多少のデメリットを上回るメリット
米国の遠隔医療事情、使いたくなるメリットと“一抹の懸念”
遠隔地に医療サービス提供を可能にする遠隔医療(テレヘルス)のシステムは、患者が24時間いつでもオンデマンドに医療サービスにアクセスできるメリットから、さまざまな医療機関での採用が始まっている。
2017年8月上旬、米国退役軍人省は、遠隔医療のメリットを目に見える形にした最新の連邦政府機関となった。退役軍人省はホワイトハウスでの記者会見で、退役軍人が医療サービスを利用するのに同省の新しい予約システムと電子カルテのモバイルアプリがいかに役立っているかを示した。このことから、医療のアクセシビリティのような課題に遠隔医療を利用することへの関心が高いことが分かる。その結果として、多くの遠隔医療ベンダーが市場に参入している。そのターゲットは、開業医、病院、保険業者だ。だが、遠隔医療が患者の行動や予後に与え得る影響について懸念の声も挙がっている。
病院や開業医は、コストを下げながらも患者数を増やす画期的な方法を見つけなければならないというプレッシャーにさらされている。そんな中で遠隔医療は、患者が来院する手間を減らし、患者を呼び込むチャンスとなる。だが、開業医、病院、保険業者のそれぞれにとって「遠隔医療」の意味は異なっており、それぞれが異なるメリットと潜在的懸念を認識している。
保険業者はフリーダイヤルの電話サービスを開設し、患者が一般疾患に対する臨床的アドバイスを得るために24時間いつでもかかりつけの医師にアクセスできるようにしている。患者がこのサービスを頻繁には使わないとしても、保険業者にとっては、患者からの健康についてのよくある質問をかかりつけ医に素早くつなぐ簡単な方法だ。保険業者は、現在、このサービスの利用者を支援するため、さらに優れたチャンスを得られる別の手法を採用している。
例えばUnited HealthCare Servicesは、同社のプランの加入者にHY Holdingsの遠隔医療モバイルアプリ「HealthiestYou」を通じて、24時間いつでも医師免許を持つ医師にアクセスできるようにしている。同サービスは、患者に一般疾患の診断、処置、処方を行うとともに、患者の近くの薬局や医療機関を紹介することに重点を置いている。
このサービスで起こり得る課題は、アプリを使ってアクセスした医師が患者の全ての医療記録にアクセスできない点が挙げられる。その結果、治療に必要な患者の病歴やその他のデータを詳しく把握できない状態での処置になる可能性がある。
こうしたデメリットがあるとしても、保険業者は患者が医療機関に直接通院した場合の自己負担金の支払いを避けられるため、この手法はサービスと財政上の大きなインセンティブと見ている。また、保険業者は薬局のレビュー(薬剤使用審査)や推薦状を提供することで、患者をお勧めの薬局に誘導することもできる。
これに対し、病院は遠隔医療に独自の構想を展開し、患者に医療サービスおよびサービスの利便性を提供している。
多くの病院がさまざまなビデオチャットアプリを使用している。医師や看護師はそうしたアプリを通じて患者を診察し、患者の医療記録にアクセスする。遠隔医療サービスを使用しても、全ての医療記録にアクセスできれば、より適切な診療が可能になる。全ての医療記録にアクセスできなければ、複雑な疾患を持つ患者には適切な診療は施せない。遠隔医療ベンダーはこうした複雑な疾患を持つ患者にもサービスを提供できるようになってきている。
残念ながら、遠隔医療ベンダーがこうしたサービスの補償を行いたがらないことや、アプリを使って医師が患者と向き合うにはそれなりのインフラや変更が必要になることから、今のところ全ての病院が遠隔医療に前向きなわけではない。他にも、遠隔医療は新たな患者を引き付ける重要な差別化要因だと見なしている病院もある。
開業医も近年、遠隔医療のメリットを検討している。これは、特に「Medicare Access & CHIP Reauthorization Act of 2015(MACRA:メディケアアクセスと児童医療保険支援計画の期限延長に関する法律)」の下で患者とのかかわりを増やすように求める動きや、他の業績プログラムへの参加を促す動きによるものだ。患者と電子的にやりとりする新たな方法として遠隔医療を追加することで、患者満足度が向上し患者とのかかわりが増える。開業医にとっては遠隔医療が、自身の医療行為に先進医療サービスを追加する新しい方法になる。医師が患者を直接訪問するという従来の往診とは異なるが、遠隔医療は利便性が大きく向上し、柔軟なスケジューリングが可能になると同時に、開業医にとってのリスクが少ない。
遠隔医療のメリットは開業医だけに限らない。一部の専門医は、特定の専門医が不足する地域に住む患者にとって遠隔医療は大きな価値があると考えている。特定の専門医から経過観察治療を受けている患者は、移動の手間を掛けずにその医師に遠隔地から接触できる。医師が電子医療記録(EHR)の作成に多くの時間を費やしているような小規模病院には想像できないことかもしれないが、遠隔医療ができれば、医師を増やすことなく患者数を増やし、さらに現在の仕事量もこなせるようになる。診療時間外に患者をサポートするために電話代行サービスを利用している病院もある。同様に考えれば遠隔医療も、最終的にこのような小規模病院が外部委託できる分野かもしれない。
遠隔医療はかつてないほどに人気が高まり、導入が本格化している。患者も快適な自宅に居ながら医療機関に接触できる利便性から、遠隔医療を利用し始めている。だが、触診(深刻な疾患の場合には必要となる)の代わりに遠隔医療を利用することには懸念もある。患者の健康に影響が及ぶ可能性があるから、こうした懸念に向き合うことが非常に重要だ。遠隔医療ベンダーは、遠隔医療を利用する理由や利用方法をしっかりと患者に伝え、病院に直接出向く必要がある場合はそれを患者に指示することも続けなければならない。
こうした状況の裏側では、ベンダーがモバイルアプリへの患者登録数を増やすために競争している。患者と直接対面して診療する必要がある場合、病院、保険業者、開業医はデジタル社会そのものに戦いを挑むことになるだろう。
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