウェアとして評価を得ているTableau Softwareの「Tableau」だ。このダッシュボード機能を利用することで、これまで以上に柔軟で視認性の良い情報提供ができるのではないか、と岡田氏は期待を見せる。
予測分析サービスを導入したグループ販社においては、あくまで感覚値ではあるが「1店舗につき月間でプラス1台程度、売れるようになった」と岡田氏は話す。“若者のクルマ離れ”が叫ばれて久しい近年、しかも鉄道網の発達している首都圏という土地柄を考えると、特筆すべき成長だ。
ビッグデータを経営判断に生かそうと考えるとき、「ビッグデータを使って何かできないか」と考えるケースは珍しくない。しかしこの発想は要望やアイデアが広がりすぎてしまい、プロジェクトとしてまとめることが難しくなりがちだ。日産東京販売ホールディングスの予測分析サービス立ち上げプロジェクトの場合、「グループ販社の営業スタッフの課題や要望は、ビッグデータなら解決できるのか」というように、“業務改善”からスタートを切った。岡田氏がもともと東京日産自動車販売の営業スタッフだったということ、そしてTCSが自動車産業のビジネスに強みを持っていたからこそ、実現可能性の高い業務改善をデータ分析の力で強化し、着実な成果を得ることができたのだろう。
「ユーザー部門の業務改善のために、データ分析で貢献できることは何か」――データ分析プロジェクトを成功させるヒントは、この発想にあるのではないだろうか。
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