0.5歩先の未来を作る医療IT
医療ITが普及する5つの条件とは? 遠隔診療を例に考える
ビデオ通話のシステムを利用し、患者が来院せずに診療を受けられる「遠隔診療」の登場は、医療ITに新しい価値を示しました。遠隔診療をヒントに「医療ITが普及するための条件」を考えます。
新しい医療スタイルを求めて、遠隔診療やモノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)などさまざまな先進的な事例を紹介するセミナーが増えてきました。医療は新しい技術を積極的に取り入れ、飛躍しようとしています。
ITを導入する時代からITを活用する時代へ
遠隔診療を導入している医療機関を取材して、筆者はある衝撃を受けました。そこには、従来の枠組みを超えた新しい視点を持った医師たちが、ITの効果を素直に享受しようとしていたのです。ITを導入することが目的であった時代から、ITを活用してどんな効果を得るかという「IT活用」の時代に、わが国もようやくたどり着いたのだと感じました。
遠隔診療の効果
遠隔診療は前回「医療クラウドと遠隔診療の規制緩和は医療のIT化を後押しするのだろうか?」でも紹介しました通り、Webカメラとモニターを通して患者を診療する仕組みです。その形態から「オンライン診療」と呼ぶこともあります。この仕組みは、クラウドコンピューティングやスマートデバイスという技術/製品が実現した、新たな診療スタイルです。
「実際に患者に触れて診察しなければ診断は下せない」という考え方に対して、前述の“新しい視点を持った医師たち”は全く同意しています。この医師たちは、はじめのうちは患者全体の1割か2割ほどしか遠隔診療の対象者とはなり得ないことを十分に理解しているのです。
その医療機関は、引っ越しや出産といった理由から、直接来院し継続的に受診することが難しくなった患者に対して、受診機会を提供するために遠隔診療を取り入れていたのです。遠隔診療を活用している医師の1人は「遠隔診療は患者にとって“お守り”のようなものです。いざというときに使ってもらえればそれでいいのです」と、遠隔診療の意味を説明していました。
「遠隔診療の仕組みがあるだけで、継続的に医師とつながることができ、距離の壁も時間の壁も小さくなる」と、ある医師は語りました。この仕組みは、日本だけではなく世界で受診機会を創造することもできるのです。「かかりつけ医」を推進しているわが国にとっては、遠隔診療が継続受診のための重要なツールであると考えます。
遠隔診療とIoTを組み合わせることで患者情報を集める
遠隔診療とIoTを組み合わせることで、さらに多くの情報を遠隔地で得ることが可能となります。IoTはさまざまな機器がインターネットにつながるさまを表す言葉です。現在では先駆的な医療機関が、さまざまなウェアラブル端末や各種センサーを医療現場に取り入れようとしています。これらの技術を活用することで、遠隔地であっても、血圧や脈拍、体温などのバイタル情報をモニタリングすることが可能になります。また、現地に連携機関があり、医師や看護師がいれば、さらなる治療の可能性が広がります。
遠隔診療やIoTを単なる目新しさによるブームで終わらせていけません。医療現場のスタッフが、本当に医療の質向上に資するものを選び出し、上手に活用することで、これまで断念してきたさまざまなシーンでの診療・治療機会が創出できるでしょう。そこには必ず「患者のために」という視点が大切です。今後これらの最新技術は、多くのエビデンス(根拠)を積み重ね、信用を獲得していく必要があります。そのため、多くの医師がチャレンジし、スピーディーにエビデンスを集める仕組みが求められています。
IT化の普及条件、遠隔診療を例に
筆者は過去15年間、医療のIT化の普及に全力で取り組んできました。一方で「ITは医療現場で本当に役立っているのか」「ITが医療現場を苦しめてしまっているのではないか」ということを自問自答する日々でした。近年、遠隔診療や診療予約システムに代表されるPMS(Practice Management System:医業マネジメントシステム)が医療現場で活用され始め、「ITは医療現場を楽にし、幸せにできる」という実感を持てるようになりました。遠隔診療という新たな息吹に、医療とITが融合して効果を生み出す可能性を認識できたのです。
遠隔診療を例に、医療現場におけるIT化の普及条件を考えてみましょう。
1.ITを活用することで明らかな効果が見込める
ITが普及する最初の条件は、IT活用とその効果が明確であることです。費用対効果ではなく、活用対効果です。遠隔診療の場合、今のところすぐに売り上げ増につながるとは言い切れませんが、患者の受診機会を創出し、医師と患者が継続的につながる効果が得られます。医師と患者の両方が効果を実感できることが大切な条件でしょう。
2.ITを活用しなければ実現が難しい
これまでのように、現在の運用をそのまま置き換える形のIT化は、どうしてもアナログとデジタルの比較になります。一方で遠隔診療のように、オンラインでつながるという新しい診療スタイルが、IT化の普及によって実現しました。これまで存在しなかった価値がIT化によって実現できることは、IT化普及の重要な条件です。
3.規制緩和など政府の後押しがある
遠隔医療や医療クラウドなどの規制緩和は、政府がこれらの技術の普及を促進する行為および、効果が見込めるので門戸を開こうという行為です。これは言い換えれば、超高齢社会を迎える日本において、ITを活用してこの状況を乗り切ってほしいという、政府の願いが込められていることでもあるでしょう。このような機運が医療現場のIT化を後押しすると考えられます。
4.誰でも気軽に導入できる操作性と価格が担保されている
IT化とは、PCなどのデジタル機器の使用を伴います。そのため、誰でも使える操作性と導入に掛かるコストが、普及のための重要な条件となります。遠隔診療が今後普及していくことで、遠隔医療に掛かるコストはさらに低下していき、普及に拍車が掛かることでしょう。
5.患者にとって有益である(医療の質向上につながる)
そして何より、医療機関のクライアントである患者が、そのシステムの利用を支持することが大切です。遠隔診療の場合、「誰のためにIT化を進めるのか」という問いに対して、医療機関は「患者のため」と答えることができます。そのため、医療機関と患者が導入に対する同意形成が可能なのだと考えます。
次回は、「医療」と「IT」のより良い関係づくりについて解説します。
著者紹介
大西大輔(おおにし・だいすけ)MICTコンサルティング
一橋大学大学院MBAコース卒業。医療コンサルティング大手に入社。2002年に医療IT機器の常設展示場「MEDiPlaza」を立ち上げ、企画運営、スタッフ指導、拠点管理などを担当。2016年10月に医療ICT専門コンサルタントとして独立し、MICTコンサルティングを設立。医療機関向けシステムの開発アドバイス、導入アドバイス、医療IT人材の育成などを行う。過去2000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、公的団体を中心に講演を多数実施している。
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