「明日はわが身」の情報セキュリティ
仮想通貨不正流出事件から考える、従業員のセキュリティ教育を軽視してはいけない理由(2/2 ページ)
デジタルデータの価値が高まるほど、サイバーセキュリティの必要性も高まる
現代は仮想通貨を含め、デジタルデータの価値がどんどん高まっています。その理由は、デジタルツールを使うことによって圧倒的に時間を短縮できるからです。「時間革命」が起こっていると言い換えられるかもしれません。「デジタル革命/時間革命」のうねりに気が付いた人は、率先して自分の生活や仕事にデジタルツールを取り込み、恩恵を受けようとします。そして、その恩恵がもたらす果実の大きさを実感し、ますますデジタルシフトが進みます。そうでない人はアナログツールに囲まれたまま、時間がゆったりと過ぎていきます。
どちらかがいいのかは、その人の価値観の問題なので、一概に判断することはできません。だから今後は、デジタルワールドの代表格であるサイバー空間に軸足を置く人と、リアルワールド(リアル空間)に軸足を置く人とで、住む世界は大きく違うものになるのでしょう。この2つは、まるで別種の世界に見えるかもしれません。
デジタルツールを使いこなす人は、時間や効率の短縮という圧倒的なメリットを享受できます。ただしセキュリティリテラシーを高めていなければ、コインチェック事件のようにあっという間に資産を奪われてしまう可能性があります。
サイバー空間に軸足を置く人と比べれば、リアル空間に軸足を置く人にはゆったりとした時間が流れていることでしょう。サイバー空間の住人が忙しく動いている姿は「なんだか忙しそうだけど、自分には関係ない」と感じるかもしれません。しかしデジタルツールに全く関与せずに生きるのは難しい時代です。無防備な状態でサイバー空間に片足を踏み込んだ瞬間に、サイバー犯罪者の餌食になってしまうリスクがあります。
だからこそ、全ての人が漏れなく、サイバーセキュリティに対するリテラシーを高めないと、自分の身(資産)を守れない時代に突入してしまった、と痛切に感じるのです。
事件を「他山の石」として、社内のセキュリティ教育強化を
コインチェック事件の被害者の多くは、どちらかというとサイバー空間に軸足を置いていた人でしょう。とはいえリアル空間に軸足を置いていた人も、被害に遭遇したケースは皆無ではないかもしれません(想像ですが、例えば仮想通貨の知識は全くなかったが、子供に「もうかるからお金を貸して」と言われてお金を貸した人、など)。
コインチェックは、この事件に対して金銭的補償を実施しています。その後も株取引大手であるマネックスグループの完全子会社化に伴い、経営面やセキュリティ面を刷新して事業継続しています。筆者は、全てのビジネスパーソンがこの事件を自分ごととして捉え、社内のセキュリティ体制の整備や従業員教育の重要性を見直してほしいと考えます。
インターネットがライフラインとして世の中に浸透している現代においては、サイバー空間とビジネス空間を切り離すことは困難です。今回の事件の意味を学び、自分の資産を守るために何をすればよいのかを具体的に考察し、実際に行動に移さなくてはいけません。例えば次のような事柄を一つ一つ整理して、セキュリティ対策を見直すことをお勧めします。
- 自社が保有する重要な情報資産がどのように管理されているのか。これが漏えいしたり、紛失したりすることで、どのようなビジネスリスクが顕在化してしまうのか
- お金をやりとりする端末(例えばネットバンキングを利用する端末)で、インターネットサーフィンやメール開封などの業務をしていないかどうか
- 自社のみならず、ビジネス上取引のある企業(サプライチェーン企業)とのセキュリティリスクについて、きちんと話し合いができているかどうか
- メールの添付ファイルの開封には、標的型攻撃によるPC乗っ取りリスクがあることを従業員一人一人に教育しているかどうか
標的型攻撃で被害に遭わないための、10個のチェックリスト
- 各種主要ソフトウェアは最新バージョンを利用している(ウイルス対策ソフトウェア、OSアップデート、「Microsoft Office」関連ソフトウェア、Webブラウザ、「Java」「Adobe Flash Player」「Adobe Acrobat Reader DC」など)
- 自社が保有する情報資産を分類・整理している
- 情報資産のうち、重要度が高いものを明確に定義している。社内でも共有している
- 機密情報や顧客情報などの重要情報が漏えいしないようなセキュリティ対策を施している(ネットワークを分離する、セキュリティ対策を強化する、など)
- アンチbot機能を有するセキュリティ装置を導入している
- ネットワークの通信状況を可視化し、深夜などに怪しい通信が発生していないかどうかを随時チェックしている
- インターネットバンキングなどでお金をやりとりするPCは、専用端末にしている(他業務では使っていない)
- 標的型攻撃に対する理解を深めるために、従業員教育を実施している
- メールの添付ファイルを安易に開封しないように、従業員に告知・徹底している
- サプライチェーンにある取引企業間の情報のやりとりではメールを使わず、クローズド環境で利用できるメッセージングツールや、ファイル共有ツールなどを利用している
著者紹介
那須慎二(なす・しんじ) CVS代表取締役、CISO代表取締役
大手情報機器メーカーにてインフラ系SE、大手経営コンサルティングファームにて経営コンサルティング、サイバーセキュリティコンサルティングを経て、現在、サイバーセキュリティ対策の専門会社CVS(Cyber Vision Service)およびCISO(Chief Information Security Officer)代表取締役。
日本の中小企業がサイバー被害で大きなダメージを受ける状況を看過することができず「日本にセキュリティのバリアを張る」をモットーに、中小企業向け情報セキュリティのマルチベンダー対応、ならびにコンサルティング活動を実施。難易度の高いサイバーセキュリティ技術を誰にでも分かりやすく伝えることに定評がある。
参考リンク
「小さな会社のIT担当者のためのセキュリティの常識」(Amazon.co.jp)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「明日はわが身」の情報セキュリティ
IT担当者自身がセキュリティ対策を重視していても、経営層や現場に危機感がなくスムーズな承認が得られないことは往々にして起こりがちな問題です。特に中堅・中小企業の場合、経営層が「うちみたいな小さな会社は狙われない」という誤解を抱いているケースも珍しくありません。「明日はわが身の問題」だと理解するために、身近な情報セキュリティの問題と具体的な対策について解説します。
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