クラウドで薬剤給付管理システムを最適化
高額医療費問題をどう解決? Apple元CEOジョン・スカリー氏の挑戦
AppleとPepsiCoでCEOを歴任したジョン・スカリー氏は、クラウド技術を活用してスペシャリティドラッグ(専門医薬品)の価格を抑え、医薬品の流通とビジネスサイクルを最適化することを目指しているという。
AppleとPepsiCoの元CEOであるジョン・スカリー氏によると、薬剤の取引サイクルにおける非効率性を改善すれば、コストを削減して、医療の質を向上させることが可能だという。医療ITの分野での経験がある同氏は、クラウドベースの薬剤管理システムベンダーであるRxAdvanceを設立投資し、副会長を務めている。スカリー氏は、慢性疾患やその他疾患の処方薬の流通を最適化するために、クラウドベースの薬剤管理プラットフォームを活用することの利点について語った。
本稿は2部構成のQ&Aセッションの第2部である。第1部「Apple元CEOジョン・スカリー氏が提案する、米国の薬剤給付管理システムとは」では、クラウド薬剤管理プラットフォームがどのようにRx(処方薬)のコストを抑えることができるのかに関して幅広い観点でスカリー氏が説明している。
併せて読みたいお薦め記事
ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略
- 製薬企業のIT部門は販促活動の環境変化に備えよ――知っておくべき技術トレンド
- 製薬企業の営業・マーケ部隊をITで支援する2つの方向性とは?
- 製薬企業にもビッグデータの波、「リアルワールドデータ」活用に必要な技術とは
製薬企業のIT活用事例
――クラウド技術は、手頃な価格で薬剤を入手するという目的においてはどのように貢献するのか。例えば高齢者が、自分に必要な薬剤を買うためにカナダまで出向いたりインドから輸入する必要がなくなったりするのか。
スカリー氏:モデルケースを幾つか紹介したい。元来、スペシャリティドラッグ(専門医薬品、注1)や事前承諾薬(注2)は、非常に高価なものである。
※注1:患者数の少ない希少疾患の治療薬や、治療対象となる適応症が狭い治療薬など。
※注2:米国の医療制度においては、保険会社ごとに設定した保険支払い対象医薬品があり、これ以外の薬剤を処方する場合は自己負担額が高額になり、保険会社の事前の承諾が必要になる(これが事前承諾薬)。保険会社の多くは、まず保険支払い対象医薬品を処方するよう医師に促し、効果が見込めない場合には事前承諾薬に処方を切り替えるという方針を認めている。
――HIV感染症やC型肝炎などの薬のことか。
スカリー氏:そうだ。C型肝炎やHIV感染症に関しては、患者が1年間に摂取する薬の価格は10万ドルを超える。このような事前承認薬を摂取している患者は、プロセスと投薬量を管理できることを心から望むだろう。当社では、「Authorize and Manage」(承認と管理)というサービスの提供を開始した。これは、取引サイクルで発生するデータの活用方法を示す好例である。医療について考えるとき、多くの人は電子カルテ(EMR)に注目する。
一方、米国保健福祉省メディケア・メディケイドセンター(CMS)は、医療従事者間の相互運用性を高める計画を立てている。しかし、相互運用があることを望まないベンダーがいるのも事実だ。その理由は、相互運用性がない方が彼らの利益率が高くなるからだ。
――相互運用性がないことは、貴社の事業にどのような影響を与えるのか。
スカリー氏:当社の事業への影響は一切ない。当社では取引サイクルのデータを取得している。このデータは規制機関から要求されるため、医療請求と関連する検査データのために全ての処方を記録しておかなければならない。これは、全てのPBM(薬剤給付管理会社)が実施している。当社が他社と異なるのは、クラウドベースのプラットフォームを基盤としている点だ。また、慢性疾患患者をケアする全ての専門家から取引サイクルのデータを取得し、コスト削減につながるデータを提供できる点点だ。
当社では、EMRに触れることすらない。なぜなら、処方箋医薬品のエコシステムでは取引サイクルの中から必要な情報が全て入手可能で、医療費請求と関連事項のために全ての処方箋医薬品を記録しているからだ。
――薬剤の費用負担についてどのように考えているか。
スカリー氏:当社は長期的なケアが必要な疾患がある患者に焦点を当てている。医療エコシステムの中で最もコストの掛かる部分だ。私たちは入院して長期にわたりケアを受けている患者を1人でも多く退院させ、自宅で医療サービスを受けられるようにする必要がある。そうすることで、患者ははるかに高いQOL(Quality of Life:生活の質)を享受できるだけでなく、彼らが支払うコストも大幅に抑えることができる。特に薬剤に対するコスト削減の効果は大きい。
慢性疾患患者を病院のベッドから自宅に移動できれば、こうした患者の薬剤コストを文字通り何万ドルも抑えることができる。だが、大きな問題が1つある。こうした慢性疾患患者が退院してから30日以内に再入院した場合、現状の医療制度では1日につき1万ドルを超える高額な罰金が科せられる。
医療システムは、出来高払いのシステムから、価値に基づく医療ケアに移行しつつある。個人的には、新政権と新しい議会が、医療保険制度改革法(Affordable Care Act)に抜本的な変化をもたらすか、廃止して別の制度に置き換えるものと信じている。新政府がどのような決断を下すにせよ、メディケア患者については、価値に基づく医療(value-based care)というCMSが掲げてきた基本戦略を変えることはないだろう。
――価値に基づく医療を目標として2015年に制定された「Medicare Access & CHIP Reauthorization Act of 2015(MACRA)」は、両党から大きな支持を得ているようだ。
スカリー氏:はい。MACRAは2017年に施行される。MIPS(Merit-Based Incentive Payment System:診療の質を評価した報酬システム)のスコア、その他のリスクスコア、HEDIS(healthcare effectiveness data and information set:医療保険・雇用者データ・インフォメーションセット)測定値、さまざまなインセンティブと測定値が適用される。MACRAは、米国の全体的な医療システムを出来高払いの制度から価値に基づく医療にシフトさせている。
――テクノロジー業界での経験と、その経験が現在のプロジェクトにどのように役立っているのだろうか。
スカリー氏:私は1980年代初期からハイテク業界に身を置き、企業の設立を手伝ってきた。電気通信業界で働いていたときは、MetroPCSの設立に携わった。私は、あらゆる種類のサービスを提供した経験がある。Hotwireという企業や金融サービス業界で企業の立ち上げを支援した。私が医療業界に足を踏み入れたのは2007年だが、その理由は崇高な目標に携わりたかったからだ。私には消費者としてのバックグラウンドがある。これからも多くの医療システムやサービスが、患者の健康維持と治療において患者自身に大きな役割を担ってもらう方向に進んでいるのは間違いないだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー