シャドーITが陽のあたる場所へ
草の根運動でユーザー数を広げていく「Slack」の“land and expand戦略”とは?(2/2 ページ)
上陸と拡張:シャドーITに脚光
企業ではこれまで、職場で無許可のアプリケーションを使う「シャドーIT」を阻止しようとしてきた。2015年のNemertes Researchの報告書では、無許可のコラボレーションアプリケーションの使用を積極的に食い止めているという企業がほぼ半数に上った。
「それでも従業員がそうしたツールを見つけてIT部門へ行き『これをサポートしてもらえるか』と尋ねることがある。ITの対応は『ノー』と答えるか(その場合、ユーザーは単純に戻ってそれを使い続ける)、またはITが(そのアプリの)主導権を握るかだ」。Nemertesのアナリスト、アーウィン・レーザー氏はそう話す。
コラボレーションアプリの試用を一律に禁止するITリーダーばかりとも限らない。Cloud Security Allianceの調査では、ITリーダーの5人中1人は、自分の会社で使われているシャドーITアプリが幾つあるのかは知らないし、気にもしないと答えた。これは恐らく、無許可のアプリケーションの存在が避けられないことも一因かもしれない。
「エンドユーザーが無許可のアプリを使う目的で、自分たちのためにIT部門のガイドラインをねじ曲げて解釈するという概念は、かなり昔からあった。今新しいのはその規模と範囲だと思う。ほとんど暴風雨の中で雨のしずくを避けようとするようなものだ」とゴッタ氏。
RJMetricsのムーア氏のように、シャドーITから広がったコラボレーションアプリを受け入れる経営者もいる。
ムーア氏は言う。「社内のコミュニケーションやチームの効率的な連携にSlackがどれほど影響を与えたかは本当に印象的だった。そのメリットは非常に大きく、何気ないコラボレーションの会話がクラウドに存在することに関連するリスクがもしあるとしても、そのリスクをしのいでいた」
リスクはもちろん現実にあり、特定の組織にとっては他社よりも重大な懸念が生じる。レーザー氏によると、医療機関や政府機関、金融機関など、厳しい規制やプライバシー制限の対象となる業界には慎重さが求められ、従業員との間で定期的にアプリのポリシーを確認する必要がある。それでもland and expand戦略のトレンドが加速するにつれて職場で起きる文化的なシフトについては全ての企業が認識する必要があるとも言い添えた。
「『自分が必要とする(コラボレーションツールが)与えられるまで6カ月も待てない』というユーザーが増えている。Googleハングアウトのアカウントに登録してビデオ会議をすることもできるし、Slackをダウンロードしてチームメンバーとチームチャットを始めることもできる。全てITがなくても可能だ」(レーザー氏)
アプリストア文化が育むland and expand戦略
Gartnerのゴッタ氏は、主にモバイル端末とアプリストアの普及がland and expand戦略のトレンドをけん引していると述べ、職場でミレニアル世代が増えていることも一因かもしれないと語った。Gartnerの最近の調査では、1980年代以降に生まれたITプロフェッショナルの34%が、雇用主が公式には認めていないコラボレーションツールを仕事に使っていると答えた。1966年以前に生まれたIT担当者の場合、この割合はわずか9%にとどまる。
「ミレニアル世代の方がそうしたアプリを試すことに熱心で、試すことをちゅうちょしない」。この調査を主導したGartnerのアナリスト、ウィット・アンドルーズ氏はそう話し、この世代の方が仕事にコミュニケーションアプリを使うことが多く、会社に与えられたツールで満足することは少ないとも言い添えた。
ただしアンドルーズ氏によれば、新しいツールを見つけて試すのはミレニアル世代の方が多いかもしれないが、この世代だけとは限らない。今やあらゆる年代のあらゆる地位の従業員が無許可アプリを試すようになった。
アラバマ州歳入局のジュリー・マギー局長は、電子メールにうんざりしたことからコラボレーションアプリケーションの試用を始めた。電子メールは誤解を生み、士気を損なうと同氏は言う。
「わずか4語か5語のメールを互いにやりとりしなくて済むよう、組織内の力学を変えられる何らかの方法を探そうとしていた。アプリケーションを使えば少なくとも互いの顔が見えて声のトーンが聞こえ、言葉に出さないそぶりが伝わる」
そんな時に同氏が出会ったのが、メッセージングとビデオ/音声会議、記録、ファイル共有機能を持ったチームコラボレーションプラットフォームのCircuitだった。
「自分の携帯電話でApp Storeからこのアプリをダウンロードし、使ってみて思った。これこそ部内の問題を解決してくれる、と」
マギー氏はまず自分でCircuitを試してみてから、同州の4人の局長にも使うよう勧めた。続いて課長級の約20人にも使ってもらい、そこからユーザーは一気に膨れ上がった。間もなく職員がマギー氏に、他のプロジェクトやチームでもCircuitを使わせてほしいと頼みに来るようになった。次に同氏は州の納税サービスセンター9カ所に同アプリを導入することを決め、現場同士で互いに連絡を取りやすくした。
「政府機関や自治体では新技術を導入して普及させ、職員に使い方を教えるのが非常に難しい。しかし(Circuitを)これほどうまく使うことができているのは、使い始めるのが難しくないためだ。これは簡単に使える」とマギー氏は話す。
たとえ職員や外部の関係者が同アプリを持っていなくても、CircuitのWebビデオ会議の招待状を受け取って会話に参加することができ、ユーザーと非ユーザーの間の摩擦は最低限で済む。
「ただ相手にリンクを送るだけ。すぐに相手も自分のデバイスで話しかけてくる。とても直感的だ」とマギー氏。
今ではアラバマ州歳入局の職員89人がCircuitを使うようになった。同アプリは上陸と拡張を続け、ユーザーはさらに増える見通しだ。RJMetricsでは、ガービー氏が最初にTwitterでSlackの評判を聞いて仕事に使ってみようと決めてからわずか2年で同アプリが社内に行き渡った。同社では今、「Props」と呼ばれるSlackbotも含む多数のサードパーティーツールとSlackを連係させている。従業員がSlackにお祝いのメッセージを投稿して同僚の仕事ぶりをたたえるたびに、オフィス内のテレビモニタ全てにそれが自動的に映し出される。
「これはその日のちょっとした勝利や成功を放送する素晴らしい手段になる。Slackがなければこうしたことは実現できなかった」とムーア氏は話している。
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