今、世界中のハッカーが狙うのは日本企業
ハッカーの意図を読め セキュリティ防御にCDP活用という選択肢
今日の日本は、世界で暗躍するハッカー集団の格好の標的となっているといわれる。なぜ日本が狙われるのか。サイバーセキュリティの専門家が解説する。
カスタマーデータプラットフォーム(CDP)を提供するトレジャーデータが、デジタルトランスフォーメーション(DX)をテーマにしたイベント「TREASURE DATA “PLAZMA” Roppongi」を開催した。本稿ではその中から、ビッグデータ分析を手掛けるAntuitのエグゼクティブバイスプレジデント、クマー・リテッシュ氏による講演「マーケティングテクノロジストが今知るべきセキュリティ脅威」の概要を紹介する。
なぜ日本が世界中のハッカーの標的になっているのか
Antuitはビッグデータ分析専門のコンサルティング企業で、人工知能(AI)技術を活用したサイバーセキュリティ対策事業「CYFIRMA」を展開している。リテッシュ氏はこのCYFIRMA事業の会長兼CEOも務める。
リテッシュ氏がけん引するCYFIRMAは、AI技術を活用した予測的アプローチで、リアルタイムにサイバー脅威情報を提供するサービスだ。発生した攻撃に対策を打つのではなく、攻撃を予見して未然に防ぐことを目的としている。具体的には、ハッカーが活動するダークWeb(通常のWebブラウザや設定ではアクセスできないWebサイト)に「エージェント」と呼ばれる独自開発のbotシステムを送り込み、ハッカー同士のやりとりをリアルタイムで収集。集めた情報から、ハッカーが何に対して関心を抱き、何に攻撃を仕掛けようとしているのかを予測し、防御策を講じる。
同社のシステムを利用してハッカー同士の実際のやりとりを見ていると、日本企業の脆弱(ぜいじゃく)性に目を付けるハッカーが多数存在していることが確認できるという。
今、世界中のハッカーが日本に狙いを定めるのはなぜなのか。リテッシュ氏は理由の一つに、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを挙げる。
「注目されている日本で、派手なハッキングをして名を売りたいと考えるハッカーは少なくない」(リテッシュ氏)
「国家支援型」と「金銭要求型」のハッカー集団
今日、モバイル機器やモノのインターネット(IoT)デバイスの活用が進み、あらゆるものがインターネットに接続されている。利便性は向上したが、その分、ハッキングのリスクも比例して増大しているといえる。
企業が保有する膨大な個人情報、知的財産、特許情報はハッカーにとって格好の標的となる。「日本企業のセキュリティ対策が甘いということは、ハッカーコミュニティーでは広く共有されている話だ」とリテッシュ氏は指摘する。
そもそも、ハッカーは何を目的にハッキングを実行するのか。今、世界で暗躍するハッカー集団は、目的ごとに2種類に分類できるという。
1つは「国家支援型」。国家から支援を受けていると疑われるハッカー集団で、国益を目的としたハッキング活動をする。中国やロシアを筆頭に、東南アジアにも国家支援型ハッカーが存在するといわれる。
国家支援型ハッカーの場合、知的財産や企業の生産性低下、社会インフラの破壊を狙うケースが多い。日本企業を標的に活動している主要ハッカー集団として、リテッシュ氏は「LAZARUS Group」「NECTOR」「APT16」「Fancy Bear」の4つを挙げる。全て国家支援型の疑いがあるようだ。
もう1つは「金銭要求型」だ。ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)はその典型といえる。かつてのランサムウェアは無差別に攻撃するタイプだったが、近年は特定の企業を狙い撃ちする「標的型攻撃」の被害が広がっているのは周知の通りだ。
ハッカーの意図をくんだ対策を
標的型攻撃の手段は年々巧妙になっており、一般的なウイルス対策では不十分だ。リテッシュ氏は「攻撃の裏側にある意図をくむことが重要」だと語る。
標的型攻撃を仕掛けるハッカーは、事前に企業のWebサイトを綿密に調査する。Webサイトの脆弱性を可能な限りなくすのが理想的だが、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)などの補足的手段を利用したWebサイトのセキュリティ強化も重要だ。ハッカーによる偵察活動を早い段階で検知できれば、対策は打てる。
偵察活動するアカウントをただブロックするだけでは対症療法にしかならない。「ハッカーが何を狙っているのか、バックボーンに誰がいるのかまでを推測し、根本的な対策をすべきだ」(リテッシュ氏)
今やセキュリティ対策ツールは、単なる守りではなくプロアクティブ(事前予防型)対策を前提に設計されているものが少なくない。その中でもCYFIRMAは、さらに一歩進んだプレディクティブ(予測的)なセキュリティ対策を提唱する。CYFIRMAでは、ダークWebからリアルタイムに収集したデータを基に、ハッカーの動きを事前に検知し、狙う企業やバックボーンを推測できるという。リスクの種を見つけ、いち早くシャットアウトすることにより、確実なセキュリティ対策を実現できるというわけだ。
AIベースのセキュリティ技術の有効性は、基となるデータの質に依存する。いかにツールが優秀でも、ハッカーの挙動を予測するためのデータがなければ、十分な成果を発揮することはできない。セキュリティに関する価値あるデータを集めて整理し、学習させるのは極めて時間がかかる。
ここで役に立つのがCDPだ。具体的には、CYFIRMAをトレジャーデータの「Treasure CDP」と連携させることで、CDPで収集したIPアドレスをリスト化し、CYFIRMAで収集したデータと照らし合わせて、不審な動きをするIPアドレスをブロックするのだ。
CDPやDMP(データマネジメントプラットフォーム)といえば、一般的にはデジタルマーケティングのためのデータ基盤として知られる。あらゆるデータを統合し、広告配信システムなどと連携させることでターゲティング広告の精度を高めるといった使い方が想定されるツールだ。蓄積された膨大なデータから導き出される人々の行動パターンを、サイバーセキュリティという異分野で応用するという発想は興味深い。
大きなインシデントがあってから対策を検討するという後手の姿勢ではなく、データを活用して先手を打つという「攻めのセキュリティ」へ。IT担当者の意識改革が求められているのかもしれない。もちろん、あらゆるセキュリティ対策に「完全」はないので、引き続き多層防御が重要になることは言うまでもない。
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