「Oracle CloudWorld Tokyo 2017」レポート
箱根湯本の老舗ホテルが考える、顧客満足のためのデータとAI活用(2/2 ページ)
キャンセルを予測し、収益マネジメントに役立てたい
パネルディスカッションで原氏は、今後の取り組みを考える上で、解決すべき経営課題を2つ挙げた。1つ目が「利益の最大化」である。団体と個人の利益率を比べると、団体の方がやはり高い。通常、100人以上の大規模な団体旅行の場合、同じ箱根の他の宿泊施設だけではなく、他の観光地の宿泊施設との競争になる。30室の予約がキャンセルになると、機会損失の影響が個人よりも大きくなる。これまでは予約責任者の経験を基に予約を管理してきたが、AI技術で予約の予測ができれば、収益管理に貢献できるのではないかと原氏は考えを説明した。
これに対し、データ分析を専門とする日本オラクルの石川氏はデモの中で、現在獲得している予約のキャンセル予測を支援するサービスを紹介した。ここで使ったのは、機械学習の機能を持つクラウドBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの「Oracle Data Visualization」だ。過去の宿泊実績データを教師データとする「教師あり学習」で、予約キャンセルの予測モデルを作るのだ。同ツールはモデルの作成から実行まで、全てをGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)の操作で完結でき、プログラミングも必要ない。今後新たな予測モデルを加え、さらにモデルの精度を上げることも可能という。
チャットbotがバーチャルコンシェルジュに
原氏が挙げたもう1つの経営課題は「効率的なロイヤリティー向上」である。
箱根は観光資源が豊富であり、ホテルとしての満足度やロイヤリティーを高めることと同時に、宿泊客に旅行そのものを楽しんでもらえることが重要だ。そのため、ホテルおかだを起点とした観光を提案したいところだが、これまで観光に関する質問は、フロントなどにおいて口頭でされることが主体だった。これではデータとして蓄積できないし、ノウハウの共有もできない。温泉ホテルは他の業界と比較して従業員の離職率も高いため、属人的に根付いたものが流出しやすいという問題もある。
そこで原氏は、Oracle Service Cloudで蓄積したデータを活用する「館内コンシェルジュ」のようなものを構想しているという。観光案内は口頭での説明に加えて、宿泊客のスマートフォンにマップや付随する情報を提供し、現地で参照してもらおうという考えだ。
効率性と利便性の両方を高め、旅行を楽しんでもらえれば結果的にロイヤリティーは向上する――この仮説が成り立つかどうか、デモで示したのがOracle Service Cloudを専門とする熊澤氏である。熊澤氏はOracleのPaaS(Platform as a Service)で稼働するチャットbotエンジンを使い、「ホテルおかだ 仲居さん」というバーチャルコンシェルジュを構築するやり方を示した。フロントエンドでは、「Facebook Messenger」のような一般的なメッセージングアプリを使い、バックエンドでは、チャットbotエンジンがFAQのデータやWebサイトの閲覧履歴から適切な回答をアプリに渡すという仕組みだ。
例えば、「教えて」という漠然とした質問をすると、WebサイトのFAQでよく参照されている質問を5件表示する。次にもう一度「教えて」と尋ねると、重複表示をしないよう、過去に表示したものから内容を変えて別の質問を5件表示する。知りたい質問が一覧にあれば、「回答を見る」をタップすればいい。確認して納得できたら「解決した」をタップする。
宿泊客が実際にホテルにいるという想定では、コンシェルジュ機能はどう機能するのか。ここでも、例えば「近くにコンビニはありますか」などの具体的な質問を送ると、チャットbotは該当する回答を返信する。質問内容がFAQと90%以上合致する場合は、Oracle Service Cloudのスマートアシスタント機能が、該当する回答を直接表示する。チャットbotが解決できなければ、有人対応に誘導することも可能だ。
チャットbotのメッセージはパーソナライズすることもできる。部屋番号や個人を特定する番号を尋ね、予約情報と一致したら「●●さまですね。本日は当ホテルをお選びいただきありがとうございました」「ご不明なことがございましたら私にご質問ください」「本日のお食事は……」といった案内を出せる。その宿泊客がアプリの通知機能をオンにしていれば、食事の時間を知らせることもできる。
原氏によれば、観光ホテル業界のIT化は遅れているという。理由はさまざまだが、その1つとして投資コストという無視できない問題がある。ホテル業は中小企業が多く、オンプレミスのように初期コストが高いシステムには投資をしにくい。国内に約4万カ所も存在する宿泊施設は、それぞれオペレーションが異なり、共通化した開発が難しいというのも問題だ。
クラウドサービスが充実してきたことで、状況は変わりつつある。「クラウドならば、大手の同業と同じツールを、ビジネスに必要な分だけ従量課金で使えます。今後も新しい仕組みを考えていきたいと思います」と原氏は述べた。顧客満足向上をツールがサポートしてくれれば、後は「おもてなし」の中身で勝負できるというわけだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
9
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー