「ガートナー データ & アナリティクス サミット 2018」レポート
アサヒビール×JAL×SOMPOホールディングス、データ活用のための組織と人材を語る(2/2 ページ)
分析部門は組織内のどこに置くのが適切か
データ分析は専門組織(CoE:Center of Excellence)が担うべきか、部門内で実施すべきか。組織の在り方について3人はそれぞれどう考えるのか。
渋谷氏は、CoE型にも部門内型にも、それぞれメリットとデメリットがあると指摘する。CoE型は「分析に必要な専門的な知識はもちろん、ビジネス課題が見つかった場合の分析力、それを解決するための方法を考えて使わせる力を既に持ち合わせている。その一方、現場で直接ビジネスを見ているわけではないので、ビジネス課題を見つけ出すための努力をしなければならない」と指摘。反対に部門内型は「専門的な力では劣るのでツールに頼る部分が出てくる。ただし、自分たちが現場で感じる課題は肌感覚を持って知っているので、ビジネス課題を見つける点では苦労しない」(渋谷氏)。
部門内で分析を担う渋谷氏や山本氏と異なり、まさにCoE型組織に属するのが中林氏だ。ただ、「事業会社の中にもそれぞれデータサイエンスチームがある。彼らが困ったときに助けてあげたり、データ分析の基盤を用意したりというような役割分担」と中林氏が説明するように、SOMPOホールディングスグループでは、全体で見るとCoE型と部門内型のハイブリッド型の組織編制になっている。「現場にいないと解けない課題がある。ビジネスユーザーとコミュニケーションを密に取らないとうまくいかない。一方で基盤の部分はホールディングス側で持った方が投資効率はいい」(中林氏)というのがその理由だ。
アサヒビールでは、ホールディングス側には基本的にIT統括機能はあってもデータ分析の専門組織はない。事業会社の中でいえば山本氏のデジタル戦略部がCoE的な役割を担っていることになる。ただし「全国の拠点にデータ分析をできる人が全くいなくてもいいとは考えていない」と山本氏は強調する。「ビジネス側とどこまで密接であるべきなのかは課題によるが、『Microsoft Excel』で数値を可視化するだけで営業成績が良くなるケースもあるので、そういう意味では部内でデータ分析ができた方がいい」(山本氏)。反対に、画像認識や機械学習を活用した高度な予測をするような場合は、全社的に推進できる専門的な部署が必要となると山本氏は付け加える。
データサイエンティストは不要になるか
Gartnerは「市民データサイエンティスト」という概念を提唱している。CDO(最高データ責任者)がけん引する中央集権型の組織だけでなく、分析力のあるビジネスパーソンが、自ら現場の課題を解決するようになってくるイメージだ。そうなれば、データサイエンティストは不要になるのか。
中林氏は「CoEは一時的なもの。将来的には自分の仕事はなくなればいいと考えている。簡単な機械学習や線形回帰といったことを、Excelのようなツールを使って現場の人が自分でできるようになる状態が目指すべき姿」と持論を述べる。
市民データサイエンティストが増えることは望ましいが、誰がそれを担うべきなのか。これについて渋谷氏は「大変かもしれないが、人材は社内で育てなければいけない」と断言する。業務が分かっていなければ、分析をしても良い結果は出ないというのだ。山本氏もこれに同意して「自社のビジネスについて24時間365日ずっと考えているのは、やはり自分たち。データ分析もビジネスについて分かっている人がやった方が早い」と語る。
現場に近いところで分析が盛んになされるようになれば、アウトプットがたくさん出てくることは間違いない。それを支えてくれるのがテクノロジーだ。ツールの力を借りることは必要不可欠といえるが、それにどの程度まで頼っていいのか。
渋谷氏は「データ分析のプロセスにおいては、目的設定からデータ準備、特徴量(説明変数)の考案、データ加工までの工程が大半を占める。データサイエンスの花形である予測モデル構築が占める部分は、実は少ない。また、この部分はツールで補うこともできるので、実際にはもっと減っている印象だ」と語る。
特に大変なのが最初のアイデアを作る部分。これは業務知識がないとできないし、データ準備も、社内に散在するデータを調達する上で、情報収集力や人脈など属人的なスキルが求められる。そして特徴量の考案はアイデアが最も重要なパートとなる。「Garbage In Garbage Out(ごみを入れてもごみしか出てこない)という言葉がある通り、ここがうまくできないと、どんな予測モデルを持ってきても良い結果を導き出すのは難しい」と渋谷氏は続ける。
もっとも現在では、特徴量の抽出も可能なツールさえ登場しており、分析のハードルはますます低くなることが予想される。しかし、ツールへの依存度が高くなったとき、「なぜそうなったか」というロジックを人間が理解していなくてもいいのか。
中林氏は「テーマにもよるが、もしブラックボックスになっていても、ディープラーニングで出てきた答えの精度が高いのであれば、それに基づいて意思決定するというマネジメントはありだと思う」と語る。
AIが導き出す答えがどうしてそうなっているのか、どこまで理解していなければいけないかを判断するのは、なかなか難しい。山本氏は「どちらかというとそれを分かっていたいとは考えている。B2B(企業間取引)では、お客さまである販売店に説明するのは営業担当。『明日は気温が30度になるのでビールが売れます』では施策の提案が全くできない。どういう因果関係があってこうなっているのか、どういう特徴量を入れたから精度が上がったのか把握していないと、ビジネスに落としていくのは難しい」と語る。
とはいえ、ツールに頼れるところは大いに頼ればいいのは言うまでもない。渋谷氏は「ツールを使って分析ができる人はどんどん増えていくが、出てきた答えが正しいのかどうか、判断する人は必要。市民データサイエンティストの指導、育成、支援、監査を担うデータサイエンティストは一部に残る」と指摘しつつ、ツールを使って分析ができる人々がますます増えていくことに期待をにじませる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
AIで人を減らした企業がもう心変わり 「AIブーメラン現象」の実態
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー