モノづくり業界の活用には期待が集まるが……
「Amazon Echo」のような音声操作技術、ビジネスで失敗する理由と成功する条件
「Amazon Echo」や「Siri」のような音声インタフェースのビジネス利用については、製造業での活用に期待が集まっている。しかし多くの企業では、音声操作技術の普及は進んでいない。その理由は。
われわれが過去40年間にコンピュータや情報システムを動かすのに使ってきたものを振り返ると、キーボードやマウス、タッチスクリーンの他、データグローブ(注1)のような変わり種もある。これらの共通点は何だろうか。
注1:手袋型のマンマシンインタフェース。人間の手の動作をセンサーで読み取り、直感的な情報入力を実現する装置。
それは、情報に関する作業のために手が使える人向けに設計されていることだ。では、ツールや機器の操作で手がふさがっている人、例えば、組み立てラインや倉庫、あるいは顧客のオフィスや住宅など、各種の現場で業務に当たるスタッフは、蚊帳の外に置かれたままなのだろうか。
音声インタフェースが現業スタッフの救世主に
消費者の間で大ヒットしている技術が、こうした現業スタッフの助けになりそうだ。「Amazon Echo」やAppleの「Siri」を使えば、デバイスの操作や、ネット情報検索、複雑な作業が全て音声で実行できる。そうなれば、情報にアクセスする必要があるものの、キーボードやタッチパッドを自由に操作できない状況にあるスタッフにとって、どんなに役立つだろう。
製造業の環境では、そうした機能は、スタッフが工場や倉庫のどこにいても、使える必要がある。幸いなことに音声は、現業スタッフを支援するもう1つの技術であるスマートグラスと組み合わせた利用が始まりつつある。スマートグラスでは、人々は自分がしている作業から目を離してディスプレイや紙の書類を見ることなく、情報を参照できる。スマートグラスがヘッドマウントディスプレイとして、チェックリストや地図、製品のドキュメント、コネクテッドマシンからのデータ出力、さらには作業手順を示す動画といった情報を、ユーザーの視界に表示するからだ。これは、支援現実(Assisted Reality)とも呼ばれる拡張/混合現実(AR/MR)技術の一翼を担っている。
こうしたARやスマートグラスは便利なだけに、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインに関する疑問も浮かんでくる。「小さなスマートフォンやタッチスクリーンすら持ったり操作したりできない業務シナリオの下で、従来の入力装置を備えていないディスプレイデバイスから情報を提供されたら、現業スタッフはそれをどうやって使いこなせばよいのか」という疑問だ。
この疑問に答えてくれるのが音声操作だ。「全ての項目に完了マーク」「次のタスクを開く」といった簡単な音声コマンドで、システムのパワフルな機能を呼び出せる。一部のソフトウェアは音声操作により、音声をテキストに変換する口述筆記や、画像やプロセスへの注釈、離れた場所にいる同僚や専門家とのコミュニケーションが可能だ。人工知能(AI)機能の成熟化に伴い、コンテキストベースの質問(「この部品はどこに使うのか」「これでいいのか」のような)に対応できるソフトウェアも出てくると予想される。こうした質問をして答えが得られれば、人々はより少ない労力で、より自信を持って、ミスを軽減しながら、学習と仕事をより迅速に進めることができる。
音声操作の企業導入のハードル
こうした音声操作技術はもはやSFではなく、現実のものになりつつある。AppleやAmazon.com、Microsoftといった企業が多大な投資をして音声操作技術を実用化し、世界中の消費者が便利に使えるようにしている。だが、企業では、音声操作技術はまだ普及が進んでいない。それはなぜか。
大きな理由が2つある。まず、企業のITユーザーの中でIT支出の配分が大きく、注目される度合いが高いのは、デスクワークが主体のナレッジワーカーだ。音声操作を支える音声認識は、こうしたワーカーとはあまり関連がないことから、ビジネスシステムのプロビジョニングを担当するCIOにとって、取り組む優先順位が高くない。だが、企業が「インダストリー4.0」やスマートコネクテッドマシン時代に目を向ける中、製造、物流、フィールドサービスの最前線に立つ従業員を支援する投資も増えていきそうだ。
企業で音声操作技術の普及が進んでいないもう1つの大きな理由は、システム自体の技術アーキテクチャにある。音声認識は、膨大なユーザーとのやりとりを基に常時更新される機械学習システムに支えられている。こうしたシステムが高い認識精度を発揮するには、クラウドで膨大な処理能力とバックエンドデータを使用する必要がある。だが、一部の顧客にとって、パブリッククラウドの実装には、データセキュリティ、アクセス制御、ユーザープライバシー、法的リスクに関する懸念が付きまとう。いずれにしても、理由が何であれ、クラウドへのビジネスアプリケーションの移行を渋る企業は、そうした機械学習に基づく高度な音声認識機能の活用機会を自ら閉ざすことになる。
音声技術を生産性向上につなげるために
音声対応の業務プロセスの導入に慎重なアプローチを取っている企業は、大きなチャンスを逃している。それどころか、仕事のツールとしての音声の活用を先行して進めているライバル企業に打ち負かされるかもしれない。それは顧客やパートナー、そして従業員にとって不幸な事態だ。
例えばARデバイス向けエンタープライズソフトウェアを手掛けるUpskillは、Google、Vuzix、RealWearなど、製造業向けのハードウェアやARデバイスを提供するベンダーに、産業現場のニーズに応える高品質のマイク、頑丈なデザイン、オンボードのノイズ低減機能によって、音声機能を強力にサポートする必要性を説いている。
また、音声エンジンとシステムソフトウェアを開発するUpskillのパートナーには、データセキュリティとプライバシーに関する企業の懸念を伝え、クラウドにおけるデータの処理や保存の方法を顧客が構成、管理できる機能の提供を、強く勧めている。
Upskillは産業界の顧客に、クラウドベースのシステム、特に、ビジネスと従業員の生産性、業務システムの安全性、品質管理の向上に役立つ機能をうたったクラウドベースシステムについては、オープンなスタンスで検討し、取り組むことを勧めている。
コンピュータビジョンや没入性の高いARなど将来の技術が組み合わされることで、高度な技術を扱う製造業などの現場において、音声認識技術は全く新しい可能性を開くだろう。幅広いステークホルダーと対話を重ねることがその出発点になる。
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